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コロナ以降「利益を重視する企業」ほど経営危機に陥りやすくなった理由

斉藤徹(株式会社hint代表/ビジネス・ブレークスルー大学教授)

2023年03月08日 公開

 

「共感」「信頼」がキーワード

世界を揺るがしたリーマン・ショックと時を同じくして、もう一つエポックメイキングな出来事がありました。ソーシャルメディアの登場です。

SNSなどのソーシャルメディアを利用して誰でも手軽に情報を発信できるようになったことで、情報をシェアする文化が生まれました。それは、良いことも悪いこともソーシャルメディアを通してまたたく間に世界に拡散されるという、これまでにない社会変革です。

その結果、ビジネスにおいて、人や環境にやさしい取り組みをする企業、顧客との信頼関係を大切にする企業は生活者から支持され、一方で不誠実な言動によって反感を買う企業は大きなダメージを被るという現象が生じるようになりました。「ブラック企業」という言葉が出てきたのもこの頃です。社会や組織の中で、一人ひとりの個人は弱い立場にあっても、組合などをつくって連帯すれば大きな力を持ちますが、それと同じようにソーシャルメディアによって一般の人々がつながり、大きな影響力を持つようになったのです。

このようなソーシャルシフトの社会では、「共感」や「信頼」という心の通った関係性がキーワードとなります。企業経営においては、理念を大事にして、人々の共感や信頼を得ることが、これまで以上に重要となるでしょう。

とはいえ、理念にもとづいて経営を行なうことは、そう容易ではありません。理念をつくってもそれを浸透させて成果が出るまで時間も労力もかかります。それよりも、単純に経営戦略で一気に拡大を目指すほうが簡単です。マスメディアを通して大々的に宣伝し、新規開拓やM&Aを繰り返すなどすれば、短期間で会社を大きくすることも可能でしょう。これまではそのやり方が有効でした。

しかし、これからは違います。経営戦略だけでは、人々の共感や信頼を得ることにつながりません。あまつさえ、「お金視点」の姿勢が露呈し人々に不信感を持たれようものなら、信頼が失われ、たちどころに経営危機に陥る可能性さえあるでしょう。だからこそ、ソーシャルシフト時代には「幸せ視点」で理念経営を行なうことが求められるのです。

 

コロナで仕事の意義に疑問が生まれた

ソーシャルシフトはまた、近年のコロナ・ショックによって、さらに加速度を増しています。ビジネスパーソンが在宅勤務をするようになったことで、物理的にも心理的にも家族との距離が近くなり、会社や仕事のことを冷静に見つめ直す機会が増えたことがその大きな要因です。

コロナ前にあったのは、「お金視点」でひたすら利益を追求する責務を負わされ、仕事に埋没していた日々。ところが、家族を前に仕事をする中で多くの人がそこから解き放たれ、「この仕事を続けていて幸せになるのだろうか」と改めて考えるようになりました。

会社では主に「市場規範」、すなわち利益をあげるためにどうするかという損得勘定で動きます。そして会社の外へ出ると、社会的な規則や道徳である「社会規範」が強くなります。2つの規範が対照的に分かれていたのが、コロナ前でした。

しかし、在宅勤務になると、それらの区別が曖昧になります。それまで市場規範で考えていたものを社会規範でとらえ直したときに、大きなズレを感じる場合は、仕事の意義に疑問が生じてくる。すると、次第に会社から心が離れていき、エンゲージメントが低下することになります。

実際に、コロナ禍を通じて、主要国の中で特に日本でエンゲージメントが著しく低下しているというデータも報告されています。

 

「自走する組織」づくりのポイント

共感や信頼でつながる社会においては、上意下達で一方的に社員に忠誠心を求めるような組織に未来はありません。高いエンゲージメントを持って各自が主体的に考えて行動する「自走する組織」に変わっていく必要があります。

現場の人たちが自走する状態になるには、まず「理念」を目標として共有することが不可欠です。それにあたってよくある悪い例が、朝礼で理念を唱和して、言葉を教条的に刷り込むやり方です。これでは社員たちが自分で意味を考えず、思考停止状態になってしまいます。なかには、文言だけを表面的にとらえて理念を都合よく解釈したり、権威づけの材料として利用する人も出てきます。それらは本来の理念経営とはまったくかけ離れた姿です。

そうではなく、一人ひとりが理念を「自分事」に落とし込むことができるようにしなければなりません。まず、自分たちの働き方の中で理念をどう実践するかを各自がよく考え、みんなできちんと話し合うことです。

その際、リーダーが上の立場から「こう行動しなさい」と言わないように心がける必要があります。「私はこういうことをやりたいと思っているけど、どうだろう。こんなにいいことにつながるよ」と情熱を込めて語るのです。このような対話を通じて理念が経済的な合理性より上に位置づけられていることがメンバーに伝われば、思いに共感する人たちによって行動が生まれます。

またこれと同時に、できるだけ権限を委譲することが重要です。理念や方針は経営者が決めるとしても、それをどう実践するかについては、できる限り現場に任せるのです。自分たちで考えて、自分たちで決めることができてこそ、「自分事」になるのですから。

ただし、このような取り組みには手間も時間もかかります。組織全体が早期に目覚ましく変わることを期待しても難しいでしょう。ですから、まずはやる気のある人たちから始めていけばいいと思います。

集団で何か新しいことに挑戦しようとするとき、積極的に取り組む人、様子見の人、無関心な人の割合は大体2:6:2だといわれています。最初はその積極的な2割の人たちから取り組みを進めていけば、残りの人たちも次第に影響され、やがて組織全体が大きく変わっていくはずです。

それにあたっては、どんな小さな成果でもきちんと社内に広報し、共有することがポイントです。「こうすると、組織がよくなった」とわかれば、様子見の人も動き出しやすくなるでしょう。

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