日本の部長の年収はタイの部長より低くなった...海外との賃金差が開き続ける根本原因
2023年01月24日 公開 2024年12月16日 更新
日本の部長の年収は、タイの部長よりも低い
【永濱】ところが、日本の物価はなかなか上がってきていません。それが問題なんですね。
【やすお】先ほど、2022年9月の日本のインフレ率が3%になったと言っていましたが、これじゃダメなんですか?
【永濱】ダメですね。なぜかというと、国内の要因で3%になっているわけではないからです。
【やすお】えっ、どういうこと!? ウソだったの!?
【永濱】物価の上昇が偏っているのです。インフレ率3%の内訳ですが、モノのインフレ率だけを見ると7%程度も上がっています。ところが、サービスのインフレ率は1%も上がっていないんですよ。
【やすお】それの何がマズいんですか?
【永濱】結局のところ、人件費が上がっていないということだからです。サービスの価格はモノのやり取りがないため、人件費に左右されやすくなります。だから、サービス価格が上がらないということは、給料が上がらず、日本人の購買力の上昇に結びついていないことを意味するのです。
【やすお】それは困りますね...。
【永濱】それどころか、輸入品が値上がりしているのに価格転嫁できないので、企業経営が苦しくなっているのです。その結果、従業員の賃金が上がりにくい、という悪循環に陥っています。
【やすお】最悪じゃないですか! どうにかならないんですか?
【永濱】解決策としては、金融・財政政策で経済をあたためながら労働市場の流動性を高めて賃金が上がるように持っていくしかありません。
だから、昨今の日本では、賃上げを促進する政策が多く行われています。従業員が新たなスキルを身につけ「リスキリング」が奨励されているのもその一環です。
【やすお】しかし、賃金は上がっていないような...。
【永濱】日本の賃金が上がらないのは、労働市場の構造的な問題があると言われています。具体的に言えば、労働市場の流動性の低さです。未だに新卒一括採用、年功序列の賃金制度が残っているうえ、解雇規制が厳しいので、なかなか転職しません。
そして、とくに正社員は終身雇用だから、業績不振に陥ったときに従業員の賃金を簡単に下げにくいのです。その反面、賃上げには消極的です。「どうせそこまで人材は流出しない」と考えている経営者も少なくないですから。
さらに、従業員の賃金に差をつけるのを嫌う風潮も、賃金が上がらない要因の1つと言われています。従業員から見ると、クビになりにくいのは助かる面もありますが、それゆえに賃金が上がらないと...。
労働市場の流動性が低いまま推移していたこともあり、日本の平均賃金は韓国よりも10%低くなってしまったなんていうデータもありますし、日本の部長の年収は、タイの部長よりも低くなってしまったなんていう調査もあります。
このままでは海外と賃金の差が開く一方です。これ以上差が開くのを食い止めるには、心苦しいですが、ある程度は日本でも労働規制を緩和して、労働市場の流動性を高めなければならないでしょう。
【やすお】なるほど...。
【永濱】仮に賃金が上がっても、日本にはまだまだ問題があります。それは、賃金が上がっても消費に回さずに貯蓄してしまう人が多い、ということです。例のデフレマインドが邪魔してしまうわけですね。こう見ていくと、日本は経済政策の面から見ると非常に厄介な国だと言えます。