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なぜ「富士山」はそこにあるのか?…地球上で“唯一”の必然的な理由

水野一晴(京都大学大学院文学研究科地理学部専修・教授)

2021年06月07日 公開 2024年12月16日 更新


南アルプスから遠望した富士山(著者撮影)

2022年から、高校で地理が必修になる。日本人なら知っておきたい、日本の地理の教養を一つ紹介したい。

富士山はなぜそこにあるのだろうか。日本最高峰の山はどのようにしてできたのか?地球規模の地殻変動の結果生まれた奇跡の山――富士山の謎に迫ってみる。

※本稿は、水野一晴 著『世界と日本の地理の謎を解く』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

富士山―地球上でただ1つの特異な場所

太平洋東部や大西洋中央には南北に走る中央海嶺とよばれる盛り上がった割れ目があり、毎年数㎝ずつ東西に拡大している。開いた割れ目がマントルの上昇部にあたり、玄武岩質のマグマが供給され、新しい地殻、すなわちプレートが生産されている。

地球表層は地殻と上部マントルからなる、厚さ100㎞くらいの14~15枚もの硬い岩盤であるプレートに覆われて、それぞれが移動している。

プレートには、大陸プレートと海洋プレートがあり、海洋プレートは大陸プレートよりも強固で密度が高いため、2つがぶつかると海洋プレートは大陸プレートの下に沈んでいく。

西に進む太平洋プレートは日本海溝のところで、北アメリカプレートの下に沈み込む。北西に進むフィリピン海プレートは南海トラフのところで、ユーラシアプレートの下に沈み込んでいる。

沈み込んだプレートは、海溝やトラフから深さ100~150㎞ぐらい、距離にして250~300㎞ぐらいのところで熱がたまって岩盤が溶け、マグマが生成される。そのマグマが地殻の弱い部分をつたって、地上に現れたのが火山である。

したがって、日本付近には日本海溝から伊豆・小笠原海溝に平行に東日本火山帯があり、南海トラフ(トラフとは海溝よりは浅い細長い海底の凹地)に平行に西日本火山帯がある。

火山帯の内部では、海溝側の縁に近いほど火山の分布密度が高く、海溝の反対側(大陸側)に行くほどまばらになるため、火山帯の海溝側の縁を火山フロント(火山前線)と呼んでいる。

東北日本では、脊梁山脈の中央部を火山前線が走るため、多くの火山がほぼ南北に連なって密集している。火山前線から日本海溝側にはまったく火山が存在しない。

 

富士山の原型である古富士は10万年前にできた

日本周辺の北アメリカ、ユーラシア、フィリピン海という3つのプレートが富士山の場所で会合している。つまり割れ目の境界である。さらに、そこを火山フロント(火山前線)が横断し、もっともマグマが噴出しやすい場所となっている。

地球上でそのような特異な場所はここしかない。たまたま富士山がそこにあるのではなく、地球上でただ1つの特異な場所だからこそ必然的に富士山があるのだ。これについては、貝塚爽平先生の著書『富士山はなぜそこにあるのか』(1990年、丸善)に詳しい。

いまから数十万年前に、箱根火山や愛鷹火山の活動が始まり、ほぼ同じ頃、小御岳火山が噴火を始めた。小御岳火山は多量の安山岩溶岩や火山灰、火山砂礫を噴出し、爆発を繰り返しながら大きくなり、標高2400mほどになったと考えられている。

富士山北部の五合目にある小御岳神社は、その山頂火口(直径約1.5㎞)の一部につくられ、神社付近の泉ヶ滝では安山岩が露出している。富士山北斜面のスバルライン終点の駐車場は、小御岳火山の山体が富士山本体の横腹に頭を出している平坦部につくられている。

その後、いまから10万年前に、小御岳火山と愛鷹火山との間で、古富士という火山が活動を始め、いまの富士山のような形の山体がつくられた。

古富士は、現在の富士とは異なる性質のマグマを噴出し、爆発的な噴火を繰り返し、玄武岩の岩片と火山灰の混合物、古富士泥流を西は富士川岸、東は酒匂川上流まで流した。

この古富士は、高さ約2700mに達し、その噴出した火山灰は風で東に運ばれ、関東平野を覆う関東ローム層の上部をつくった。この古富士が流した古富士泥流は、白糸の滝や宝永山の赤岩で見ることができる。

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