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日本の部長の年収はタイの部長より低くなった...海外との賃金差が開き続ける根本原因

永濱利廣(第一生命経済研究所 首席エコノミスト)

2023年01月24日 公開 2024年12月16日 更新

値上げラッシュが止まらない! それでも、値上げなくして給与アップはあり得ない。第一生命経済研究所で首席エコノミストを務める永濱利廣氏は、そう指摘する。いったいなぜ、物価上昇と日本人の給与アップが関係しているのだろうか。その因果関係を、対話形式で誌上講義してもらった。

※本稿は、永濱利廣著『「給料が上がらないのは、円安のせいですか? 通貨で読み解く経済の仕組み』(PHP研究所)より、一部を抜粋・編集したものです。

 

デフレスパイラルはモノの値下げから始まる

【やすお】デフレが日本低迷の元凶とわかっていても、モノの値段が安いと助かります。そもそも、なぜ物価は上がらないといけないんでしょうか?

【永濱】それは、物価が上がらないとデフレスパイラルが起こるからです。物価が下がり続けるデフレスパイラルがどこから始まるかというと、きっかけはモノやサービスが売れなくて企業が値下げするところから始まります。

すると、企業や店舗の売上が減って儲かりにくくなります。儲からなければ、働いている人のお給料が減りやすくなりますよね。給料が減れば、家計はお金を使わなくなります。その結果、売れないので値下げする...。

【やすお】何度見ても、イヤなスパイラル...。

【永濱】このため、物価よりも賃金が上がることが必要ですが、デフレだと賃金も下がってしまいます。だから、まずは物価が上がる環境を作らないと賃金も上がりにくいのです。

賃金が上がらないと、物価上昇を下支えできない長い目で見れば、物価と賃金はすごく連動しています。それがわかるのが、上の名目賃金と消費者物価の推移を表したグラフです(図3-4)。これを見るとどうですか?

【やすお】まったく同じような動きをしている?

【永濱】そうなんです。賃金が下がり続けているのに物価だけが上がり続けることは基本的にあり得ません。そんなことになれば、誰もモノが買えなくなってしまいます。物価が上がれば、賃金も上がりやすくなるのです。

【やすお】いや、でも今の日本は物価だけが上がり続けているような感じがするのですが...?

【永濱】確かに、今のように原材料価格がものすごく上がったときは、賃金より物価が上がってしまうこともあります。しかし、賃金が上がり続けない限り、物価も上がり続けることは難しいでしょう。物価上昇を下支えできないからです。

今は、食料やエネルギーの価格がドーンと上がっています。これらは生活必需品ですから、ある程度は買わざるを得ません。しかし、物価が上がっても賃金が上がらなければ、食料やエネルギー以外のモノやサービスを買う余裕がなくなりますから、支出を減らしますよね。

【やすお】確かに。洋服なんて全然買わなくなったし、レジャーも「近場で安く済ますか~」となっているなぁ。

【永濱】すると何が起こるか。結果的に、食料とエネルギー以外のモノやサービスの需要が落ちるので、それらの影響で物価が下がりやすくなるんですよ。「物価(消費者物価)は、家計が購入するモノやサービスのバスケット全体の値段」という話をしましたよね。

一部のモノの価格が上がったとしても、他のモノが買い控えられて価格が下がると、全体で見たときに物価が下がりやすくなるのです。だから、物価が上がり続けるためには、賃金が上がり続けないといけないのですね。

【やすお】なるほど~。そんな関係があったのか。

 

インフレ目標が1%ではなく、2%である理由

【永濱】日本は、デフレから脱却するために、インフレ率の目標を2%に置いています。インフレ率とは、消費者物価指数の前年比の上昇率です。実はこのインフレ目標、日本だけでなく先進国の国際標準になっています。なぜ2%なのかわかりますか?

【やすお】それぐらいがちょうど良いとか?

【永濱】少し当たっていますね。

【やすお】え! ウソ!?

【永濱】実は2%の確たる理由はないといわれています。ただ、理論的にムリヤリ説明すると、失業率を最低水準にとどめる中で最適な一番低いインフレ率が2%程度ということでしょう。

失業率はできるだけ低いほうがいいというのは言うまでもありませんね。しかし、働く意思のある人がすべて働いている「完全雇用」の状態までいったら、それ以上失業率は下がらなくなります。

すると、それ以上需要が超過しても経済が過熱するだけですから、経済のパイは拡大しないのに、物価だけが上がってしまいますね。

と考えると、最も経済面で良い環境とは何かというと、「失業率が最低」かつ「インフレ率が最低水準」にある環境といえます。完全雇用のときの最低インフレ率がこれまでだいたい2%と考えられていたということでしょう。

【やすお】なるほど...。ちょっと難しいけど、ちょうどいいバランスが2%くらいってことですね。

【永濱】「日本ではインフレ目標2%は達成しにくいから、1%にしたほうがいい」という専門家もいますが、それは間違いといえます。

他の国がインフレ目標2%を掲げているのに、日本だけ1%にしたら、日本の物価が海外に比べて相対的に下がって円高圧力が強まってしまうからです。

【やすお】なるほど。でも、消費者感覚だとやっぱり物価が下がるのは有難いんですよねぇ...。これも、デフレマインドかもしれませんが。

【永濱】デフレマインドを持つと、そう考えてしまうのもムリはないかもしれませんね。ですが、結局は円高圧力がかかって日本で生み出されるモノやサービスの国際競争力が下がってしまいますから、それは困ります。

それに、インフレ率を高くすれば金利も高い水準になっていくので、景気が悪化したときに利下げの余地がたくさん取れます。その余裕をつくるためには、インフレ率は2%程度が必要であり、1%ではダメなのです。

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日本の部長の年収は、タイの部長よりも低い

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