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大人の教養の身に付け方...「動植物の図鑑」を寝室で読むのがおすすめな理由

奥野宣之(著作家/ライター)

2023年07月17日 公開

ビジネスパーソンの間で教養がブームだ。専門書を片手に、知の海に潜りこめば、頭が良くなった気持ちになる……というのは理想の話。忙しくてなかなか落ち着いて本を読めないという人はどうすればいいのか? 本稿では出版社・新聞社勤務を経て、読書や情報整理などを主なテーマとして執筆や講演活動などを行う著者が、「読むこと」の習慣について説く。

※本稿は、奥野宣之著『ちゃんと「読む」ための本』(PHP研究所)より抜粋・編集を加えたものです

 

Googleマップを見るより、大判の地図帳

「社会人の教養」として人気を集めている歴史や地理は、紙の参考資料で学んでいくのがいいでしょう。

YouTubeの解説動画を見る方がラクかもしれないけれど、ちゃんと知識を身につけたいなら紙の本で穴を埋めていく方が早い。それも「毎日コツコツと」です。

そんなわけで、本稿で最初におすすめする参考文献は地図帳と歴史資料集です。高校の授業で使っていたものと基本的に変わりませんが、内容は毎年バージョンアップされているので、新しいものを買い直した方がいいでしょう。

また、学生時代に使っていた資料集はそもそも学校が選んだものなので、自分に合っていない可能性があります。「学生時代に使っていたけどイマイチだった」という人も、書店に行って選び直してみてください。

A4やB5といった大判の地図帳は、モニタでGoogleマップを見るより「大画面」なので、一覧性がある。図版や年表が網羅されている歴史資料集と組み合わせれば、ひじょうに便利な調査ツールとなります。

おすすめの活用法は、常にテレビのそばにこれらを転がしておくことです。そして、よくわかっていない国名や地名、歴史人物、世界史上の事件などに遭遇したらパラっと見て確認する。この習慣だけはぜひ身につけてください。

歴史ドラマや国際ニュース、ドキュメンタリー映画などを見ながら律儀にこのチェックをやっていると、ものすごく頭に入る。好きな作品への理解も深まるから一石二鳥です。

コツは、「聞いたことがあるか」ではなく「説明できるか」を基準に確認することです。

たとえば「ダブリン」と聞いたら「アイルランドの首都でしょ」ですまさずに、頭の中に地図をイメージして「アイルランド島のどのへんだっけ?」と考える。で、わからなかったら今すぐ地図帳でチェック! です。

ついでに「ブレグジット」で話題になっている北アイルランドも見ておきましょう。『地歴高等地図』(帝国書院)なら、17世紀にクロムウェルに没収された地域やジェームズ1世によるイングランド人の入植地域、ボイン川の戦いの地点まで簡単に確認できます。

「テレビはプッシュ型情報だから知識を身につけるには向かない」と書きました。しかし、このように参考資料と組み合わせればプル型情報につながっていきます。ネット動画も同様に「学ぶためのきっかけ」として活用していけばいいのです。

 

旅行や出張にもスキャンして持ち歩く

中東や東欧といった複雑な地域でも、地図と資料集で一つひとつ疑問をつぶしていけば徐々にわかるようになります。「〇〇が5分でわかる」という動画を見ても3日後には何も残っていないけれど、自ら労力を注いで学んだことは簡単には忘れません。

忘れそうになったことは振り返って確認したり、ニュースがあればいちおうチェックしておいたり、とメンテナンスとアップデートをしていけば一生ものの知識になります。

私の場合、地図帳は『ワイドアトラス世界地図帳』(平凡社)、『地歴高等地図』、『新コンパクト地図帳』(二宮書店)の3冊を使い分けています。

『ワイドアトラス世界地図帳』はB4サイズ(新聞の1ページを半分に折った大きさ)でひじょうに見やすいものの、カバンに入らないので自宅専用。

『地歴高等地図』は、現代の地図だけでなく歴史上の旧都市や遺跡も載っているパーフェクトな歴史地図帳ですが、こちらも持ち運びにはやや大きいので、スキャンしたPDFデータをMacBookに入れています。

A5サイズの『新コンパクト地図帳』は日ごろから持ち歩いて、旅行や出張にも持っていく。どれも食事を抜いてでも買うべき地図帳と言えます。

歴史資料集は『ニューステージ世界史詳覧』(浜島書店)にトドメを刺します。これは難関校の受験対策として使われている情報の詰まった世界史便覧で、この分野では最強です。調べものだけでなく、読みものとしても楽しめます。

この3冊で、現代地理・歴史地図・総合年表・テーマ史などは、ほとんどカバーできる。たとえるなら家の中におなじみの池上彰氏がいて、いつでも解説してくれるような感じでしょうか。

 

寝室には動物や昆虫の参考図書を

テレビの前が地理歴史なら、ダイニングや寝室には動物や昆虫、天体など、自然科学の参考資料を置いておきましょう。

「知らないことが出てきたら必ず調べる」のが基本ですが、窓から星が見える日には星座の名前を調べ、ビルの屋上にカラスが群れていたら鳥の図鑑にカラスの生態についてどんな説明があるかチェックしたりするのもいいでしょう。

この習慣は特に小さい子がいる家庭におすすめです。NHKの「子ども科学電話相談」のように、生物や科学に関する子供の疑問には、ビジュアル資料をうまく使って説明してあげてください。自分の学習にもなります。

私は文学部出身なので、自然科学の調査については、あまり皆さんの参考になるようなことは言えそうにありません。とはいうものの、興味はあまり特定の分野に偏り過ぎない方がいいとは思っています。

好奇心は使えば使うほど広がるものであって、使わないと衰える。あまり文系や理系といった分け方にこだわると、学習の幅はどんどん狭くなってしまいます。

レオナルド・ダ・ヴィンチは、川の流れの観察から生物の血管に通じる法則性を見い出し、その発見を人物スケッチに活かしたと言われています。しかも彼にとって絵画は本業ではなかった(履歴書には「軍事技術者」と書いていたらしい)。彼のような天才を引き合いに出すのはおこがましいけれど、私はこういった枠にとらわれない学習こそが理想だと思っています。

広く深い好奇心を養うために、私のような文系タイプの人は意識的に自然科学に触れていく必要があります。さほど興味を感じないことでも、調べているうちにおもしろくなったりするものです。

たとえば、休日の午後や寝る前に、動物図鑑をパラパラめくってみる、といった具合です。イルカの種の見分け方を学んでもとくに役に立つことはないものの、なかなかいいリラックスタイムになります。

動植物や宇宙のビジュアルブックは、日常生活の喧騒から距離をとって気を休めるためのツールになってくれるのです。

私は疲れたときは落語を聞きに行くことにしていますが、目前の課題と直接関わりのない世界に浸ることには精神を休める効果があります。

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