「30代前半で年収420万円」は平均以下? 偏った統計が歪める日本の実態
2023年03月21日 公開 2024年12月16日 更新
様々なデータ、会社の売上や目標、日々の家計から国家予算まで...身近にあふれるさまざまな「数字」。その意味を正しく把握し、自分事として把握するためのスキルが「統計学」だ。本稿では、「平均値」に隠されたワナについて、斎藤広達氏が詳しく解説する。
※本稿は、斎藤広達著『超文系人間のための 統計学トレーニング 「数学を読む力」が身につく25問』(PHPビジネス新書)を一部抜粋・編集したものです。
サンプルが少ないと平均は歪む
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Q. 先日、テレビを見ていたら、あるダイエットサプリを使った5人の体験者がその効果を語る、というCMが頻繁に流れていました。そのCMによると、サプリを使った結果として全員の体重が平均で5kg減ったそうです。
「なるほど、効果がありそうだ!」と思うとともに、ふと、「本当に正しいのかな」という疑問が頭をよぎりました。効果がありそうだけれど、モヤモヤする...。あなたならこのモヤモヤをどう説明しますか?
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このようなCMは本当によく見ます。「えー、本当なの?」と思いつつ、何度も何度も同じCMが流れてくると、だんだん欲しくなってきてしまうのが人間の性というものです。
では、このモヤモヤの正体を突き止めてみましょう。
5人の体重の増減が以下だったとします。
Aさん マイナス 4kg
Bさん マイナス 3kg
Cさん マイナス 6kg
Dさん マイナス 5kg
Eさん マイナス 7kg
これで平均はマイナス 5kgになります。
4kg+3kg+6kg+5kg+7kg=25kg 25kg÷5人=5kg
これなら、確かに「みんなちゃんと体重が減っているな」という気持ちになります。しかし、もし5人の体重の増減が以下だったら、どうでしょう。
Aさん プラス 1kg
Bさん マイナス 7kg
Cさん プラス 2kg
Dさん マイナス 4kg
Eさん マイナス 17kg
Eさんが17kgというすさまじいダイエットに成功している反面、むしろ体重が増えてしまった人が2人もいます。しかし、計算してみると、これでも平均は同じマイナス 5kgになるのです。
同じ平均マイナス 5kgでも、まったく印象が違うことがおわかりになると思います。
そう、サンプルが少ないと平均は歪むのです。
平均値による判断が歪むとき
さて、次に以下のような問題を考えてみてください。
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Q. 住宅販売メーカーで営業を担当している私。お客さんの平均年収を計算するとちょうど700万円だったので、年収700万円の人に向けた新サービスを始めたのだが、まったく手ごたえがなかった。どこが間違っていたのだろうか...?
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この問題を解くために、冒頭にて取り上げた以下の事例を思い出してください。
「あなたは住宅販売メーカーの販売担当者です。今日、6人のお客さんが相談に来られました。それぞれの方の年収は300万円、400万円、400万円、900万円、1000万円、1200万円でした。今日来たお客さんの平均年収はいくらになるでしょうか」
そして、この例では平均値が700万円となりました。
しかし、ご覧の通り、実際には年収700万円の人は1人もいません。
もし、このデータに基づいて「年収700万円の人に向けたサービスを展開しよう」と考えたら、どうなるでしょうか。
年収700万円の人のためのサービスは、おそらく年収300万円~400万円の人にはちょっとお高く感じられるでしょう。一方、年収1000万円クラスの人にはあまり魅力的に映らないに違いありません。
つまり、偏ったデータから導き出された平均をもとにビジネスプランを考えると、思わぬ落とし穴にはまる可能性がある、ということなのです。
世の中には平均値が溢れていますが、平均値を見たらぜひ、「その数字は偏っていないか」「サンプルの数は十分か」などを考えるクセをつけてほしいと思います。
それが「数字に騙されない」ための何よりのトレーニングになるはずです。
みんな年収には関心を持つが...
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Q. 先日、ネットニュースで年収についての統計調査を見たところ、30代前半の自分の年収(420万円)は同年代の男性の平均年収より低いということがわかった。正直、平均よりは少し上くらいだと思っていただけに大ショック。
ただ、自分の周りを見回しても、それほど差があるようには思えない。自分は果たして「負け組」なのだろうか...。
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「年収」についての話題はみんな大好きです。ネットニュースはもちろん、広告に「年収」という文字が躍っているとついクリックしてしまう、という人も多いのではないでしょうか。
日本人の平均年収についてはいくつかのデータがありますが、国税庁より発表された「令和2年分 民間給与実態統計調査」によれば、現在の日本人の平均年収は約433万円となっています。
年齢別に見てみると、30代前半の男性では458万円、30代後半では518万円となっています。この問いに出てくる人が男性だと考えると、確かに、この人の年収は平均より40万円ほど低いようです。
しかし、周りを見たとき、年収420万円が「平均より下」というのがどうも腑に落ちない、というのがこの人の実感でした。
結論から言うと、この人の実感は正しいのです。
先ほど、サンプル数が少ないと平均が意味をなさない、という話をしました。しかし、これは国が行っている調査ですから、サンプル数は十分なはずです。
このケースはもう一つの問題点である、「数字にあまりに偏りがあると、平均が意味をなさなくなる」というほうに当てはまります。
こうした場合に役立つのが「中央値」です。