頭が固い上司、何かと反論してくる部下。いつも意見がぶつかって議論が紛糾してしまう...。正しい意見を言っているつもりなのに受け入れて貰えないのは、仕事へのモチベーションが下がる原因にもなり得る問題でしょう。しかし、コンサルタントの安達裕哉氏によれば「反論するのは得策ではない」と語ります。それは何故でしょうか。
※本稿は、安達裕哉著『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』(日本実業出版社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
意見がぶつかる相手は「敵」ではなく「合理的な人」
ある方から、質問をいただいた。
F :こちらが正しいことを言っているのに、相手が理解してくれないことが多いです。どうすればいいでしょう?
この質問に対する回答として、1つのエピソードをご紹介したいと思う。
ある大企業を訪問したときのことだ。私は部長に同席し、会議に出席することになった。会議の内容は、今後の部の方針に関するものであったが、方向性を巡って対立が予想された。
かくして会議は始まり、予想通り喧々囂々の議論となったが、そのなかで1名、ある若手の課長が頑張っていた。その課長は低迷する業績に一石を投じるべく、綿密に用意してきたプランを発表し、なんとか部署の業績を好転させようとひとり気を吐いていた。
マンガや物語であれば、「皆、そのプランに感動し、部署は一丸となって......」となるのかもしれないが、現実は厳しい。
その課長のプランには懐疑的な意見が噴出し、会議は迷走した。個人的には、その課長のプランはよくできていたし、やってみる価値は十分にあると感じた。しかし、保守的な他の幹部たちはなかなか賛同しない。
ついに部長は休憩をとった。そして、休憩中に別室にその課長を呼びつけたのである。部長はおもむろに言った。
H :頑張っているな。おまえが、やる気のある人物だ、ということは、皆よくわかっただろう。
I :はい、でも......。
H :でも?
I :なんで他の課長連中はあんなに頭が固いんですかね。怒りすら覚えます。ちょっと考えればわかるはずなのに。
ふだん、温厚な課長が気色ばんでいる。部長は、その課長に静かに言った。
H :なぜ、おまえのほうが正しいことを言っているのに、皆に聞いてもらえないと思う?
I :え......? 彼らが変わりたくないからでしょう。それか、怠けたいからじゃないですか?
部長は黙っている。
I :いい加減、そういう人たちを何とかしてください、部長!
部長はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
H :自分と異なる意見を述べる人々に対し、3種類の反応がある。知っているか?
I :どういうことでしょう?
課長は虚を突かれたようだ。
H :1つ目は、いまの課長のように、相手を「敵」とみなす反応だ。どちらかが排除されるか、一方が折れるまで戦うことになる。
I :......。
H :2つ目は、「あきらめる」という反応だ。要は「わかってもらえないので、もういい」と言って、投げ捨てる反応。無責任だ。
I :......。
H :わかるな。私はどちらも望んでいない。
I :では、どうすれば?
H :3つ目の反応を取ることだ。3つ目はどうすべきか、わかるだろう。
I :部長が前におっしゃっていたやり方でしょうか?
H :よくわかっているじゃないか。私は前に何を言った?
I :はい。3つ目の反応は、「相手の気持ちになって、相手の意見を合理的だと考えよ、自分の意見に自ら反論してみよ。そうすれば、相手の考えていることの本音が見える。それを踏まえて、次の意見を出せ」でしたでしょうか?
H :よく覚えているじゃないか。
I :しかし......。
H :しかしではない。やるんだ!
かくして会議は再開した。課長は、反対派にこう言った。
I :自分の意見に固執して、申し訳ありませんでした。少し考えましたが、皆さんの意見に「たしかに」と思う部分がありました。皆様はひょっとして私のプランに対して、◯◯というご心配をされているのではないかと思いまして。私もあらためて考えたところ、その通りだと思いました。
そして、反対派の1人が口を開いた。
E :そうは思っていないが、私はひょっとしたら△△が必要なのではないかと思っているだけだ。
I :△△ですか......。ふーむ。なぜそう思ったのですか?
E :以前、私もそれを試したことがあった。そのときに起きたことを考えると、□□だからだ。
きっかり1時間後、皆、晴れやかな顔で会議を終えた。意見はまとまり、課長も手応えを感じていた。部長も満足そうだ。部長は私に言った。
H :面白かったでしょう。相手は敵ではなく、「合理的な人間」なのです。それを忘れなければ、対話の道は残されています。
私は、それ以来「相手を打ち負かそうとすること」をやめた。「正しさ」はいったん脇に置こう。