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男性もハマる“専業主婦前提”社会のループ...変化しない日本の労働環境

PHP新書編集部

2023年09月25日 公開

働き方改革が叫ばれるようになって久しいものの、日本人男性の長時間労働の傾向は依然として変わっていないのが実情だ。共働きが主流ではあるものの妻側は非正規雇用であることが大半であり、「男性が一家の大黒柱」を担っている家庭はまだまだ多い。男女ともに負担の大きい「日本の社会構造の問題点」とは? ジャーナリストの中野円佳氏が解説する。

※本稿は、中野円佳著『なぜ共働きも専業もしんどいのか-主婦がいないと回らない構造』(PHP新書)の内容を、一部抜粋・編集したものです。

※本稿の内容は、書籍発刊時(2019年)のデータに基づいています。

 

専業主婦の妻がいることを前提にした働き方

専業主婦前提を引きずる日本の働き方は、今家庭に何をもたらしているのだろうか。マスコミ系勤務のテルアキさん(40代半ば)の妻は専業主婦歴20年あまり。テルアキさん曰く、

「妻はバイトを少しやっていた時期があるのですが、外で働くのに向いていないんです。働きたいと言い出したこともないし、心身に不調をきたしそうだから僕も働いてほしいとも思わない。一方、子どもが生まれたときには『天職』『このために生まれてきたのかも』と言うくらい、家事や育児は向いているみたいです」

三人の娘を産み育て、テルアキさんの転勤にも帯同し、妻として母として役割を果たしている。

三人の子どもと妻を養うことに対し、テルアキさんは次のように話す。「稼がなきゃ飢え死にだなと思うことはあるし、転職はしにくいかもしれないですね。一度、転職のお誘いを受けたことがあって、働き方を変えたくて検討もしたのですが、収入が落ちるので断念しました。

ただ、もともと育った家庭が貧しくも楽しく、夫婦ともに贅沢をするタイプではないので、子どもは公立で慎ましく家族仲良く、楽しみは週末に家族そろってのお母さんのごちそうみたいな生活をしています」

一方で、職場では管理職の立場。若い世代には「奥さんが専業主婦なんて、すごいっすね」と言われるというが、自分たち夫婦はたまたま向き不向きで分業をしているだけ。

しかも、自分のところは娘三人で、「かなり育てやすいタイプだったと思う」と振り返る。自分より上の世代の、専業主婦の妻がいることを前提にした働き方には疑問を感じるという。

「自分は妻と完全分業であることで、共働きの同僚に対してアドバンテージがあることは自覚しています。僕は仕事だけしていればいいので、楽だよな、と。

子どものお迎えで早く帰りますという社員を不当に低く評価するオジサンもいて、そういう人たちは想像力がないし想像する気もないんだなと不快な気分になります。選択肢が限定されるような制度設計、慣行は少しずつでも変えていくべきだと思います」

 

男性こそがはまっているループ

日本の労働時間は、総労働時間を見れば非正規社員の頭数の増加に伴い減少しているが、正社員の男性の長時間労働傾向は依然としてあり、国際比較をしても明らかだ。

男性学の研究者、武蔵大学助教(当時)の田中俊之氏は対談本『不自由な男たち』の中で、男性たちはモテることと仕事での成功に対して競争して手に入れることを煽られており、住宅ローンなどの仕組みが男性たちを「辞めにくく」していると指摘する。

同対談相手のタレント・エッセイストの小島慶子氏は自身の父親の生き方を「人生最初からそれ以外ありえない」というような砂漠の一本道であったのではないかとし、子どもたちには「一個の道を示すよりも、あれがダメならこうでもいいと考えられるように」なってほしいと語る。

平山亮『介護する息子たち』は、男性が私的領域で母親や妻に依存しているにもかかわらず、それを覆い隠して自立・自律した「男性性」を保持しているとする。

男性が稼得役割に固執することは女性への支配の志向に他ならず、男性のほうこそが妻が夫の自分に経済的に従属する可能性を回避すべきではないかと論じている。

妻が働き始めようにも、夫の転勤に合わせたために、保育園が確保できず、共働きに戻れない。そして、テルアキさんのように働き方を改善しようと転職を検討しても、妻が専業主婦だからこそ、転職できない。

残業代を含めた住宅ローンを組んでいて長時間労働をやめられない人や、転職を妻に反対される「嫁ブロック」に遭う人もいる。男性たちこそ、専業主婦前提社会のループにはまっていないか。

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主婦の仕事は大半がパート

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