年齢と共に任される仕事も部下の数も増え、職場のチームワークを高めることを求められるようになります。しかし、中には手を焼く困った部下の育成に頭を抱えている人も少なくないはず。
リーダーとして、どのような指導をすればいいのでしょうか。目白大学名誉教授の渋谷昌三氏に、部下の個性をつかみ、やる気を引き出す方法について聞きました。
※本稿は、渋谷昌三著『「この人についていこう!」と思われるリーダーになる心理法則』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。
手を焼く部下には、リーダーの役割を
困った部下というのは、どの職場にもいるはずです。そんな部下に手を焼いているリーダーの方もいると思います。
困った部下の勤務態度を改めさせるには、「役割演技法(ロール・プレイング)」を応用してみる方法があります。役割演技法というのは心理療法の一つで、さまざまな立場の役割を演じさせて、人間関係などを調整していくというものです。
たとえば、親子関係で悩んでいる父親は、他者に自分自身の役割を演じてもらい、自分が子どもの役割を演じながら会話するという方法です。
そうすることで、子どもの気持ちがわかるようになり、父子関係が改善するきっかけになります。夫と妻、教師と生徒など、役割を入れ替えて演じてもらうことで、相手の気持ちを理解してもらうというものです。
仕事の場面に置き換えると、困った部下には、リーダーの役割を演じてもらうのが一番です。リーダーの役を演じてみると、リーダーの気持ちや自分の行動がよく見えてきます。
とはいえ、仮想の場面を作って、「リーダーの役をやってください」とロール・プレイングをしてもらうのは現実的ではありません。
そこで、困った部下にはチーム・リーダーのような役割を与えて、メンバーのまとめ役をやらせてみましょう。
最初は、他のメンバーから不満も出るでしょうが、「みんなに順番にやってもらうから」と言って、まず困った部下にやらせてみると、行動に何らかの変化が現れ、周りの見る目も違ってくるはずです。
小学生を対象とした研究では、生徒の中からランダムに学級委員を任命して一学期間やってもらったところ、クラスの中での存在感が高まり、「学級委員にふさわしい人だ」という評価を受けるようになったそうです。
人は、役割を与えられると、頑張らなければいけないという気持ちになり、役割にふさわしい行動をとる傾向があります。困った部下に、一定期間リーダーの役を与えてみると、何らかの変化が期待できるのではないかと思います。
期待をかける時は「繰り返し伝える」
部下に「もっと頑張れ」「しっかりやれ」といくらハッパをかけても、部下がやる気を出さない場合があります。そのようなときには方法を変えて、部下に対して熱い期待をかけるという方法を採ってみましょう。
ピグマリオン効果を狙って、部下に対して期待をかけていくと、期待された部下は、何とかその期待に添おうとして、頑張る可能性が出てきます。
期待感を示すときには、より具体的な方法で示さなければいけません。心の中で期待しているだけでは、部下には伝わりません。
「この仕事は君に任せておけば大丈夫だろう」「これは難しい仕事だから、君にしか頼めない」というように、言葉で具体的に期待感を示します。
また、本人に直接伝えるだけではなく、周囲の人からも期待感が伝わるように根回しをしておき、先輩たちから「課長は、君に相当期待しているらしいぞ」というようなことを言ってもらうのもいいでしょう。
職場の中で大きな期待をされていることが実感できれば、部下の心理状態も変化してくる可能性があります。
たとえば、仕事の方向性ややり方を説明して、部下がそれをよく理解できていない素振りを見せたとします。このようなときに、本当にその部下に期待しているのであれば、わかるようになるまで、もう一度説明を繰り返すはずです。
もし、1回で説明を終えてしまうとしたら、それはその部下にあまり期待していないことの表れです。部下のほうはそれを敏感に読みとります。
心理学の実験では、期待をかけている人に対しては、説明がわかってもらえなかったときには、説明の仕方を変えて、よりわかりやすいようにヒントを入れたりして説明し直すということがわかっています。
期待をかけるときには、期待していることが相手にきちんと伝わるまで繰り返すことが鍵です。