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コロナ禍の送別会、パワハラ問題…元官僚が語る「厚労省」の知られざる実情

2021年05月25日 公開
2022年02月21日 更新

千正康裕(元厚生労働省官僚)

 

厚生労働官僚の特徴

きわめて仕事の多い厚労省では、職員は相当鍛えられる。個々の職員の役人としての技術はかなり高いと思う。そして、大概「困っている人」のための仕事だから、ハートフルで熱い思いをもった人が多い。

また、厚労省の仕事は、医療、労働、福祉など法規制をつくったり、社会保障制度を設計したりといった、民間でも他省庁でもやっていない「厚労省しかやっていない仕事」が多いのも特徴だ。

そうした、個々人の能力の高さ、思いの強さ、厚労省でないとできない仕事をしているという意識が、「自分たちがやらなければ」という誇りを支えている面は間違いなくある。

一方で、仕事以外の生活時間がほとんどないことや、規制を所管していることもあって民間とフランクに付き合う文化が弱く、外部との交流の機会が乏しい。どうしても「自分たちがやらなければ」という思いが強くなるし、内向きな発想にとらわれがちと感じる。

 

組織ガバナンスの問題

厚生労働官僚の個々人は役人としての技術が高く、士気も高いと思うが、仕事は組織でするものだ。厚労省の組織としての特徴は、よくいえば自由。悪くいうとガバナンスが利かない。

よく、官僚は縦社会だという人がいるが、じつは一口に官僚といっても、省庁によってカラーは大きく異なる。仕事の内容が違うのだから当然だ。

ビジネスパーソンと一口にいっても、メーカー、金融、商社、広告など業種によって仕事は異なるし、求められる能力と組織のカラーも大きく異なるのと同じだ。

政治的な仕事も多く組織として動く必要がある財務省や、実働部隊をもっている警察庁や防衛省などは、たしかに厳しい縦社会だと思う。一方で、厚労省はというとそうでもない。

厚労省がつくっている商品(政策)は、規制や社会保障制度など法律の根拠が必要な上に、人の生活に密着した国民の関心の高いものが多いので、組織内で意思決定が完結しない。大臣がこう言っているとか、次官がこう言っているというだけではかたちにならない。

多くの国会議員やメディア、世の中の理解が得られなければ完結しない。だから、若手の意見でも正しいことは採用される。

むしろ、若いときから「ちゃんと意見を言え」「政治的に実現できるかどうかを横に置いて、いちばん情報をもっている担当として正しいと思うことを言え」と教えられて育つ。

僕自身は、そういう厚労省の自由闊達な雰囲気が好きだったが、ともすれば、組織としての方針が隅々まで浸透しにくい面があると思う。

もう一つは、事務系の総合職、医師・薬剤師・看護師などの技官、部門ごとに所属が分かれている一般職と、多様な人事グループがあり、それぞれが独立していて、相互不可侵の文化があることも、組織のガバナンスが弱い要因となっている。

職種の違う課長の評価よりも、同じ職種のなかで力をもつ先輩の評価のほうが、職員の将来に影響が大きい。

事務系総合職は、厚労省のあらゆる部署に配属されるが、技官は専門分野が活かせる範囲に人事異動が限定されるし、一般職は所属する局を中心に働く。厚労省の組織全体を考える人は、どうしても事務系総合職の一部の意識の高い人に限定されがちな構造なのである。

 

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