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オミクロン株は本当に「最後の変異株」なのか

2022年02月15日 公開
2022年02月22日 更新

國井修(グローバルファンド戦略・投資・効果局長)

 

オミクロンが最後の変異株とは限らない

そんな状況下、オミクロン株が世界的に広がることでむしろコロナ禍から抜け出す「希望の光」を見出す人もいる。オミクロン株は軽症で、重症化と死亡はワクチン接種と治療薬で抑えればいい。多くの人がオミクロン株に感染しても、新型コロナに対する免疫力がかえって強化される。オミクロン株はこれまで見つかっている別の4種類のコロナウイルス同様、「普通の風邪」の一つになっていく。ウイルスも人類との共生を考えて弱毒化して共生の道を辿る、などなど。

こうした主張や考えが間違っているとは断言できないが、いまのところ絶対正しいとのエビデンスはない。個人的な希望や予想をいうのは自由だが、政策策定や意思決定に関わる人は希望的観測に頼ってはいけない。歴史はむしろ、疫病は人間の希望どおりには収まらず、災禍は予想を裏切り、想定外で起こる現実を教えてくれる。

とくに新型コロナでは「オミクロン株が最後」との保証はなく、将来新たな「懸念される変異株(VOC:Variants of Concern)」が発生する可能性は否定できない。

新型コロナウイルスの遺伝子情報は、国際ゲノムデータベースであるGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data,https://www.gisaid.org)に登録される。今年1月下旬で世界から720万件以上の遺伝子情報が提供され、いまでも毎日2万件以上が送られている。オミクロン株もそのなかの一つであり、南アフリカ、その後ボツワナから報告された。

そもそもオミクロン株が生まれた背景として、(1)ゲノム解析が行なわれていない国で変異の蓄積が進んだ、(2)免疫不全患者の体内でウイルス感染が長期間続き、その間に変異が進んだ、(3)ヒト以外の動物の体内でウイルスの変異が進み、それがヒトに再び感染した、という三つの仮説がある。

開発途上国、とくにアフリカにはゲノム解析がまともにできる国は少ない。南アフリカだけでもHIV感染者は約800万人、うち200万人以上は治療されていないか不十分な治療で、免疫不全状態の人も多い。

新型コロナのベータ変異株も南アフリカで2020年5月に報告されており、免疫不全のHIV感染者から生まれた可能性が指摘されている。今後もウイルスが変異を繰り返して、より高い感染力・致死力をもち、ワクチンの効果をすり抜けるVOCが生まれないとも限らない。

 

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