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「高倉健の付き人を40年つとめた人」だけが語れること

2020年11月19日 公開
2022年01月26日 更新

山平重樹(ノンフィクション作家)

 

『鉄道員(ぽっぽや)』での名シーン

待てよ、元俳優ともいうことだったな―と、思いながら日比監督の『健さん』を観ているうちに、そういえば、この顔は見たことがあるぞ、確かに健さん映画に出ていたような気がするなあ(なにしろ目立つ顔だ)と思いあたることがあった。

そう思って、改めて健さんの作品を観直し、注意深く見ていると、出てくる、出てくる、『冬の華』『夜叉』『居酒屋兆治』『鉄道員(ぽっぽや)』『ホタル』……等々に、チョイ役でもすぐにそれとわかる目立った場面で登場、エンドロールにもしっかりその名がクレジットされているではないか。

健さん映画ばかりではなかった。他の東映作品『姐御』『激動の1750日』『極道戦争 武闘派』『民暴の帝王』などといった俊藤浩滋プロデューサーの任俠映画にも軒並出ていることが判明したものだから、私は思わず膝を叩き、「あぁ、この人がヤッさんだったのか!」と声をあげてしまったのだった。

『鉄道員(ぽっぼや)』ではヤッさん、北海道南富良野を走るJR根室本線「幾寅」(映画では「幌舞」)駅の駅舎のストーブ前で、京都から来た旅人役を熱演した。幌舞駅長健さんの女房を演じた大竹しのぶから甘酒を茶碗にふるまわれ、それを旨そうに飲むシーンである。

「お世辞やなくて、ほんまにおいしいわ……」とセリフまで入って、ヤッさん、なかなか堂に入った演技が自然で、様になっていた。「あれは旦那から役者として呼んでもらったんですわ。あんなええシャシンに出してもろて、ホンマ嬉しかったですわ」というヤッさん。

出番はそれだけなのに、撮影現場ではいつも健さんの隣りで、まるで監督のように大きな顔をして堂々と振るまっているのがヤッさんだった。

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