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最後に勝つのは「不確実な時代を嘆く人」より「失敗を愛する人」

冨山和彦(経営共創基盤代表取締役CEO)

2011年01月18日 公開 2024年12月16日 更新

 

"不確実な時代"に生きる若者に勇気を与えたい

このような時代はまさに、「平時」ではなく「有事」ということができる。変化を恐れず、常に果敢に挑戦を続けていかなければ企業は生きのびることはできない。そして、挑戦が多くなればなるほど、失敗は多くなる。

その失敗を振り返って敗因を分析することには意味があるが、失敗に懲りて新しい挑戦をしなくなってしまうようでは、それ以上の発展は見込めない。ここでもやはり「挫折を活かす力」=「挫折力」が必要となるのだ。

そして、このような変化の激しい時代には、企業は常に「出血」を強いられる。ある事業がこれ以上は存続しえないと判断したら、それを切り捨てる決断が必要になる。当然、会社組織という共同体の中に犠牲者が出る。今までのような「カイシャ」モデルによる「社員全員の満足」を実現するのは難しい。

その典型が終身雇用制で、業態が5年、10年で変わるなら、同じ人を何十年も雇い続けるのが難しいのは明白だ。定年まで面倒をみるのはとても無理で、平均勤続年数が10年程度といった会社は今後どんどん増えるだろう。

このような時代にリーダーを目指すならば、こうした経営判断に伴う犠牲を一身に受け止めなくてはならない場面が必ず出てくる。社内外から恨みを買うこともあるだろう。

そのような修羅場に耐え抜く能力が、リーダーには必要になる。だが、優等生として過ごしてきたリーダーたちは、そのような修羅場に慣れていない。むしろ、今のリーダーの多くは、社内外との対立をなるべく避けて仕事を進めていく「調整型」のリーダーが多いため、このような状況に対処することができない。

そうした修羅場をくぐり抜けていく能力、これもまた本書でお伝えしたい「挫折力」の1つである。

これから日本も世界も、おそらく数十年単位で続く不安定な時代に入っていく。人間の歴史において、私たちの祖先たちはそんな時代を何度も経験しながら、今の世代に命をつないできた。

どんな時代であっても心を病まず、生をあきらめずに、ここまで生き抜いてきた私たちの中には、そういった変動や不安定をしたたかに、おそらくは愉快に生き抜く遺伝子が伝えられているはずだ。

時代を嘆き、絶望することよりも、人生という一度きりの限られた時間を、自分たちの時代とのめぐりあわせをフルに活用し、愉快に過ごしたやつの勝ちだと私は思う。

20世紀と21世紀の狭間の時代を生きてきた親の世代として、これから変動と混沌の21世紀を生きていくであろう若者たちに、そして次の世代のために「人生」という「最大遺物」(内村鑑三)を残したいという志を失っていない中高年に、何らかの勇気と自分なりの良き人生を見出すきっかけを与えることが、本書の基本的な目的である。

そして欲をいえば、その中から、新しい時代を切り開くような「打たれ強い」リーダーが1人でも多く生まれてくれることを祈っている。

 

【PROFILE】 冨山和彦
経営共創基盤(IGPI)代表取締役CEO。

1960年生まれ。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役社長を経て、2003年、産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わり、現在に至る。オムロン社外取締役、ぴあ社外取締役、朝日新聞社社外監査役、財務省「財政投融資に関する基本問題検討会」委員、文部科学省科学技術・学術審議会基本計画特別委員会委員などを務める。東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、同校日本同窓会会長。

 

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