自社製品を売り込むことが営業の目的であっても、売ろう売ろうとするより、徹底的に「顧客目線に立つことが大切だというのは、約1000人のトップセールスを分析してきたコンサルタントの山田和裕さんです。できる営業とできない営業の顧客への対応の仕方にはどのような違いがあるのでしょうか。
※本稿は、山田和裕『1000人のトップセールスをデータ分析してわかった 営業の正解』(かんき出版)より抜粋・編集のうえ一部加筆したものです。
顧客視点に立てていますか?
「顧客視点に立て」。言葉にするのは簡単ですが、自分の仕事でやろうとすると簡単ではありません。「結果がすべて」という営業の世界にはびこる悪しき常識がまかり通る組織では、自分たちの目標が達成できるかどうかしか問われません。
自分たちの数字のことしか考えられないので、顧客のニーズに向き合うことができません。顧客の気持ちに興味が持てないのに、理解できるはずがないのです。
真のニーズとは何か思い出すために、ソフトですが本質的なヒントを含む事例を紹介します。大手商社M社の繊維部門に勤めるHさんのお話です。彼は入社前に婦人服の接客・販売のアルバイトをしたことがありました。
バイトなのでいくら売っても時給は変わりません。本気で売る気のなかった彼は、いきなり商品の話をすることもしません。
代わりに、来店客をちょっと観察して自然な会話から入ることにしました。仕事帰りのOLであれば「今日はお勤めの帰りですか?」。学生でテニスのラケットを持っていれば「クラブでテニスの練習ですか?」といった感じです。
真の顧客ニーズにコミュニケーションをマッチさせる
これだけ聞くと「できる営業」とは関係なさそうですが、Hさんはその店で店長や正社員含め誰よりも洋服を売っていたそうです。「自分はバイトなので、買ってくれなくても大丈夫です」と何度正直に言っても、買ってくれる人もいたほどです。
なぜ買ってくれるのかすぐにはわからなかったのですが、「店に寄ってくれる顧客が求めるものを提供できていた」ことに、ある時気づきました。
その店にくる女性客は洋服が買いたくて店に来ていたわけではなく、ちょっとした会話を無意識に求めていたのです。お店があった場所は、オシャレな街ではなく、JR中央線沿線の地味な駅ビル。扱っていた商品も流行の先端というより普段着中心のラインアップです。
来店客たちは本気で洋服を買うつもりはなく、自宅に帰る前の10〜15分、ちょっと寄り道をして気分転換をしていただけだったのです。何をするわけではないが、駅からまっすぐ家に帰るのではなく、ちょっとどこかに寄って気分を落ち着かせたくなることは誰にでもあることです。
その真の顧客ニーズに、相手に合わせてたわいのない会話をする、というHさんの自然なコミュニケーションがマッチしていたということですね。