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戦後77年の夏、マクロな視点で読み解く「大東亜戦争」の意義:書評

2022年08月05日 公開

奈良岡聰智(京都大学教授)

世界史としての「大東亜戦争」

今年の8月で戦後77年を迎えたいま、私たちは「先の大戦」をどのように振り返るべきなのか。細谷雄一氏編著の新刊『世界史としての「大東亜戦争」』(PHP新書)を、奈良岡聰智・京都大学教授が読み解く。

※本稿は『Voice』2022年9⽉号より抜粋・編集したものです。

 

「大東亜戦争」という呼称を巡って

日本では毎年8月を前に、近現代史とりわけ昭和史に関する書物が多く出版される傾向がある。終戦の日を前に、「先の大戦」の意義について考えようという意識が高まるからであろう。

本書もまさにそうした問題意識に立っており、15名の著者が国際的な視点からこの戦争の意義について考察している。いずれも第一線の研究者で、各章ともたいへんわかりやすく綴られ、大戦研究の最新状況を知るのに好適な書である。

「先の大戦」と書いたが、本書のタイトルは「大東亜戦争」となっている。編著者の細谷雄一氏によれば、これは開戦当時日本政府が命名した正式名称がそうであったことに鑑み、イデオロギー的立場を超えて、みずからが主体的に語った呼称を用いたほうが良いとの判断に基づいているとのことである。

戦後、「大東亜戦争」という呼称はGHQによって禁止された。以後、林房雄『大東亜戦争肯定論』(1964~65年)が物議を醸しだしたように、「大東亜戦争」という呼称はしばしば同戦争の意義を肯定することを目的として使用され、反発や批判を招いてきた。

これに対して近年、庄司潤一郎氏らによって、戦争の実態を客観的に表現するためには、価値中立的な意味で「大東亜戦争」という呼称を用いるのが良いのではないかという問題提起がなされ、少しずつそのような使用例が増えている(詳しくは、波多野澄雄他『決定版・大東亜戦争〈上・下〉』新潮新書、2021年を参照)。

本書もこの問題意識を共有している。歴史観がかかわる問題だけに難しいが、この本が戦争呼称をめぐる議論を活性化させる一つのきっかけになることを期待したい。

 

「長い20世紀」という視点から捉え直す

呼称の問題にかぎらず、本書にはこの戦争の意義をマクロな視点から考える刺激的な論考が多数収録されている。欧米では、第二次世界大戦を第一次世界大戦と一続きの戦争とみなして、「戦間期」の国際協調がなぜ、いかにして破綻に至ったのかという問題意識に立った研究が多い。

また、英国の歴史家エリック・ホブズボームが「短い20世紀」(1914~91年)という概念を提唱したように、第一次世界大戦勃発から冷戦終結までを連続した時代と捉える見方も根強い。

しかし、第一次世界大戦の影響が相対的に小さかった東アジアでは、「戦間期」「短い20世紀」という捉え方にリアリティがない面があり、「大東亜戦争」と「第二次世界大戦」とのつながりも従来十分に議論されてこなかったきらいがある。

中西寛氏の論考はこのことを鋭く指摘し、第二次世界大戦の日本にとっての意味を理解するためには、20世紀の起点を1890年として捉える見方が有効であると主張している。すなわち、同年にヨーロッパと東アジア双方で地政学上の大きな変革が生じたとし、この構造変化が以後の国際政治の歩みを規定したというのが、同氏の見立てである。

中西氏は、この変化は1925年ごろにいったん安定化するかにみえたが、1920年代後半から急速に解体を始め、1939年に始まった第二次世界大戦はそれまでの国際秩序の解体過程としてみることができるとする。この「長い20世紀」という見方は、たしかに第二次世界大戦の意義を東アジアの視点から捉え直すのに有効な視点だろう。

ロシアによるウクライナ侵攻と国際政治の現状を踏まえて、歴史の再解釈を示した論考が多いのも、本書の魅力である。

花田智之氏はスターリンの対日戦略を分析し、ソ連による満洲・南樺太・千島列島侵攻が今次のウクライナ侵攻と連続性・共通性を有することを指摘している。いずれ再開されるべき北方領土交渉に際して、留意しなければならないポイントである。

近年、昭和史に関する最新の研究成果を一般向けに概説した出版物が相次いでいる。筒井清忠編『昭和史講義』(ちくま新書)、山内昌之・細谷雄一編著『日本近現代史講義』(中公新書)、『昭和史がわかるブックガイド』(文春新書)などが代表的であるが、このたび、本書がその列に加わった。

これらの本には、著者によって異なる見方や解釈が少なからず含まれており、比較対照することで最新の研究状況や課題がよくみえてくると思う。深く学びたい方には併読をぜひお勧めしたい。

 

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