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「空気が読めない」「正直すぎる」 発達特性を持つ人の会話で起こりがちな問題

中村郁(声優)

2024年12月12日 公開

ナレーター、声優として活躍する中村郁さんは、 ADHDやASDといった発達特性によって様々な困りごとを抱えてきたといいます。なかでも、もっとも悩んできたものは人間関係です。長年の経験から編み出した、周囲の人と軋轢を生まないちょうどいい関係性を保つためのコミュニケーションのコツについて書籍『発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術』より紹介します。

※本稿は、中村郁著『発達障害・グレーゾーンかもしれない人の仕事術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。   

 

自分がされて嬉しいこと=相手が喜ぶことではない

発達障害を持つ人は、とてもピュアで優しい人が多いと思っています。

嘘がつけない。本音を伝えてくれる。たくさん傷ついてきたので人の痛みがわかる。常に努力をしている。これらは、私の知る発達障害の人に共通する部分です。

そんな私たちですが、世間からは、「空気が読めない」「気配りができない」「わがままで自己中心的」「正直にものを言いすぎる」などと思われることが多いようです。純粋でひたむきに生きている発達障害の人たちが、このような捉え方をされてしまうのはなんとも悲しい事実です。

しかし、私なりに過去の経験から検証した結果、この悲しい事実に至るには、理由があることがわかりました。発達障害を持つ私たちは、自分基準で物事を考えてしまうのです。

こんな経験はありませんか?

職場の誰かが髪の毛を切りました。あなたは素直な気持ちを伝えます。

「前の髪型のほうがよかったですね」

すると相手の顔はみるみる曇り、不愉快そうに去っていってしまった。

このとき、相手を傷つけようなどと思っていたわけではなかったはずです。ただ思ったことを素直に伝えただけ。なぜなら、あなたは自分だったら素直に伝えてほしい、と思っているから。

よかれと思って口にしたことが、自分の意図と違うことになるのは、悲しいことですよね。この点が、私たちが社会生活を送る上で、最も注意しなければならないところです。

この世は自分と同じ考えの人ばかりではありません。価値基準も人それぞれです。さまざまな方がいるのですから、「自分がされて嬉しいこと」が、必ずしも「相手も喜ぶこと」とは限らないのです。あなたの優しさは、相手にとって迷惑行為となりうるのです。相手が望んでいないことを押し付けるのは、自己中心的な行動です。

「自分がされて嬉しいことを相手にもしなさい」とは、よく一般的に言われる言葉ですが、私たちにそれは当てはまりません。「自分がされて嬉しいこと=相手が喜ぶこと」ではないことを、まずは心に刻みましょう。

 

雑談が苦手な人は...

発達障害の私たちが苦手なもの。それは雑談です。とりとめもない、いつまで続くのか、どこでやめればいいのか、何を話せばいいのかわからないあの時間。私たちが、うまくやり過ごす方法はただ1つ。相づちを打ちまくることです。

雑談とは、その場の全体の空気を暖めたり、仕事で集まった人間のコミュニケーションを円滑にしたりするためのものです。仕事でしっかりいい結果を出すことが大前提であり、雑談はあくまでもオプションです。だから自分がリードする必要はないのです。自分から話題を提供せずとも、必ず誰かが何かを話しはじめてくれます。

だから私は基本的に、どの角度から考えてもおもしろいと感じる出来事や事件がない限り、仕事現場で自分から話題を提供することはありません。

発達障害の私たちが、雑談において失敗しないためにすべきことは、相手の会話に大きく相づちを打つことです。話題を提供してくださる人への敬意と感謝の気持ちを持って、丁寧に聞き役に徹するのです。複数人での雑談であれば、声を発さずとも、大きく首をふって頷いているだけでもOKです。

一人で納得するように、「そうなんですねー。驚きですね」と、呟いていてもいいですし、「おもしろいなあー」と、囁いていても構いません。何らかの反応を示し続けます。「まじっすか」「それはやばいですね」「さすがですね」「なるほどです」この辺りの言葉を駆使していきましょう。

自分が何かおもしろいことを言おう、などと考えなくてもいいのです。人を楽しませるというのは非常に難しいことです。自分がおもしろいと思う話が、他の人にとってもおもしろい、とは限らないのです。自分以外、誰も興味のない話を延々と続けてしまうことほど、恐ろしいことはありません。私たちは、自分の好きなことを話し出すと止まらなくなることもあるので気をつけましょう。

その代わり、相手のお話がおもしろいと感じたときは、思いっきり笑いましょう。声を上げて笑いましょう。あなたが笑うことで、その場の空気が一気に明るくなります。

 

