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先進国で増え続ける借金...それでも「日本は財政破綻しない」と言えるワケ

森永康平(株式会社マネネCEO / 経済アナリスト)

2022年11月10日 公開


イラスト:タカハラユウスケ

増えつづける国の借金、増大する税の負担、円安に伴うインフレ懸念。

「日本は財政破綻してしまうのではないか?」
そんな声に明確なNOを突きつけるのが、経済アナリストの森永康平氏。

「国の借金は問題ない」「ハイパーインフレが起こる可能性も低い」との主張を展開する同氏は、大学4年生の中村くんとの対話形式で経済のしくみをレクチャーする新著『「国の借金は問題ない」って本当ですか?〜森永先生! 経済ど素人の私に、MMTの基本を教えてください。』の中でその理由を解説している。

今回は同書より、なぜ日本では"国の借金"を心配する必要がないのか、その理由を解説した一節をご紹介したい。

※本稿は、森永康平著『「国の借金は問題ない」って本当ですか?〜森永先生!経済ど素人の私に、MMTの基本を教えてください。』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。

 


“国の借金”はどのように返済される?

【中村】先生、国の借金は問題ないってどういうことでしょうか。たとえば国債発行は主に民間銀行からの借金とのことですが、やっぱりこれは返さなければいけないのではないでしょうか?

【森永】少し勘違いしていますね。私は「国の借金は問題ない」と述べていますが、「国債は返さなくてよい」とは言っていませんよ。

【中村】ええっ!? 国債を返す必要があるなら、やっぱり税金が必要なんじゃ...。

【森永】いえいえ、国債の償還、つまり"国の借金"の返済に、税金は必要ありません。しかし国債は毎年償還されています。現実には償還の一部に税金が使われていますが、本来は必要ないものです。

ではどのように償還しているかというと、「借換債」です。財務省が発表している2021年の国債の内訳で、「令和3年度当初」の「借換債」を見てみましょう。

【中村】147兆円。一般人からは想像もできない額ですね...でも「借換債」ってなんですか?

【森永】簡単に言うと、借金を返すための新たな借金です。

【中村】.........は?

【森永】過去に国債発行によって負った借金を返済するために、新しく国債を発行して借金をして、返済をします。

【中村】そんなことできるんですか?

【森永】すでにある借金を新たな借金に置き換えることは、民間でも行われています。例えば、住宅ローンをより低金利な方に切り替える場合ですね。これを「借換」といいます。同じように、借換のための国債を「借換債」と言うのです。

【中村】知らなかったです。でも国債を借り換えて、何の意味があるんですか? 結局借金が残るだけなんじゃ......。

【森永】そうですね。ただ、返済までの猶予ができることになります。日本の国債には60年償還ルールがあるんです。国債を発行してから60年後に償還、つまり返済しなければいけないというルールです。借換債を発行していったん償還すると、また60年の償還猶予ができる、というわけです。

【中村】あれ? でも国債って「10年国債」とか「国庫短期証券」とか、60年より短そうな名前に聞こえますよ。

【森永】「10年国債」とは、「10年後から償還が始まる国債」という意味で、借りたお金をすべて返済するのは60年後なんです。

【中村】ああ〜そういうことなんですね。

【森永】もっと言うと、国債はいわゆる借金とはやや違う性質があるのですが、重要な話ではないので今回は省略します。そして、この60年償還ルールがあるのは、世界中で日本だけです。

【中村】ええっ!? そうなんですか?

【森永】はい。アメリカ、イギリス、ドイツなど、先進国の中央銀行や国債の仕組みは日本と概ね同じで、中央政府が民間銀行からお金を借りています。こちらのグラフが、アメリカ、イギリス、ドイツの歳出の内訳です。

どの国にも償還期限はなく、永遠に借換を続けているのです。「利払い費」はありますが、「償還費(借換債)」はどこにもありませんね。借換債は政府支出には使えませんし、手続きとして借換を行っているだけで、歳出額や発行残高に含めても意味がないので、数字から取り除いています。

【中村】永遠に借換......そんなことができるんですか?

