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「OECD最下位の日本」も…デジタル化の周回遅れを取り戻すチャンスが来た

2021年03月10日 公開
2022年10月14日 更新

河野太郎(行政改革担当大臣)&宮田裕章(慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授)

DX

人びとに寄り添うためのデジタル化を

――データの運用に関しては、現時点では国民の認識や感情もさまざまです。河野大臣がある講演で「デジタルによって温かみのある社会ができる」と話したら、高齢の女性が「『デジタル』という言葉に対する印象が変わった」と言ってくださったそうですね。それだけ現在の日本では、まだ「データの活用=人間味がない、何か怖い」というイメージが強いのかもしれません。

【河野】個人情報がデータでシステムに紐付けされることに対する違和感があるのだと思います。たとえば、オンラインショッピングをしていて、購買履歴から割り出されたおすすめ商品が出るたびに、「自分の個人情報が知らないところで使われているのではないか」と心配になる人もいるでしょう。

マイナンバーカードに関しても、プライバシー保護の面から「何でもマイナンバーに紐付けるな」という動きがみられる。

しかし私は、デジタル化を進めることは、むしろ人間社会に「温もり」を与えると考えています。たとえば、何がしかの作業をAIに任せることができれば、その分を困っている人に寄り添うための時間に充てることができるでしょう。

そういう話を講演で力説したところ、ある女性が「デジタルは冷たいものだと思っていたけれど、温かいものだったのね。それなら応援するわ」と答えてくださった。その言葉を聞いて、とても心強く感じたことを覚えています。

【宮田】デジタルの力は、これまでかなり誤解されてきた面がありますね。たしかにかつてならば、人間を十把一絡げにして押し込める「非人道的」な部分があったのは否定できません。

しかし、それはデータと倫理に関する議論が乏しかった時代の話です。いまでは、すでに国際的なルールづくりが進んでいる。大臣がめざすような、一人ひとりに寄り添い、誰も取り残さない社会をつくるには、私もデジタルの活用がカギだと思います。

【河野】ある人はDX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉を聞いて、映画『モダン・タイムス』でチャップリンが歯車に巻き込まれていくシーンが思い浮かんだ、と話していました。すなわち、機械文明の発達によって個人の尊厳が失われないかという危惧です。

ここで大事なのが、我々が何のためにデジタル化を推進するのかを明確にすることです。もちろん、日常生活を便利にする側面もありますが、同時に高齢者や子ども、また世の中から取り残されている人たちに寄り添う社会をつくるためです。そうしたゴールを国民のあいだで共有していかなければいけません。

 

「教育におけるICT活用」でOECD加盟国で最下位の日本は復権できるか

【宮田】ある保育園の事例を紹介しますと、保育士はこれまで子どもを寝かせたあとも、何か事故が起こらないようにずっと目を離さないようにしていました。

そこで、子どもたちの様子を自動的に記録して母親に報告する仕組みをつくったところ、よりきめ細かに子どもたちをサポートできるようになったそうです。

保育士の負担は減り、その分だけ子どもたちの豊かな成長を見守る環境が整っていった。これこそデジタル化の本質でしょう。もちろん保育は一例にすぎず、教育や医療などあらゆる分野でデータが利活用されるべきです。

【河野】私の地元である神奈川県平塚市では、地域ごとに学校の校長から担任の先生、青少年指導員、町内会長などが集まり、学校や生徒の状況を情報共有しています。

「この子はいま家庭で朝ご飯を食べられていないから、学校に行く前にここに立ち寄らせて食べさせる」という具合です。ただし、その手法はまだアナログが中心です。プライバシー上の課題もあり、現時点ではデータの利活用が十分とはいえません。

その一方で、大阪府箕面市や東京都足立区では、学校の教育データや健康診断情報を家庭のデータと繋ぎ合わせることで、地域と学校が連携しながら子どもたちの支援をしています。

海外でいえば、オーストラリアでは子どものデータベースをつくって、それをAIで解析して児童虐待の防止に役立てているという。私の地元がアナログで行なっている取り組みを、いくつかの地域ではデジタルで実践しているわけです。子どもたちを守るためにデータを適切に利活用する。

その意義を多くの人に理解してもらえれば、より温もりのある社会が形成できるでしょう。その実現に向けて国民に発信して説得することも、我々政治家の責務です。

【宮田】日本は世界三位の経済大国ですから、以前は国際的にもデジタル化が進んでいると思われていました。ところが、国立教育政策研究所が公開している「PISA2018調査結果」をみると、日本の教育におけるICT活用状況は、残念ながら、OECD加盟国のなかで最下位です。

日本のデジタル化の遅れは教育分野に限りません。その事実は、昨今のパンデミックにより、あらためて浮き彫りになりました。10万円の特別定額給付金の配布に数カ月を要した出来事は、政府と国民に厳しい現実を突きつけました。デジタル先進国として知られるドイツは数日、同じアジアのインドでも一週間程度で国民に現金を給付しているわけです。

また企業の働き方でいえば、テレワークへのシフトもまだ不十分です。コロナによって日本のあらゆる課題が明らかになったことで、改革への機運がいっそう盛り上がることを期待しています。

 

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