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中高年にまで? 「マッチングアプリ」の婚活が広まる理由

2022年05月18日 公開

山田昌弘(中央大学文学部教授)

 

「自然な出会い」を求める日本人

日本では「自然な出会い」が好まれ、「偶然の出会い」が避けられる傾向がある。そして「積極的な出会い」も人気がない。

その理由は、日本人の国民性として、(1)「面倒」を嫌う、(2)「リスク」を嫌う、(3)世間体意識が強い、という傾向が影響している。

そのため、出会いにおいて、(1)交際相手探しで面倒(コスパが悪い交際相手探し)を嫌う、(2)交際におけるリスクを怖がる=自分にふさわしくない相手と出会うことを避ける、(3)交際において他人(友人や親戚、近所の人から)から批判的なことをいわれるのを避けたいという考え方につながる。この点で、欧米の交際状況とは大きく異なっている。

日本では、恋愛と結婚を結びつける考え方がいまだに強く、「交際相手が結婚相手につながる」確率が高い。もちろん、「恋愛は恋愛として楽しむ、結婚は別」と考える人も存在するが、現在の日本では少数派である。

となると、恋愛の場面でも、結婚相手としてふさわしい人とだけ交際したい、結婚相手としてふさわしくない人と交際するのを避けたい、と多くの人が考える。そのために、コスト(時間・お金)をかけるのは避けたいという意識が広く共有されている。

これが、日本社会で「自然な出会い」が好まれる理由である。「自然な出会い」では、出会うコストはゼロ、つまり、職場や学校、サークルなどですでにお互いを知っている。そして、「外れ=結婚相手としてふさわしくない」の確率は低い。

なぜなら、交際前に、相手の年齢から経済力、性格まで情報が得られているからである。学校で出会っても、学業成績から将来の経済力の推測はつく。同じ職場なら給料のおおよその額までわかるし、幼なじみなら相手の家族状況まで既知となる。

「偶然の出会い」にはリスクがある。ドラマのように運命の人に出会うという願望は誰にでもあるだろうが、出会って好きだと思った相手(もしくは声をかけられた相手)の素性ははっきりしない。職業や未既婚かどうかさえわからないし、聞いても相手がウソをつく可能性もある。

とくに日本では、旅先や乗り物の中、飲食店、街なかで声をかけるのは、「危ない人」とされる。自分をだまそうとする人、いいかげんな人ではないかという疑いが消えない。出生動向基本調査でも、「街なかや旅先で」出会って結婚した人は、戦後一貫して10%未満しかない。

 

「いい出会い」に時間とお金をかける時代

マッチングアプリが含まれる「積極的な出会い」は、リスクに関して「自然な出会い」と「偶然の出会い」との中間といえよう。会う前から、釣書(自己紹介書)やネット上のプロフィールで相手のある程度の情報を知ることはできる。

親戚の紹介での釣書にはウソはないかもしれないが、いわゆる仲人口で実際よりも誇張されて伝えられるかもしれない。一方、出会い系では職業や年齢でもウソが書かれている可能性がある。

何より「積極的な出会い」には手間がかかる。誰かに紹介されたとしても、会うときには時間を割いて、さまざまな支度をしなくてはならない。結婚相談所などでは紹介料を払う必要がある。出会った人が交際するのに適切な人かどうかは事前にわからない。

いいと思う人と出会うまで時間とお金を使う必要がある。つまり、「積極的な出会い」を志向するとコスパが問題になるのだ。

そして世間体ということになると、日本では、積極的に恋愛・結婚相手を探すことは「スティグマ(マイナスの烙印)」になることがある。

先の『新婚さんいらっしゃい!』でも、50年前は、恋愛結婚した人は堂々としており、見合いだとぼそっと答えるカップルが多かったことが記憶に残っている。

当時は、見合い=恋愛できなかった人、というイメージがあったのである。また、結婚相談所で知り合って結婚したカップルには、ことさらそのことを隠すカップルも多かった。

日本では、とくに積極的に相手を探す女性は、男性から誘いがかからない=魅力がない女性と揶揄されることもあった(その状況が変化するのは、私が「婚活」という言葉をつくった以降である)。

一方で欧米では現在、交際は結婚を前提とするわけではなく、日本よりも恋愛が活発である。同棲も一般的なので、交際相手探しのための出会いに注目する。

アジズ・アンサリの著作『当世出会い事情』(亜紀書房)によれば、アメリカでは職場の同僚など自然の出会いもある程度はあるが、友人に紹介を依頼するといった「積極的な出会い」が多い。

また「偶然の出会い」でも、バーで出会って交際を始めたというケースも相当の割合を占めている。

やはりアメリカでは日本と違い、恋愛に価値を置く人が多いため、相手探しを面倒だと思う人は少なく、リスクをとってでも素敵な人と付き合いたいという意識が強い。2010年の時点でも、オンライン(主に、日本でいうマッチングアプリ)による出会いが急速に増大している。

そのプロセスは、吉原真里著『ドット・コム・ラヴァーズ』(中公新書)に詳しい。そして2020年以降のコロナ禍で、その割合はさらに増えていると推測できる。

このように、やはり出会い方において日本と欧米は違うといえる。日本は「自然な出会い」を好み、「偶然の出会い」を忌避し、できれば「積極的出会い」は避けたいと思っている。しかしそうもいっていられない時代が来たことが、マッチングアプリの流行に関係してくる。

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