「いつまでも指示を待っている」「業務にやる気を出してくれない」そんな部下に頭を悩ます上司は少なくない。伊庭正康氏によれば、部下を主体的に動かすには、業務の任せ方にコツがあるという。若手から中堅社員まで、チームを活躍させるマネジメントの手法を紹介する。
※本稿は、『50歳から必ずやっておくべき10のこと』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集してお届けする。
方針はトップダウンで、方法はボトムアップで
任せるという名目のもとに丸投げ同然になったり、逆に、任せたはずが、その後もついつい口を出してしまったり──部下への最適な任せ方がわからず、戸惑っているリーダーは少なくないでしょう。
良い任せ方には、一つの枠組みがあります。それは、「方針はトップダウン、方法はボトムアップ」にすることです。
リーダーは、言うまでもなく、部下たちよりも多くの事柄が見えています。社の方針、社外の動き、顧客ニーズといった様々な要素を俯瞰できるのはリーダーだけ。部下が、部下の視野から言う意見を、そのまま方針にするのは間違いのもとです。
他方、実行する方法に関しては部下に任せるべきです。手段の部分にまで細かく口出しすると、部下の主体性を奪い、成長の機会を奪ってしまいます。
「方針はこうである」と宣言し、やり方は「力を貸してほしい」と言うのが、理想の任せ方です。
できるリーダーほど就任当初はおとなしい!?
とはいえ、昇進や異動などでリーダーになった1日目からこれを実行するのはまず無理。任せる枠組みは、時間をかけて育てる必要があるのです。
できるリーダーは、最初は「おとなしく」しているものです。チーム内外の状況も知らないうちから、いきなり大きな方針を述べるような無謀な真似はしません。最初は、情報の収集と信頼関係の構築に専念する時期。現場のリーダーなら3カ月程度、課長クラスなら半年はかけたいところです。
具体的には、部下一人ひとりとの会話の機会を増やすこと。いたってシンプルですが、問題の把握と仲間意識の醸成が同時にできます。「ちょっと時間ある?」「教えてもらっていい?」と声をかけ、ランチや飲みに誘いましょう。かしこまった面談より、ざっくばらんな場で距離を縮めるのが正解です。聞く内容は、不満やモヤモヤ、改善したい点など、部下が感じる職場の問題。顧客と接する仕事ならば、その関係性も押さえておきましょう。
こうして一人ひとりから情報を吸い上げたら、次は課題の抽出です。ここには、二つの関門があります。
一つは、「課題の見立て」を誤らずにいられるかという点。例えば、「顧客満足度が70点」だったとします。素晴らしい数字とは言えませんが、要改善と決めてかかるのは早計です。他にもっと重大な問題があるのなら、あとに回してもいいレベルでしょう。このように、重大度・切迫度を比較し、大きいものから課題として設定しましょう。
もう一つの関門は、課題の本質を正確に見極められるかどうかです。「売上が目標に届かない」という課題があるとして、分析の過程を経ず、いきなり「お客様訪問をしよう!」などと対策に走るのは賢いやり方ではありません。必要なのは要素分解です。売上が足りないのは、お客様の数が足りないせいか、単価が低いせいか。前者だとしたら、足りないのは新規客か、既存客のリピートか。
このように細分化して、原因の所在を突きとめて初めて、本当に効果のある対策を打てるのです。