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『とらドラ!』作者・竹宮ゆゆこの「安易な予想を許さない」小説の魅力

友清哲(フリーライター)

2023年09月29日 公開 2023年10月11日 更新

話題の新作『心臓の王国』の著者である竹宮ゆゆこ氏。代表作の『とらドラ!』や、映画化もされた『砕け散るところを見せてあげる』など、読者に安易な予想を許さない、一筋縄ではいかないストーリーに定評がある。竹宮氏の"胸熱"な作品たちを、友清哲氏が解説する。

※本稿は、『文蔵』2023年9月号の内容を一部抜粋・編集したものです。

 

竹宮ゆゆこの魅力とは?

一般文芸としては節目の10作目となる『心臓の王国』で、あらためてその実力と際立つ存在感を見せつけた竹宮ゆゆこ。

その足跡を振り返ってみれば、ライトノベル時代の素地がしっかりと生かされながら、それでいてより幅広い読み手に向けて題材をエンターテインすべく、世界観を広げてきた軌跡が見て取れる。

本稿ではこれまでのキャリアをトレースしながら、その独特の筆が持つ魅力の真髄に迫りたい。

幼少期から文章を書くことに馴染みがあったことを随所のインタビューで明かしている竹宮ゆゆこが、本腰を入れて小説を書き始めたのは大学院時代のことだという。

なお、学生時代の専攻は刑法であったそうだから、その後の作家生活にこじつけて想像するなら、これは人や物事の善悪に関して熟考する、土台作りの期間でもあったかもしれない。

 

令和の時代にも読みつがれる『とらドラ!』

最初の作品が世に送り出されたのは2004年。ライトノベル系の新人賞にたびたびトライする傍ら、最初の成果は小説ではなく美少女ゲームのシナリオであった。

いかにもライトノベルと親和性を思わせる出自だが、同年、『電撃hp SPECIAL』誌に『わたしたちの田村くん』の第一話が掲載されたことが、彼女にとっての作家デビューの瞬間ということになる。

全二巻にまとめられている同作は、雪貞という男子が小巻と広香、二人の少女に惹かれながら過ごす"中学生活最後の夏"から高校生活までを、時にユニークに、時に切なく描いたラブコメディだ。

一目惚れした小巻が転校してしまった後、高校でクラスメイトになった広香に惹かれ始める雪貞だが、そんな時に小巻から届いた手紙に想いが再燃、悩み悶えながら二人の少女との関係に翻弄される様子は、まさに思春期のあるべき姿。

何より特筆すべきは、今日の作風にまで通ずるキャラクター造形の妙味だろう。小巻が学校の進路調査票に「故郷の星に帰る」などと書いてしまう不思議系少女なら、広香は絶世の美女でありながら他人を寄せ付けない他称・ツンドラ女王と、実にエッジが効いている。

それでいて、二人のヒロインがそれぞれ訳ありの背景を抱えている点が物語に重心を与えているのも特徴で、そうした深みが早くも後の一般文芸進出を予感させもする。竹宮ゆゆこの原点に相応しい世界観と言っていいだろう。

ライトノベル時代からのファンにとっては、『とらドラ!』こそが今なお竹宮ゆゆこの代表作であるとの主張も少なくないはずだ。初出は2006年ながら、アニメ化を経て令和の今も読まれ続けている事実を見れば、確かにそこに異論の余地はなさそうだ。

こちらも高校を舞台としたラブコメディで、タイトルは登場人物である逢坂大河のあだ名「手乗りタイガー」と、高須竜児の「竜」に由来するもの。

ごく普通の男子高校生でありながら、生来の目つきの悪さから不良に見られがちな竜児と、小柄ながら極めて凶暴な性格で周囲から恐れられている女子高生の大河、二人の出会いが物語の起点となるのだが、その邂逅がふるっている。

密かに竜児の親友に想いを寄せていた大河はある日、意を決してラブレターをしたためるが、その手紙を誤って竜児のカバンに入れてしまう。慌てた大河は手紙を取り戻すため、深夜に竜児の家に忍び込むが、一方で大河の親友に惹かれていた竜児と、真夜中に意気投合。二人は恋愛成就のための共同戦線を張ることとなるのだが―。

夏休みや文化祭、クリスマスなど、高校生らしい甘酸っぱいイベントを次々に消化しながら、多彩な登場人物たちの心理が臨場感たっぷりに描かれるこのシリーズ。彼、彼女たちの心理的成長にも着目しながら物語を楽しんでほしい。

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大人の主人公たちが織りなす独特の世界線に刮目!

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