孤独から常に不安や寂しさを感じてはいませんか? 生物学者の池田清彦氏が、ひとりを謳歌できる人と不安や寂しさを抱えてる人の違いについて解説します。
※本稿は、『PHPスペシャル』2023年12月号の内容を一部抜粋・編集したものです
孤独は恐怖につながる
あなたは「ひとり」でいるときに、心から楽しめていますか? それとも寂しさや不安といった「孤独感」を感じることのほうが多いでしょうか。
2022年に内閣官房孤独・孤立対策担当室が2万人(満16歳以上)を対象に調査を行なったところ、日本では4割くらいの人たちが大なり小なり孤独感を抱いていることがわかりました。
また、「孤独な人は早死にするリスクが50%上昇する」といった調査結果もあり、孤独はタバコや肥満などに匹敵するほど「体に悪い」という声もあります。メンタルヘルスへの影響はとりわけ深刻なので、大きな社会問題として扱われるようにもなっています。
孤独に対して人間がネガティブなイメージを抱えてしまうのは、それが「恐怖」につながりやすいせいでしょう。
狩猟採集生活をしていた頃の人間(初期のホモサピエンス)は集団生活をしていましたから、「集団で協力する」ことに長けているほうが、生き延びるうえで大切でした。
逆に言えば、何らかの理由で群れに加われず孤独でいることは、命の危険にもつながります。つまり、そういう時代においては、孤独は恐怖の対象だったのです。
ただ、人類社会は大きく進歩して、たとえ孤独であっても、肉体的に、そして経済的に自立して生活することさえできれば、生き延びることは可能です。孤独が「死」に直結するわけではありません。だから現代人は本来、孤独に恐怖を感じる必要はないのです。
それでも、孤独に対する恐怖感が拭えず、そのせいで心身に不調をきたす人が多いのは、遠い昔の「孤独になると死ぬ」という感覚が現代人の遺伝的な因子の中に刷り込まれている、ということなのかもしれません。ひとりを心から楽しめるようになるには、この孤独感から抜け出す必要があると言えるでしょう。
現代人が孤独を感じる理由は?
人間が孤独に恐怖を感じやすいとしても、感じ方は人それぞれです。ひとりでいてもまったく気にしないどころか、むしろそのほうが快適だと感じる人がいる一方で、いつもたくさんの人に囲まれているにもかかわらず、孤独感に苛まれる人もいます。
そのような心的な孤独というのは、今自分がいる場所に、なんらかの居心地の悪さを感じるときに生まれます。だから、物理的に群れているかどうかとは無関係なんですね。つまり、自分の個性や能力がその場所にフィットしないことが、心的な孤独につながるのです。
これは大きな脳を持った人間だけに見られる傾向です。昔からこのような孤独に悩む人はいましたが、学校や会社、親同士のつきあいなど、集団の構造や機能が複雑化して、特定の集団に自分をフィットさせることがどんどん難しくなっていったのは想像に難くありません。
つまり、現代人が抱える孤独というのは、社会が複雑になったがゆえに生まれたものだと言ってもよいでしょう。
孤独からの抜け出し方
どんな状況でも孤独なんて感じないという人は確かにいます。そういう人の脳はおそらく、孤独への耐性が高い仕組みになっているのでしょう。ただ、そんなふうに脳の仕組みが関わっているのはまれなケースです。
いつも孤独を感じてしまうのは、脳の孤独への耐性が云々というよりも、真の意味での「自分の居場所」が見つけられていないせいだと考えられます。
では、どういう居場所が必要なのかというと、私は「主体的に自分の思いや考えを発信できる場所」ではないかと思っています。たとえたくさんの人と一緒にいても、自分のほうから何も発信できないところでは、どうしても疎外感を感じてしまいますからね。
人間は社会的動物なので、誰かとコミュニケーションを取ることで安心します。コミュニケーションとは、あくまでも双方向のものなので、誰かの言葉をただ受け取るだけではダメなのです。
ですから、孤独を感じやすいのだとしたら、自分が日常を「受け身」でばかり過ごしていないか振り返ってみることも大事だと思いますよ。