【森永】可能ですし、実際にやっています。これはお金の生まれ方が関わってきます(※本書第2章参照)。日本で償還期限があるのは、国債発行によって建設するインフラや建造物は、概ね60年で老朽化が進み修繕が必要になるから、という理由のようです。

【中村】ただ借換とはいえ、一応返済はするんですね。やっぱりお金を貸す銀行側からしても、返ってこないのに貸すことはできないってことでしょうか。

【森永】いいえ、実はお金を貸す側にとっても、国債は返済されずに持っていた方がお得なんです。なぜなら利息がつくから。

【中村】利息?

【森永】お金を返してもらう時に、貸した額よりも少し多く返してもらうことですね。1,000円貸したら1,010円返してもらう、という感じです。

国債を所有していれば、民間銀行は償還期限が来るまで利息分の収入を日銀当座預金で得ることができるので、返してもらうよりも利息をもらい続けた方がお得です。

まぁ、今の日本は国債の金利がものすごく低かったり、最悪の場合マイナスの金利がついていたりするので、個々の事例はまた違うんですけどね。


イラスト:タカハラユウスケ

 

日本銀行は日本政府の(実質的な)子会社

【中村】あれ? でも先生、「国債の半分近くは日本銀行が持っている」って言ってましたよね。でも国債を買っているのは民間銀行でした。なんか説明と違うような。

【森永】いいところに気づきましたね。それは、日本銀行が民間銀行から国債を買い取っているためです。

【中村】国債を買い取る?

【森永】国債を民間銀行が保有している場合、政府が借金を返済する相手は民間銀行です。それを日本銀行が買い取ることによって、返済相手を変えているのです。

【中村】それで日本銀行が国債をたくさん持っていたんですね。

【森永】実は日本銀行は、日本政府の実質的な子会社です。日本銀行の資本金は1億円で、そのうちの55%が政府から出資されています。証券取引所に上場していますが、株式会社ではなく認可法人なので、出資をしているからといって株主総会などの権限はありませんが、親会社と子会社という関係は同様です。

【中村】へえええ、そういう関係なんですね。

【森永】そして親会社と子会社の間では、債務は連結決算で相殺されます。要は、借金返済の必要がなくなるんです。

【中村】ええっ!? そんなのアリなんですか!?

【森永】アリも何も会計のルールですから。中村くんのお父さんがお母さんからお金を借りたからと言って、中村家全体の財産や借金の金額は変わりませんよね? それと同じですよ。

【中村】そ、そうなのか......。

【森永】厳密に言うと、日本銀行所有の国債にも利払いは発生しています。10兆円の国債に対して1,000億の利払いをする、ということですね。しかし日本銀行は認可法人で、利益追求を目的としていないので、受け取った利払いは国庫納付金として政府に戻します。

【中村】受け取ったお金を返す? それ何の意味があるんですか?

【森永】こればっかりは、私もわかりません(笑)。

 

先進国は“国の借金”を増やし続ける

【中村】政府がこんなに国債を発行したり、中央銀行がそれを買い取ったりして、なんだかものすごくよくないことをしているような気がするのですが...世界の他の国も同じような状況なのでしょうか?

【森永】いい質問ですね。経済や国家財政は、世界の国々と比較することで見えてくるものがあります。結論から言うと、「同じように借金を増やしている国はあるが、多くはない」ですね。

これは国によって経済規模や、モノやサービスの生産能力が違うからです。しかし、日本のような先進国では、"国の借金"を増やし続けるのは普通のことです。

これらの2つのグラフは、アメリカ、中国、インド、イギリスの"国の借金"を表したものです。この4カ国は、経済規模がそれぞれ世界1位、2位、5位、6位の国々です。ちなみに日本は3位。どこの国も"国の借金"が増え続けているのがわかりますね。

【中村】本当だ。これらの国々の"国の借金"は、日本と同じ仕組みなんですか?

【森永】中央政府の国債や、中央銀行の当座預金、民間銀行の国債購入など、基本的な仕組みは同じです。議会の時期やプロセスは違いますが、ほぼ同じものと考えて問題ないでしょう。

これらの国々の共通点の1つは、自国通貨を持ち、自国通貨建ての国債を発行していることです。

自国通貨建て国債は、先ほど説明した日本政府と日本銀行の関係のように、中央銀行が国債を買い取ってしまえば返済の必要が実質的になくなります。そのため、"国の借金"の額自体は気にする必要がないし、中央銀行が通貨を発行できるため、財政破綻は起こり得ないのです。

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「国の借金」を返している国

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