挑戦するメリットが小さい「終身雇用」
ところで、社員がリスクを冒して挑戦するより周囲との調和を優先したほうが得になる仕組みは、雇用制度の視点からとらえたら終身雇用(長期雇用)制に行き着くといっても過言ではない。終身雇用制は、共同体型組織ときわめて親和性が高いのだ。
まず社員にとっては、定年までの雇用が保障されているので、あえてチャレンジしようという意欲が起きない。
いっぽう企業の側は、社員に対し長期にわたって安定した処遇を保障しなければならない以上、社員が特別に大きな業績をあげたとしても思い切った抜擢をしたり、大幅に昇給させたりすることができない。提供できるインセンティブに限界があるからだ。
また一人ひとりの貢献度に対して正しく報いるには、個人の分担を明確に定めることが必要だが、雇用の維持を優先しなければならない以上、欧米のような職務主義(いわゆる「ジョブ型」雇用がこれに近い)を徹底することは難しい。
その職務が不要になったからといって解雇したり、転職を促したりできないからである。
そして日本企業の主流である企業別労働組合は終身雇用を前提に成り立っているが、その組合は社内の一体感を保つため、個人の成果や能力によって大差がつく人事制度の導入には否定的だ。
このように「何もしないほうが得」な数々の仕組みの背景には終身雇用という大きな制度の骨格があり、二重、三重にたがをはめていることを見逃してはいけない。
終身雇用をめぐっては、社員の雇用が保障されているから思いきって挑戦できるという見方をする向きもある。たしかに解雇や大幅な給与ダウンのリスクは小さいかもしれない。
その一方で挑戦するメリットは小さく、失敗したら昇進や異動などで不利益を被る恐れがある。つまり、コストパフォーマンス(コスパ)が悪いのである。