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小6男児が下山中に行方不明に...専門家が教える「遭難事故を防ぐ準備」

羽根田治(長野県山岳遭難防止アドバイザー)

2023年12月14日 公開 2024年01月25日 更新

 

実際に起きた遭難事故のケース

事前にしっかりと準備をしていたつもりでも、思わぬ悪天候に見舞われたり道に迷ってしまうなど、登山には遭難のリスクがつきものです。実際にどんなケースがあったのかを知っておけば、いざというとき、慌てず対処できます。

【case1】家族と登山中にはぐれて......

両親と妹の家族4人で登山をしていた小学6年生の男の子が、下山中に行方不明になりました。警察と消防が捜索したところ、翌朝6時半頃に、登山口から100mほど進んだ登山道の脇の藪のなかから、男の子が自力で出てきました。山を下りている途中ではぐれ、休もうとしたときに斜面を転がり落ちてしまったそうです。男の子はそのまま動かず山で一夜を過ごしていました。

【こうしておけばよかった! 】

誰かと一緒に入山した場合、「相手が目視できない距離」まで離れないことが重要です。体力や運動能力に差がある場合は登る速度が最も遅い人にペースを合わせるのが鉄則です。「先に行って」と言われ先行し、どちらかが行方不明になるという事故も多発しています。とくに子どもがいる場合は、絶対に目を離してはいけません。

 

【case2】道に迷い、日が暮れて動けなくなり......

都内から登山に訪れていた50代の夫婦から「下山途中に暗くなって下りられなくなった」と消防に通報がありました。2人が持っていた携帯電話のバッテリー残量がほとんどなかったため、消防はその場にとどまるように指示し、捜索にあたりました。通報から3時間後に登山道で2人を発見。ケガはありませんでしたが、疲労が激しく回復を待って下山したそうです。

【こうしておけばよかった! 】

簡単そうに思える山でも、道に迷えば遭難することがあります。この夫婦の場合、携帯電話が使えたため救助要請ができました。「このまま進めば登山道に出る」という考えは危険。迷ったと気づいた時点で「来た道を引き返す」こと。とくに下山中は再度登ることになり、億劫になりますが、「わかる場所まで戻る」のが鉄則です。

 

【case3】転倒し、予想外の重傷を負い......

東京からハイキング目的で入山した女性2人が遭遇した事故です。キャンプ地で1泊したのち、下山しようと登山道を歩いていたところ、女性のうち1人が転倒。顔面を負傷し、自力で歩くことができなくなりました。幸い、近くにいた登山者が通報し救助を要請してくれましたが、登山道の石畳の上で転倒したため、女性は顔の骨を折る重傷を負ってしまいました。

【こうしておけばよかった! 】

山ではちょっと転んだだけでも、平地と違って大ケガにつながる可能性が非常に高いです。とくに下山中は疲労が出やすく、危険箇所とされていない場所で、油断して転倒をするケースが多くなっています。下りでは登頂の達成感から集中力が散漫になりやすいので、転倒を防ぐためにも適度に休憩をとり、水分やカロリーの補給をしましょう。

 

【case4】下山する体力がなくなってしまい......

富士山の御殿場ルートを下山していた夫婦から救助要請がありました。富士山登頂後に下山を始め、標高1,920mにある次郎坊の手前で40代の妻が限界を感じ、30代の夫から「妻が疲れにより動けなくなってしまい、これ以上自力で下山するのは体力的に厳しい」と、通報が入りました。夫婦は救助に駆けつけた救助隊員とともに、五合目(1,440m)まで一緒に下山をしました。

*富士山の登山シーズンは7月上旬〜9月上旬です。

【こうしておけばよかった! 】

富士山は観光地的なイメージが強く、子どもや高齢者でも登れるものと思われがちです。しかし最短ルートでも一般的なコースタイムは約9時間半、標高差は約1,350mです。登るにはかなり高い体力レベルを要するので、トレーニングを習慣化して体を鍛えたうえで、山中で1泊するなど余裕のある計画を立てて臨みましょう。

 

もしもに備える4つの遭難対策

・登山靴、雨具、ザックは登山三種の神器!
登山に必須なのは登山靴とザック、雨具です。登山靴は疲れやケガから足を守るために必須です。また、雨具は防寒具の代わりにもなります。ほかには、雨風をしのげる簡易テントがあると万が一の緊急時に重宝します。コンパクトに収納でき、350mL缶よりも小さくなるものもあります。

・本当の「万が一」に備える! 「登山計画書」の作成と提出
山に登るときは、必ず事前に「登山計画書(登山届)」を提出しましょう。登山計画書には登る山と行動計画、メンバー全員の氏名と連絡先、万が一に備えた緊急連絡先、装備品などを記入します。

提出先は、山を管轄する自治体の警察、登山口にある登山届ポストなどです。インターネットで提出できる自治体もあります。これを提出しておけば、遭難したときに迅速な対応が可能になるので、助かる可能性が高くなります。

・現代登山の必需品! 携帯電話と予備バッテリー
山で遭難した際には、救助を要請するための通信手段=携帯電話の有無が生死を分けることもあります。ただし、携行していても、バッテリーが切れてしまえばなんの役にも立ちません。予備のバッテリーや携帯用充電器は必携です。

・道迷い防止のための必携装備、地図と地図アプリ
道に迷わないようにするための登山地図や地形図は、山登りの必携装備のひとつです。近年は登山用の地図アプリをスマホに入れて活用している人も増えてきました。どちらにしても、事前に使い方をマスターしておく必要があります。また、地図アプリはスマホのバッテリーが切れると使えないので、必ず紙の地図も持つようにしましょう。

 

【羽根田治(はねだ・おさむ)】
長野県山岳遭難防止アドバイザー。山岳遭難や登山技術に関する記事を山岳雑誌や書籍などで発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆を続けている。2013年より長野県の山岳遭難防止アドバイザーを務め、講演活動も行なう。日本山岳会会員。『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』(山と渓谷社)など著書多数。

 

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