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生き方

「良い妻としての自分」に執着する人ほど“うまくいかない人生”に嘆く理由

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2022年12月15日 公開 2024年12月16日 更新

苦しい時、うまくいかない時、苦しみにとらわれたままか、自分の成長の過程と見るかでその苛酷さはかわってくるという。

どうすれば、1つの視点にとらわれることなく、物事を多角的に捉えることができるようになるだろうか。早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏に、視点を増やす方法を聞いた。

※本稿は、加藤諦三著『絶望から抜け出す心理学』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

視点を変えて初めて見えてくるもの

劣等感はマインドレスネスになり、向上心はマインドフルネスになる。

マインドレスネスは、自己イメージをおとしめ、選択肢を狭め、独りよがりな心構えをもたらす。このようにして、私たちは自らの可能性を浪費する。

不愉快な気持ちをマインドフルネスで解決した例を一つ挙げてみる。視点を変えるということの心への影響を考えるためである。

有名な『7つの習慣』という本に、著者の次のような体験が、ミニ・パラダイム・シフトとして紹介されていた。パラダイム・シフトとは視点を変えることである。

著者は、日曜日の午前中にニューヨークの地下鉄に乗っていた。それまでは乗客はそれぞれ静かに座っていた。新聞を読んだり、物思いにふけったり、目を閉じて休息していたりしていた。

そこに突然親子が乗ってきた。子どもは騒ぎ回っている。雰囲気が変わった。皆は苛立つ。著者も苛立ち、ついに、もうすこし子どもを静かにさせるようにその父親にいった。

するとその父親が謝りながら、今病院でこの子の母親が1時間前に死に、「私はどう考えていいかわからない、子どもも同じようにどうしたらいいかわからないのだろう」といった。

その瞬間、パラダイム・シフトが起きた。著者は、物事を違った視点で見るようになった。態度が執着から非執着に変わったのである。

 

発想が変わると“人生の意味”も変化する

この例からも、パラダイム・シフトして、多面的な視点で世界を見ることの重要性がわかる。視点を増やすといってもいい。

神経症の治らない人は、既存の人間関係を変えることができない人である。神経症になるような人は、新しい考えで新天地を開くことができない。

新しい考えで、つまり新しい視点で自分の人生を見ることが新天地を開くことであり、自分自身になることであり、個性を伸ばすこと、「内なる力」が伸びることであり、それが幸せになる方法である。

伸びるということは、発想を変えるということである。発想を変えるとは、ものを見る視点を変えることである。それで心の位置が変わってくる。

ものを見る視点が変わってくれば周囲のものはみな違って見えてくる。そこに安らぎがあれば、もう元には戻らない。いや元に戻れない。自分の人間性に気がつけば元に戻る人はいない。

たとえば離婚したり、会社をやめたり、親元を離れたりして、貧しくなった人がいる。いずれも社会的な視点だけから見れば失敗である。

でも「貧しくても今の生活のほうがいい」といっている人はたくさんいる。社会的な視点から見れば失敗であるが、「自分自身の人生を生きる」という視点から見れば、この人は成功である。

苦しい時、不愉快な時、それを自分の心理的成長の過程と見るか、視点を変えないままで今の苦しみにとらわれるかで、人生の過酷さは違ってくる。

これこそが絶望感を乗り越えられる人と、絶望感に押しつぶされる人の違いである。

「自分の人生は終わりだ」と絶望して立ち上がれない人と、立ち上がれる人の違いは、視点を変えられるか、変えられないかである。

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著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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