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「バイデン、どうぞ僕らを入れてくれ」アメリカへの“不法越境”を考える人びと

2021年06月03日 公開

渡辺惣樹(日米近現代史研究家)

渡辺惣樹

バイデン政権は、発足以来、トランプ前大統領が進めていた国境の壁建設を停止し、不法移民1100万人にいかにして市民権を与えるかに知恵を絞り始めた。

不法移民に「優しい」政策への変更は、不法越境を考える人びとにたちまち伝わった。国境を越えてアメリカ入国をめざすキャラバン隊のTシャツには、「バイデン:どうぞ僕らを入れてくれ」と書かれていた。

※本稿は『Voice』2021年6月号より⼀部抜粋・編集したものです。

 

未完に終わった「国境の壁」建設

2020年8月25日、ホワイトハウスにアメリカ新国民の代表5人が招かれた。米国市民権獲得の最後の儀式(Naturalization Ceremony:米国民としての権利を享受し、同時に義務を果たすことを誓う)を済ませた彼らを、トランプ大統領が祝福した。

「今日、あなた方はわが国民になりました。それは国民として崇高な義務を負うことでもあります。国家忠誠のセレモニーがありましたが、それはわが国民、わが国憲法そしてアメリカ的生き方に対しても忠誠を誓うことを意味しています。わが国には長い歴史と伝統があります。あなた方は、それを自分のものとしてとらえて生きていかなくてはなりませんし、次の世代に伝えなくてはなりません」

この祝辞からもわかるように、トランプは、人種差別的思想をもたない。新国民が真の意味での米国民となり、新たな人生を歩むことを心から祝福し、同時に国を愛することを求めた。

トランプの移民に対する考え方は真っ当である。経済発展には移民の力が必要だが、合法的にやってきてほしい、と考えている。

現在、米国の不法移民の数は1100万人に上る。民主党は、第二次世界大戦前は人種差別政党だった。20世紀初頭の日本人排斥運動も民主党支持基盤である西海岸労働組合が主導し、激しい黒人差別を続ける民主党に支配された南部諸州がその動きに加担した。

1960年代頃から民主党は、そうした歴史がなかったかのように、弱者の政党に変身した。不法移民は、政権獲得のエネルギーとなる。1100万人を味方につけたら、権力基盤は盤石になる。オバマ政権は繰り返し、不法移民でも市民権を取得しやすくする方法を考え続けてきたが、共和党の反対と司法の判断で叶わなかった。

トランプ大統領は、不法移民を増やさないためにメキシコ国境に不法侵入を防ぐ国境の壁を建設すると決め、2016年選挙の公約とした。民主党は予算措置で意地悪を繰り返し妨害したが、大統領は他の予算を合法的に流用し、建設を着々と進めた。最終的な長さは664マイル(1069㎞)になるはずであったが、400マイル(640㎞)の完成を見たところで退任した。

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