他者と自分を切り分ける

発達障害を持つ私が一番と言っていいほど悩んできたのは、人間関係です。人間関係で失敗しないために気をつけていること。それは、他者と自分を切り分けることです。

先日Webニュース専門チャンネルで、私が発達障害を持ちながら子育てをしている様子を密着取材されたものが公開されました。これを、ある媒体が切り抜き記事にして、センセーショナルなタイトルを付けたことからSNSで大炎上。おびただしい数の批判コメントが寄せられました。

コメントの中には、次のようなものが多く見られました。

「うちの母親も発達障害で、子供である自分はとても迷惑をしている」
「ヒステリックな子育てする母親に育てられる子供がかわいそう」

私は、ヒステリックに子供を叱ったことは一度もありません。発達障害だからこそ、自分をしっかり見つめ、できることとできないことを洗い出し、周りに迷惑をかけないためにあらゆる対策を練りながら生活をしています。

これらのコメントをくださった方々が間違いだということではありません。皆さんそれぞれご自身の体験をもとに語られています。しかし、ご自身の体験や考え方が、誰にでも当てはまるわけではないはずです。自分の問題と他人の問題は、切り分けて考えてほしいのです。

なぜそんなことを言うのかというと、私自身がこの、他者と自分を切り分けることがとても苦手だったからです。

相手の問題なのに、自分が課題を解決できないかと踏み込んでしまう。
自分は相手にすべてを包み隠さず話しているのに、相手が私に話してくれなかったことが発覚するとショックで落ち込んでしまう。
何を話すかは相手の自由なのに、勝手に自分と同じだけの熱量を求めてしまう。

このような失敗を繰り返してきたので、他人は他人、自分は自分、と常に言い聞かせるようになりました。それくらいで丁度いいのです。良かれと思ってした行動が、大きな迷惑となってしまうこともあります。他者と自分を切り分けましょう。

 

苦手な人物の観察日記をつける

あなたには苦手な人物はいますか?

非常に残念なことですが、私にはいます。社会生活を送る以上、それは仕方のないことなのかもしれません。苦手な人がプライベートで出会った人なら関わらないようにすればいいだけなのですが、仕事関係だとそうはいきませんよね。

そこで、ここでは私が苦手な人物とうまく付き合うためにやっているテクニックを紹介します。

まず、苦手な人の顔の絵をノートに描きます。下手くそで構いません。あなたの思うように描いてください。次に、その日その人がしていた行動を、ノートに書いていきます。観察日記をつけるのです。

苦手な人を、そういう「生き物」がいるのだと捉え、行動を観察していきましょう。苦手と感じるのには、必ず理由があります。観察日記をつけることで、いったい相手のどの行動が苦手なのか、明確になってきます。

理由がはっきりすると、心がスッキリします。私が発達障害だと診断されたとき、自分が普通のことができない理由がわかってスッキリしたのと同じように。

理由がわかると、傾向と対策が見えてきます。この人がこういう発言をするには、こういう心理が隠されている。だから、このように言葉を返そう、といった対応策が見えてきます。そして、そこまで細かく観察していると、そのうち飽きてきます。飽きてくると、あなたにとって、苦手な人物の存在が小さくなっていきます。

それとは逆に、苦手な相手を観察しているうちに、だんだん愛着がわいてくることもあります。私は、この苦手な人物の観察日記を通して、苦手を克服し、仲よくなった人が何人もいます。

あなたも苦手な人がいるのなら、ぜひ観察日記をつけてみてください。ただし! その日記は決して家から持ち出してはいけません。ひっそり隠しておきましょうね。

 

著者紹介

中村郁 (なかむら・いく)

ナレーター,声優

ナレーター、声優(株式会社キャラ所属)。注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)併存の診断を受けた発達障害当事者。発達障害の当事者会「ぐちゃぐちゃ頭の活かし方」主催。  幼い頃より、過剰に集中しすぎてしまう「過集中」に悩まされる。それでいて注意力散漫で、毎日忘れ物やケアレスミスだらけ。人とのコミュニケーションも苦手で、常に眉間にシワを寄せた辛い子供時代を過ごす。  

学生時代は、ADHD、ASDの特性が災いし、数々のアルバイトをクビになり、あるバイト先の店長からは「社会不適合者」の烙印を押される。「自分にできる仕事などない」と自暴自棄になって、就職活動することを放棄するが、偶然が重なりナレーター事務所に所属することに。マイクの前でひたすら喋るナレーターの業務は、究極のシングルタスク。偶然にも適職に出会うこととなる。

もう絶対にクビになりたくない、という強い想いから、発達障害を持ちながらも大きなミスをしないための数々のライフハックを生み出し、仕事に取り組む。以後、22年間、産休以外で一度も仕事を休んだことがない。  

現在は、全国ネットの番組のナレーションやCMナレーションを多数務めながら、発達障害についての理解を世の中に広めるため、発達障害当事者として、執筆や全国各地で講演活動も精力的に行っている。著書に『発達障害で「ぐちゃぐちゃな私」が最高に輝く方法』(秀和システム)がある。 

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