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背中で歩行介助も...認知症の柴犬「しの」と介護する猫「くぅ」に訪れた最期の別れ

2024年02月21日 公開


写真:晴

柴犬のしのに認知症の兆候が現れはじめたところ、しのが大好きな猫のくぅは24時間体制で付きっきりお世話。よろけるしのを倒れないよう先回りして支えたり、顔が枕から落ちているときはそっと鼻で押し上げて直してあげます。

そんなふたりの様子を飼い主の晴さんがInstagramでUPすると、瞬く間に人気になりました。本稿では、キラリと光るくぅの介護技と、しのとの別れを紹介します。

※本稿は、晴著『くぅとしの 認知症の犬しのと介護猫くぅ』(辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

次第に上達した「くぅの介護の腕前」


↑背中でしのを休ませる技

しのの認知症発症と同時にはじまったくぅの介護。最初はしののペースに合わせて歩いたり止まったり、自分の背中にしののアゴをのせる、といったものでした。

それがしのの認知症と老化が進むにつれて、介護の技も上達。寄りかかってくるしのを全身で支えながら歩いたり、止まって動けなくなったしのを、シッポや頭で進行方向へ誘導したり。また、ひとりで歩けそうな時は少しはなれてそっと見守る......。

しのを寝かしつけるのもくぅでした。しのを丁寧に毛づくろいして、おやすみのチュッ。くぅは自分がしのを守らなきゃ、助けなきゃ、と思っているようでした。


↑くぅのぬくもりがいちばんの眠り薬

そんなくぅの愛情とぬくもりは、ちゃんとしのにも伝わっていました。くぅがそばにいると安心した表情になり、くぅが添い寝すると、ひとりの時よりも長くぐっすり眠ることができました。

まるで人間さながらの手厚い介護でしのをサポート。たまに愛情表現が激しすぎてしのを困らせることもあるけど、匠の技でいつも支えてくれるくぅなのでした。

 

しののご飯を横取りに


↑狙いを定めて、ターゲットロックオン

認知症を発症してから首を下にかたむけての飲食も難しくなったので、器の位置を高くして設置。それでも次第に器の場所も分からなくなっていったので、スプーンでの食事になりました。水も、口元まで器を近づけたらペロペロ飲んでいましたが、それもできなくなったので、スプーンで飲ませるように。

食事も変化していきました。だんだん食べなくなるしのの好みに合わせて、いろんなフードを買って試行錯誤。その結果、ドライフード→砕いてふやかしたフード→ウェットフードへと切りかえたことで、くぅが食事中にやって来て横取りするようになり、恒例のごはんドロボーが始まりました。


↑くぅは甘えんぼで食いしん坊

 

虹の橋を渡ったしの


↑しのがいた場所に佇むくぅ

いつものように食事をして少し歩いて、横になったしの。でも、その夜はいつもと違っていて、突然激しく吠えはじめました。それと同時にまったく立てなくなり、体は熱くなって、安定剤もほとんど効かなくなりました。

ひとしきり吠え続けた後はウトウト。起きるとまた吠えるをくり返すしのを、一晩中抱っこであやし続けました。

車で1時間半のかかりつけ病院と救急病院、車で2分の病院。今からだとふたつの病院に着く時間と、近くの病院の開院時間はあまり変わらない......長時間、車に乗せるのは忍びなく、近くの病院が開くと同時にしのを連れて飛びこみました。

心電図とエコー検査の後、治療のために夕方まで一時入院になったしのを預けて帰宅。少し寝ようとベッドに入ると、めずらしくくぅが布団に入ってきて、私にぴったり寄り添いました。

2、3ヶ月前から、ずっとなにかに怯えている様子だったくぅは、便秘や口内炎などの体調不良がつづいていました。きっと、しのの体の中の異常を感じとって、不安とストレスをつのらせていたのだと思います。

14時30分。病院からの電話で目が覚めました。

「しのちゃんの心臓が止まりました。いま、人工呼吸と心臓マッサージをしています。すぐ来られますか?」

あわてて家を飛び出しました。治療室では、管でつながれて横たわるしのに、先生が懸命に心臓マッサージを続けてくれていました。

「やめたら心臓が止まります」

信じられない気持ちと「ああ、逝ってしまうんだな」という思いで涙があふれました。

「しの、いい子ね。大好きよ。そばにいるよ」と、苦しそうに息をするしのを撫でながら、なんどもなんども声をかけ続けました。長く短い10分間を過ごした後、最後になる言葉を伝えました。

「先生、もういいです。ありがとうございます」

......ゆっくりと静かに、しのの心臓が止まりました。

その後の説明では、大量の下血と、レントゲンで胃拡張がみられ、おそらく胃の中にあったガンかなにかが、少しずつ大きくなり、溜まっていった血で破裂したのだろう、とのことでした。でも、痛く苦しかったはずのしのの顔は安らかで、少しほほえんでいるようでした。

しのを家に連れて帰り、いつも使っていたベッドに寝かせると、猫たちが代わるがわるそばにやって来ました。まるで、別れのあいさつをしているようでした。その中で、くぅだけは怯えたように遠くからしのを見ているだけ。

どうしても近づけない。でも、翌朝そっとしのに近づき、じっと顔を見つめた後、少しの間そばに寄り添いました。それが、くぅとしのの別れのあいさつになりました。

 

いつか、ふたりが出会えますように


↑しの桜が咲きました。元気がないくぅに見せたくて、頭にポンッ。くぅが動いても不思議と離れません

しのの遺灰は、しのが過ごした実家の庭にあった、桜の苗木といっしょに鉢の中へ納めました。

しのが旅立った後、くぅは深い悲しみにじっと耐えるように、ひとりで過ごしていました。みんなのことが大好きで、いつもしのや猫たちに寄り添っていた、わが家の中心だったくぅは、どこかに行ってしまったかのようでした。

どんなに抱きしめても、どんな言葉をかけても、暗く悲しげな瞳のくぅには届いていない気がして、途方に暮れる日々がつづきました。

でも、時が経つにつれ、少しずつまた猫たちと過ごすようになり、甘えたり、おもちゃで遊ぶようになりました。

離ればなれになった、くぅとしの。でも、いつかまた、ふたりが出会えることを、いつも願っています。

 

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