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事態はより深刻に…「米中冷戦」の背景にある“中国の宗教問題”

2020年11月28日 公開
2022年03月02日 更新

茂木誠(駿台予備学校世界史科講師)

 

米中冷戦の背景に「叙任権闘争」あり

全世界のカトリック司教の任命権は、バチカンのローマ教皇が握っています。しかし、中国共産党はそれを認めていません。その代わり、無神論の共産党政権がカトリックの司教を任命するという、奇妙な現象が起こっています。

中国では、バチカンが任命した司教も活動していますが、共産党政権は彼らを弾圧しています。見つかれば十字架も教会も破壊されてしまうので、秘密裏に集会を開いているのです。これを「地下教会」と言います。まるで江戸時代の隠れキリシタンのようです。

ところがローマ教皇フランシスコ(アルゼンチン出身)は、ついに中国政府公認の司教を追認する方向で合意しました。この決定に対しては、カトリック教会内部でも批判が起こっています。

自身がカトリック教徒であるペンス副大統領は、中国政府の宗教弾圧と、これを黙認しているバチカンを強く批判しました。

「中国政府は先月、中国最大級の地下教会を閉鎖しました。全国的に、当局は十字架を取り壊し、聖書を燃やし、信者を投獄しています。そして中国政府、明白な無神論者である共産党が、カトリック司教任命という直接的な関与についてバチカンと合意に達しました。中国のクリスチャンにとって、これは絶望的な時代です……」

世俗の政治権力とカトリック教会とが聖職者の任命権で争うことを、「叙任権闘争」と言います。中世ヨーロッパでは、神聖ローマ皇帝ハインリヒ4世が、自分の言うことを聞く司教を勝手に任命していました。

それに対して、ローマ教皇グレゴリウス7世が異を唱え、ハインリヒ4世を破門したのです。ハインリヒ4世はグレゴリウス7世に許しを請いました。これが「カノッサの屈辱」と呼ばれる事件です。

中国とバチカンが対立する宗教問題は、「現代版カノッサの屈辱」とも言えますが、膝を屈したのは「皇帝」習近平ではなく、教皇フランシスコだったわけです。

日本にも仏教系を中心としてたくさんの宗教法人がありますが、中国におけるチベット仏教の弾圧に対して声を上げている団体が、いくつあるのでしょう。

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