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トランプ氏が「20ドル紙幣のデザイン変更」を中止させた理由

2020年11月27日 公開

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

アメリカ国旗

トランプvs.バイデンの米大統領選は世界中からの注目を集めた。ただ、米大統領選の本質を理解するには、共和党と民主党の“生い立ち”から知る必要がありそうだ。大人気世界史科講師の茂木誠氏によると、アメリカという国の成り立ちを紐解くことで、わかるという――。

※本稿は茂木誠著『世界の今を読み解く「政治思想マトリックス」』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

 

「アメリカ・ファースト」はトランプだけじゃなかった!

共和党と民主党の違いを理解するためには、まず両党それぞれの支持基盤である金融業と製造業を見る必要があります。

金融業界の人たちは、世界中で自由に投資をするためには、国境の壁は低いほうがいい、と主張します。できることなら国境をなくし、関税を取り払い、地球規模(グローバル)にヒトやモノやカネの自由な流れをつくりたい。

EU(欧州連合)という形でヨーロッパ諸国が国境線を廃止したようなことを、世界レベルで実現したいと望んでいます。これがグローバリストの考え方です。

それに対して製造業界の人たちは、自由貿易には反対の立場です。自由貿易を進めると、賃金の安い新興国─―たとえば中国でつくられた安い工業製品がたくさん輸入されて、国内の製造業がひっ迫します。

彼らは、輸入製品には関税をかけ、国内産業を守ることを望んでいます。これが経済的ナショナリストの立場です。

この2つの勢力は、それぞれ別の政党を支持するようになります。グローバリストの金融業界がリベラルの民主党を支持し、ナショナリストの製造業界が保守・共和党を支持するという構図ができあがっていきます。

ドナルド・トランプは、「衰退したアメリカの製造業を守るため、中国製品に高関税をかける。労働者の賃金を守るため、不法移民を取り締まる!」と公約し、2016年の大統領選挙で当選しました。トランプは明確な「反グローバリスト」です。

ただし、「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」を掲げる大統領は、実はトランプが初めてではありません。19世紀のアメリカ大統領は、基本的にはナショナリストでした。それは、アメリカという国の成り立ちと深い関係があります。

 

オバマが進め、トランプが中止させた「20ドル紙幣」の変更

アメリカ大陸の東海岸にやってきたイギリス人は、新しい土地を求めて西へと向かい、先住民から土地を奪って勢力を広げていきました。いわゆる「西部開拓」です。

開拓民たちは、過酷な自然や先住民との戦いを通して、「自分の身は自分で守る」という自主独立の精神を育んでいきます。1783年、本国との独立戦争を経て、アメリカ合衆国を建国しました。独立後もアメリカは欧州諸国とは距離を保ち続けました。

19世紀前半、ロシアがアラスカから南下しようとした時、第5代大統領モンローは、「アメリカはヨーロッパ諸国には口を出さない。だからヨーロッパ諸国もアメリカ大陸に介入するな」と米欧の相互不干渉を提唱しました。

これを「モンロー主義」とか「孤立主義」と言い、19世紀を通じてアメリカ外交の基本姿勢となりました。

一方、自主独立の気概を持つ開拓民たちは、自国の政府に対してもこの立場を貫きました。「国防や安全保障は政府に任せるが、それ以外のことは自分たちでやる。邪魔するな」という立場です。

このように個人の独立自尊を求める開拓民精神を「フロンティア・スピリット」と呼び、アメリカの大地に根を下ろしているという意味で、彼らを「グラスルーツ(草の根)保守」と呼びます。共和党の支持層です。

なお、「保守派」とは、それぞれの国の体制の原点を守ろうとする人々のことです。

アメリカの保守派は独立自尊のフロンティア・スピリットを守ろうとする個人主義者ですし、日本の保守派は皇室を中心とする伝統文化を守ろうとする人々です。

これに対して、ソ連や中国の保守派とは、共産主義の原理原則である一党独裁と統制経済を守ろうとする人々のことです。

この「草の根保守」の精神を体現した最初の大統領が、第7代大統領アンドリュー・ジャクソンです。彼は白人開拓農民のために先住民への征服戦争を続ける一方、ニューヨークの金融資本を敵視し、中央銀行の設立に反対しました。

ジャクソンを人種差別主義者だと嫌うオバマ大統領は、ジャクソンの肖像画を執務室から外し、20ドル紙幣のジャクソンの肖像も変更しようとしました。しかし、ジャクソンを敬愛するトランプ大統領は、すべて元に戻しました。

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