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なぜモテない? 「パートナー探しが無理ゲー」になった進化論的背景

2022年07月25日 公開

橘玲(たちばなあきら:作家)

モテる方法

女性の経済力向上や社会のリベラル化によって、男女間の恋愛は大きく変容を見せている。90年代以降「非モテ問題」が顕在化し、男性の競争は激化している。この現代社会においてパートナーを見つけるにはどういたらいいのだろうか。アメリカで刊行された『What Women Want』の邦訳本を手がけた橘玲氏に聞いた。

聞き手:編集部(岩谷菜都美)

※本稿は『Voice』2022年8⽉号より抜粋・編集したものです。

 

自由恋愛市場でもがく男性

――(岩谷)アメリカの気鋭の進化心理学者ジェフリー・ミラー氏と、ベストセラー作家タッカー・マックス氏の共著What Women Want(2015年)の邦訳版が、橘さんの監訳によって日本で発刊されました。

男性がモテるための「恋愛テクニック本」とは一線を画し、進化心理学に基づく男女の生物学的な性愛の違いをベースに、男性に対して適切な行動を指南している点が斬新です。

【橘】進化論の視点から恋愛を学ぼうという本がアメリカから登場したのは、性愛を取り巻く環境が大きく変化したからです。人類史的にも、「自由恋愛」は異常な事態です。

旧石器時代以降、女性にとっての最大の脅威は男の性暴力でした。「利己的な遺伝子」にとっては、どのような方法であれ、自分の遺伝子を後世に残せさえすればいい。人間はリベラルな価値観に基づいて進化してきたわけではないのです。

避妊法がない以上、女性は性交して妊娠すれば子どもを産むほかなく、つねに「いつ襲われるかわからない」という不安のなかで生きてきた。だからこそ、強い男をパートナーにして、ほかの男から守ってもらうしかなかった。

逆にいえば、男集団は暴力からの保護を名目に女たちを支配し、共同体内で性愛を分配してきた。これが家父長制の起源です。

家父長制では女はイエの所有物で、だからこそ保護されてきたわけですが、それは婚姻によってイエ同士のネットワークをつくるためでもあった。「見合い婚」が当たり前の社会では、相手を魅力的に感じなくても、ある種の強制力によって結婚に至っていたのです。

しかし第二次世界大戦後、先進国で「とてつもなく豊かで平和な社会」が成立すると、女性は経済力をつけ、もはや男に守ってもらう必要がなくなった。

すると当然、結婚相手に望むハードルも自然と上がってくる。自由恋愛では女性の性選択の基準が高くなり、上手くゲームをプレイできる男性の数が限られてしまうのです。

このようにして、性愛から脱落してしまう若い男性が増え、それが1990~2000年代に「非モテ問題」として顕在化します。とりわけアメリカでは、「非モテ(インセル)」が無差別殺人を起こす事件が繰り返し起きています。

――恋愛市場における男性の競争が激化した結果、女性に対する適切な行動がわからず、身動きがとれなくなった人が溢れてしまった、と。

【橘】この本では、女性は初対面の段階で、男の8~9割を恋愛対象から外しているとされます。これほど難易度が高いと、恋愛の経験のない男性ほど「無理ゲー」と感じてしまうのではないでしょうか。

だからこそ男は、女性がなにを脅威と感じ、なにに惹かれるかを理解しなければならない。自分勝手な妄想を押しつけるだけなら、「キモい」と思われるのは当然です。

しかしアメリカでは(そして日本でも)、こんな基本的なことすら教えられていない。「セックスには同意が必要」といくら説教しても、そこに到達する方法がわからなければ、恋愛市場から退場してしまうだけです。そんな危機感が、この本を書かせたのだと思います。

――モテる人/モテない人の運命は、生まれつき決まっているわけではないのですね。

【橘】著者たちは、「この本を読めば誰でもモテるようになる」と言っているわけではありません。女性の性選択はきわめて厳しいので、そのハードルを超えられない男性が社会に一定数存在することは避けられない。

しかしそれでも、本来よいパートナーと出会えるはずなのに、自信がなかったり、間違った常識を信じているために失敗しているボーダーライン上の多くの若者たちを救うことはできるのではないか。

本書で展開されるのは「魅力的な男になるにはどうすればいいか」という戦略と方法論なので、人生のほかの場面でも使えることばかりです。進化論的にモテるようになろうと努力すれば、それは仕事や勉強、社交での成功とも結びつくでしょう。

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