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【日本が原発を捨てられない理由】コロナ禍で痛感した「国産」の重要性



2021年04月28日 公開

石川和男(社会保障経済研究所代表)

ソーラーパネル

東日本大震災から10年、日本を取り巻くエネルギー事情は大きく変わった。脱炭素社会に向けた動きが世界的に強まるなか、菅義偉首相は「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現をめざす」と宣言している。果たしてそれは実現可能なのか──。日本の現状とあるべきエネルギー戦略を問う。

※本稿は『Voice』2021年4⽉号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

日本のエネルギー政策

――菅義偉首相は2020年10月26日の所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現をめざす」と宣言しました。具体的に、そのためにどんな政策を実行すべきかが問われる局面ですが、脱炭素に向けた柱となるのが再生可能エネルギーの推進であることは間違いありません。日本の現状はどうなっているのでしょうか。

【石川】再生可能エネルギーには大きく分けて、水力発電、地熱発電、太陽光発電、風力発電、そしてバイオマス発電の5つがあります。まず大型の水力は、これ以上開発する余地が少ない。

一方、FIT(固定価格買取制度)の対象にもなっている中小水力は、水資源が豊富である全国の山間地域で導入が可能ではあります。とはいえ、全体の供給力からみれば大した伸びにはならないでしょう。

次に地熱発電は、じつは世界第3位の賦存量(資源量)であり、導入ポテンシャルが非常に大きいことがわかっています。ただしいまのところ、全体の電源構成比に占める割合は1%にも満たない。

地熱発電の場合は開発の初期段階に際して、地下1500~3000メートルに存在する高温蒸気を掘り当てる必要がありますが、実際に掘ってみなければ、発電に適したエネルギーがあるかどうかわからないところがある。

世界有数の日本の地熱調査・探査技術をもってしても、掘削成功率は3割程度にとどまっており、開発コストが高くなってしまうという課題があるのです。

バイオマス発電というのは動植物などから生まれた生物資源の総称ですが、日本の場合、有望な原料先は国内の森林です。調達コストが高いのが難点ですが、近年注目されているのが植物油の一つであるパーム油を原料にした発電です。

しかし、パーム油の需要増にともない、供給先の東南アジア諸国で森林資源が大規模に破壊されているうえ、違法な児童労働が行なわれる等の社会問題が起きています。

 

政府が推進「太陽光発電」

こうしてみていくと、再生可能エネルギーの主力電源として有望なのは、結局のところ太陽光発電に限られます。日本の太陽光発電はすでに、供給業者にとって条件のよいFITの導入によって、「太陽光先進国」といわれたドイツを抜き、発電量で世界第3位となっています。

2030年度の政府目標でも、太陽光は水力の8.8~9.2%程度に次ぐ7.0%となっており、まさしく再生可能エネルギー推進の中心です。

その一方で、大規模なメガソーラーの設置によって、全国的に自然景観が破壊されたり、災害が起きたりという負の側面が出てきているのも事実です。こうした問題を受けて、地方自治体も環境アセスメントを強化しており、以前と比べてメガソーラーの設置は難しくなっていくでしょう。

残るのは家庭用のソーラーパネルの設置ですが、いくら普及が進んでも、全体の供給力はたかが知れている。何よりも太陽光発電の難点は、天候に左右されることです。実際の稼働率は2割にも満たないわけで、全国的に供給力が増しても安定電源を実現するにはほど遠いでしょう。

――ちなみに、風力発電についてはいかがでしょうか。

【石川】そもそも、2030年度の政府目標でも、風力発電はわずか1.7%しかありません。日本で風力発電を推進するのは難しいと経済産業省や環境省も認めている、何よりの証拠です。

もともと日本では風況のよい地域が限られているうえ、新たな送電線の建設費用は事業者負担になり、開発コストが膨大になる。とても採算が合いません。また、太陽光と同様、自治体の環境アセスメントが強化されつつあり、新規の設置について地元の同意が得られない流れになっていくでしょう。

そこで、地上の風力発電の代わりに期待されているのが、洋上の風力発電です。しかしこれにしても、洋上風力発電の導入が進んでいる欧州諸国と異なり、日本の海は遠浅のところが少なく、設置場所が限られている。

浮遊式の風力発電に至ってはまだ開発段階であり、基準の発電量が満たせるか、あまりにも未知数です。過度の期待は禁物でしょう。

 

「オイルショックとマスク不足」の共通点

――現時点では、再生可能エネルギーに過度に傾斜するのは困難だとすると、当面は化石燃料を大規模に輸入せざるを得ない。しかし、石川さんのいう寒波&LNGショックによる電力逼迫は、エネルギーの原料をほぼ輸入に依存する日本の脆弱性をあらためて浮き彫りにしたともいえます。

【石川】オイルショックはすでに半世紀前の「昔話」になってしまいました。私たちは当時の教訓として、国産エネルギーを開発・導入していくべきことが日本の課題だと認識したはずです。そして輸入石油への依存度を下げようと、日本は原子力とLNGの利用を進めてきたわけです。

さらにいまでは、再生可能エネルギーの導入促進まで進めています。今回の寒波&LNGショックは、日本にとって「国産エネルギー」と位置付けるべき再生可能エネルギー並びに原子力の大切さを、あらためて認識させる契機となったのではないでしょうか。

――経済活動がいくらグローバル化しても、エネルギーの分野では「国産」の価値が依然として重要であると。

【石川】今回のコロナ禍では、エネルギーの分野だけではなく、医療分野においても「国産」の大切さが見直されたと私は考えています。日本は化石燃料と同じようにマスクも輸入に頼っていたわけで、じつに8割弱が中国からの輸入だったのです。

現在では国産メーカーが相次いで増産に乗り出したおかげでマスクの価格高騰は沈静化していますが、全身防護服や医療用ガウン、さらには人工呼吸器もほぼ輸入に頼っていたことが明らかになった。

それらの医療品を自国で賄い切れなかった現実をどう考えるかです。これは日本のエネルギー事情をめぐる議論に似ていると思います。

――ただ、いまになって不思議に思うのは、新型コロナが流行した当初、なぜ隣国である中国から多少高値であってもマスクを大量購入できなかったのか、ということです。

【石川】日本政府の調達は、後払いを原則としていたからです。とくに医療用マスクについては検収後、30日以内に支払うというルールになっていた。他方で外国は、費用をすぐに支払います。マスクを売る外国企業の立場に立てば、日本があと回しにされるのは仕方ないでしょう。

今回のパンデミックは前例にとらわれるべきでない緊急時であり、日本も外国のやり方に倣うべきでした。厳しい言い方ですが、それができなかったのは「平和ボケ」というほかありません。

――日本は国民の衛生観念が発達している一方で、新型コロナのような大規模な感染症を長らく経験してこなかったことも、逆に災いしたのかもしれません。

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