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いつ起きても不思議ではない...中央防災会議が警鐘を鳴らす「もうひとつの大地震」

2022年03月10日 公開

安宅和人(慶応義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

 

日本海溝・千島海溝大地震に目を向けよ

もちろん日本に居を構えている以上、地震からも目を背けることは許されない。大地震はこれまで、日本の歴史を幾度となく変えてきた。

阪神・淡路大震災(1995年)や東日本大震災はもとより、時代を遡れば、安土桃山時代の天正大地震(1586年)は当時の社会に甚大な影響を与えた。近畿から東海、北陸にかけて大きな被害が発生し、徳川家康への総攻撃を目論んでいた羽柴(豊臣)秀吉の計画は頓挫した。

結果、秀吉は戦略を変更。妹の朝日姫が家康の正室になり、家康は政権の次席に。10年後の慶長伏見地震(1596年)で完全に政治の潮目が変わり、豊臣政権崩壊の引き金になった(参考:磯田道史『天災から日本史を読み直す』中公新書、寒川旭『秀吉を襲った大震災』平凡社新書)。

近い将来の話をすれば、南海トラフ巨大地震の危険性がしばしば指摘される。もちろんこの激震には大いに注意するべきだが、加えて気をつけるべきなのは、北海道から岩手県にかけての沖合にある千島海溝と日本海溝で起きる巨大地震だ。

2021年12月、中央防災会議の「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」はこの地震と津波による死者は最悪の場合、20万人近くに及ぶとの想定を公表した。東日本大震災で日本海溝付近のプレートが大きく動き、北側に連なる千島海溝にも相当の歪が溜まっていると推定され、日本海溝・千島海溝の地震も富士山の大噴火と同様、過去の発生周期を踏まえるならばいつ起きても不思議ではない。

この地震が特徴的なのは、震源地である海溝から陸までの距離が近いことだ。計算すると発生から数分で大津波が岸辺に押し寄せることになり、北海道を中心に深刻な打撃を受ける。

地震・津波に備えて万全の備えを期すべきなのはいうまでもないが、政府にはもう一つぜひとも取り組んでもらいたいことがある。それは、現在ロシアが実効支配する北方領土に住む人びとの人命救助に向かうことだ。

もちろん、そのときの国際情勢やロシアとの外交関係は考慮すべきだが、そのうえで日本政府が北方四島を自国の領土と本気で考えているのならば、領土とそこに住む人びとの命を守るのは当然だろう。

 

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