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世界各国が「デフレを放置した日本」を反面教師に不況を逃れる皮肉な現実

永濱利廣(第一生命経済研究所 首席エコノミスト)

2023年01月20日 公開

 

一生つきまとう! デフレマインド

【永濱】デフレになるとなかなか抜け出すのは難しいため、私はデフレを「アリ地獄」と呼んでいます。なぜ難しいかというと、人々の価値観は18~24歳のときに育った経済環境に、一生を左右されるという見方があるからです。

【やすお】一生を左右される!? どういうことですか。

【永濱】2009年にアメリカの学者であるギウリアーノとスピリンバーゴという研究者が連名で論文を出しています。あくまでアメリカのケースなのですが、各世代の価値観は、その世代が社会に出る18歳から24歳までの経済環境に一生を左右されるという研究結果が出ているんです。

たとえば、その期間にデフレだったとしましょう。すると、無意識にデフレの状態を標準と考える「デフレマインド」が染みついてしまい、抜け出せなくなるのです。つまり、今日より明日が良くなるという感覚がなくなってしまうということですね。

【やすお】えー、マジですか。ぼくの18歳から24歳までは思い切りデフレでしたよ...。

【永濱】やすおさんに限らず、日本は不況が長期化してしまっているので、18~ 24歳の間にデフレの状況にあった人ばかりで、デフレマインドが染みついている人が多いのですね。

日本人はマヒしてしまっていますが、普通の国では「未来は給料が上がって生活がもっと良くなる」と多くの人が思っています。しかし、日本はそうではないでしょう。明日が良くなるという感覚がない。

【やすお】確かに「昨日より輝かしい明日」みたいな感覚がない!!

【永濱】明日が良くなるという感覚がないのは異常なことなんです。さらに、デフレマインドが身につくと、今のお金よりも将来のお金のほうが大切に思うようになります。今の日本人の多くは、そう思っているんじゃないでしょうか。

【やすお】そうですね。私は20代ですが老後のお金が気になります。私の周りでもそういう人は多いですね。

【永濱】20代から将来のお金を意識していたら、みんな消費しなくなって、お金を貯め込むようになりますよ。

【やすお】確かに...。

【永濱】これでは、金利は上がりにくくなります。そもそも、金利は将来よりも今のお金に価値を見出すからこそ成り立つわけです。しかし、多くの人が将来のお金に価値を見出すのであれば、その前提が崩れてしまいますから金利が上がらなくなるのは当然です。

本来、金利は景気に対して引き締めでも緩和でもない中立的な金利水準があり、それより実際の金利を上げ下げすることが金融政策なのですが、日本の中立金利は大幅なマイナス金利に足を突っ込んでしまっているので、金融緩和が効きにくいとの研究もあります。

【やすお】そうなのか...。

【永濱】この研究が本当なら、「日銀が金利を低く抑え込み過ぎているから金融機関に悪影響があって、けしからん」みたいなことを言う専門家の意見は違うことになります。

日銀が低く金利を抑え込む以前に、日本国民にデフレマインドが染みついて、みんなが将来のお金が大事だと思っているから、お金を貯めようとする。金利が上がらないのは、当然のことなのです。

だから、「円安だから金利を上げよう」という話は、経済学的には誤った考え方なのです。

 

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