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橋下徹氏の回想「石原慎太郎氏が論争で絶対に譲らなかったこと」

2022年03月18日 公開

橋下徹(元大阪府知事・弁護士)

橋下徹
写真:大坊崇

2022年2月1日、作家で東京都知事を長年務めた石原慎太郎氏が逝去した。大胆な発言から時に物議を醸すこともあったが、政治家としての実行力や手腕を評価する声も根強い。

そんな石原氏と政治活動を共にし、プライベートでも親交があった橋下徹氏は、石原氏はきわめて「合理的な人物」だったという。公私ともに熱い議論を交わした橋下氏が語る、「男・石原慎太郎」の生き様とは。

※本稿は『Voice』2022年4⽉号より抜粋・編集したものです。

 

絶対に譲らなかった日本の「自立」

去る2月1日、石原慎太郎さんが逝去されました。享年89。戦前から戦中、そして戦後の日本を駆け抜けて、つねに国を憂い、第一線で活躍されてきました。いまは何よりも「お疲れ様でした。どうかゆっくりしてください」とお伝えしたい気持ちしかありません。

石原さんと最後にお会いしたのは、昨年(2021年)12月、石原さんのご自宅でのことでした。車椅子に乗られていたけれど相変わらずお元気で、僕の目にはエネルギーがみなぎっているように映りました。

ご体調のこともあるので20分ほどでお暇させていただこうと思っていたのですが、気づけば話が盛り上がって、1時間以上も話していました。振り返れば、本当に貴重なひと時でしたね。

話の内容は多岐にわたりました。先の大戦の戦争責任から皇室の在り方、靖国神社の参拝、国防まで。

期せずして盛り上がったのが、僕のプライベートの話。うちの子どもが映画『アラビアのロレンス』を観たのですが、主人公のロレンスが砂漠を横断するシーンを早送りしていると話したところ、石原さんは「あそこが肝心なのに、早回しかよ!」と大笑い。続けて「これは面白い文明論だから、(原稿に)書かなきゃいけないな」と語っていたのが、とても印象に残っています。

石原さんといえば、「保守的な思想の象徴」というイメージをもつ人が多いかもしれません。でも、少なくとも「保守」のひと言で定義できるような単純な方ではありません。僕からすれば、石原さんはきわめて「合理的」「リベラル」「斬新」な人でした。進取の気性に富み、つねに新しい物事に好奇心を抱いていました。

芥川賞を受賞した『太陽の季節』(新潮文庫、1957年)だって、当時からすれば考えられないような新奇で斬新な作品だったはずです。そうした鋭い感性を、89歳になってもずっともち続けていたのが石原さんなんです。

ありがたいことに、僕はこれまで何度も一献を傾けながらお話しさせていただきましたが、いつだって僕よりも若い世代と話している以上に新たな発見を得られました。

まず、石原さんの話は情報量が凄まじいから、それだけでも面白くて、ずっと聴いていられる。いつ、どこであれだけの知識や情報を蓄えていたのか、いま思い返しても驚かされます。さらに尊敬できるのが、議論の際の姿勢です。石原さんは「そこは俺が間違っていたな」などと、ご自身の考えを素直に改めることを厭わない方でした。加えて、会話のなかで興味深く感じたときには、サッとメモを取られていました。

とはいえ、読者の皆さんもよくご存じのとおり、論争において石原さんが絶対に譲らない部分がありました。それは、日本の「自立」についてです。

日本が自分の足で立っていくためには、アメリカから押しつけられた憲法は見直して自主憲法を制定しなければならないし、自活できるエネルギーを確保するために原子力発電は必要不可欠だ――。

これらの持論には、相当なこだわりをもっていました。対する僕は、自主憲法の制定ではなく憲法改正、また大型商業原発の推進には慎重な立場でしたから、白熱した議論になることが専らでした。

石原さんと僕の意見の違いには、戦争を体験しているか否かが大きく影響しているように感じました。石原さんは実際に、戦争で負けて自国の主権が奪われることの悲惨さをその身で体験しています。自らの身近な人たちが命を落としていく様子だってみてきたわけです。

ただし、石原さんは決して好戦家ではありません。自ら他国に攻め入ることを容認していたわけではないということです。もしも敵から侵攻を受けた場合は、自国民を守るために断乎として立ち向かう。そうした確固たる意志を表明していたにすぎないのです。

それにしても、石原さんと僕とのあいだでは、理屈では言い表すことができない、戦争体験の有無による見解の相違が少なからずあったように思います。

 

石原さんから学んだ知事としての「いろは」

僕が石原さんと最初にお会いしたのは、2006年に放送されたフジテレビの「スタ☆メン」という番組です。お笑い芸人の「爆笑問題」さんが司会で、当時の僕は弁護士のコメンテーターとして出演していました。

石原さんは東京都知事を務めている時期でしたが、高額な経費がかかる海外視察の件で追及されているタイミング。僕もその場で直接、「なぜ透明性を担保するやり方をしなかったのですか」と質しました。

ただ、そのときは番組内で少しやり取りをしたにすぎないし、石原さんからすれば、一介の弁護士の発言など覚えていなかったのではないかと思います。

二度目にお会いしたのは、2008年に僕が大阪府知事に就任した直後、東京都庁へ挨拶にうかがったときです。このときに初めて、石原さんときちんとお話しする機会を得ました。石原さんの対応はきわめて紳士的で、地方自治体の首長としての「いろは」を教えてくださいました。

たとえば、知事のもとにはあらゆる部局の役人が施策の説明に来るけれども、膨大な資料を使って長々と話してくるから気をつけたほうがいい、など。「説明の資料はA3用紙一枚までと決めておかないと大変だよ」と教わり、僕は大阪に戻って早速実践しました。

そうして石原さんは東京で、僕は大阪でそれぞれ政治行政を進めていきました。石原さんは作家としての人間観察が好きなようで、ありがたいことに、大阪で改革を進める僕のことを面白がってくれていたようです。お互いに東京と大阪という大都市を担う者として、協力できることがあれば協力していこうと話していました。

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