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社会

「恋愛か、結婚か」の二極化へ...婚活サービス利用者の年齢が下がる背景

山田昌弘(中央大学文学部教授),佐々木チワワ(ライター)

2024年03月10日 公開

昨今、利用者が増えているマッチングアプリと、若い女性客が増加しているホストクラブ。両者にはどのような違いと共通点があり、そこに「真実の愛」はあるのか――。

家族社会学の第一人者である山田昌弘氏と、自身もホストクラブに熱心に通う現役大学生ライターの佐々木チワワ氏が、「今どきの恋愛のリアル」について語り合う。

※本稿は、『Voice』(2024年3月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
聞き手:編集部(中西史也)

 

「本カノ」と「本営」を使い分けるホスト

【山田】ホストクラブにハマる女性は、自身のライフプランをどのように考えているのでしょうか。かつては「恋愛は結婚に回収される」という常識があったわけですが、彼女たちは自身の将来との折り合いをどうつけようとしているのですか。

【佐々木】ホストクラブの女性客にはいろいろなパターンがあります。現実逃避的に承認欲求を満たす人もいるし、これだけお金を使えばいつか「担当」(指名しているホスト)と付き合って結婚できるかもしれないと信じている人もいる。

実際に担当と結婚した人も知っていますが、いざ結婚してみると「ホストのときのあなたが好きだった」と冷めてしまうケースもあるようです。

――ホストは女性客それぞれに「彼氏」であるように振る舞うわけですよね。それで女性は自分だけが「特別」という実感を得られるのですか。

【佐々木】もちろん、ホストがいろいろな人に甘い言葉をかけていることは女性客側も理解しています。だから一部の人は「結婚」にこだわるんです。結婚はただの彼女とは違って自分しかできないわけで、ホスト側にも相当なリスクと覚悟が求められますから。

ちなみに、ホストの彼女には「本カノ」と「本営」の二種類があります。

【山田】本カノと本営?

【佐々木】本カノは本命の彼女のことで、本営は「彼女」のように扱われるけれど実際には売り上げを支えてもらうお客さんのことです。女の子は「私は本カノなのかな、本営なのかな......」と悶々とするわけですが、結婚できて初めて「私は本カノだったんだ」と実感できる。

私は、マッチングアプリで「とりあえず付き合った彼氏」よりも、数多くの女性と同時並行して疑似恋愛をしているホストの「オンリーワン」になるほうが、真実の愛に近い気がしているんです。なかなか共感は得られないでしょうが......(笑)。

【山田】とくに女性はキャリアウーマンから無収入の専業主婦まで収入格差が男性よりも大きいですから、ホストクラブでは女性客も多様化しているでしょう。キャバクラだとその場でだけ楽しみたい既婚者の男性客が見受けられますが、ホストクラブでも既婚者の女性客がいますよね。

【佐々木】そうですね。結婚で「安定」を求めたからこそ、恋愛の「トキメキ」をホストクラブで補っているという女性の話はよく聞きます。

【山田】ホストの側は当然、そうした多様な女性客に応じて接し方を変えている。

【佐々木】はい。デキるホストは、キャバクラや風俗で働く夜職の人に対しては「自分のためにここまでしてくれてありがとう」と自己犠牲的な職業選択を褒め、昼職のキャリアウーマンには「仕事を頑張って同年代よりも稼いで、ホストでお金を使える君はかっこいい」と普段は満たされない彼女の仕事面での頑張りを讃えるんです。

どっちの仕事でも金銭的貢献度は前提のうえ、認めてほしい部分を褒める感じですね。

【山田】それは上手い。日本企業の職場はいまだにホモソーシャル(男性同士の結び付き)な面が強いですから、バリバリ働く女性が日々感じている性差別や疎外感をすくってあげるわけですね。

【佐々木】ただ、夜職やお嬢様でお金をもっている人か、仕事での収入が少ないからパパ活や立ちんぼで稼いでいる両極の層には対応できても、その中間のキャリアウーマンに対する理解はまだ浅いホストが多い。ホストクラブの利用客はいまだに夜職の人が多いので、昼職のお客さんへの扱いが上手なホストは重宝されます。

【山田】利用客が多様化するなかで、一般的な会社勤めの女性客を魅了できるホストがこれから生き残っていくのでしょう。私が過去に教えた学生のなかにも、ホストでのバイトの経験をもとに卒論を書いた男性がいます。

それを読んで思ったのは、「究極の感情労働」とも言えるホストの仕事を現実的かつ戦略的にこなしているということでした。日本では、相手を良い気持ちにさせるという感情労働は男性は苦手だったのですが。いやはや、社会の変化とホストクラブへの影響、ホストという仕事自体も非常に興味深いです。

 

「恋愛と結婚は別」と考える若者たち

――山田さんの編著書『「今どきの若者」のリアル』(PHP新書)の論考「マッチングアプリと恋愛コスパ主義」には、かつて日本で主流だった学校や仕事関係でのつながりや友人の紹介といった「自然な出会い」が減少し、代わりにマッチングアプリという「積極的な出会い」が台頭してきたと述べられています。

佐々木さんは、同じコミュニティでの関係や知人の紹介といった出会いについていかがお考えでしょうか。

【佐々木】私はかなりこじらせている自覚がありまして(笑)、たとえば大学の友達のつながりで会った男性に対して、自分が相手に好意を抱いている宣言をどこですればいいのかわからないんです。

仕事の関係者や友人は明確にそのカテゴリに分けてしまうので、恋愛対象として捉えないように制御しているのかもしれません。その点マッチングアプリは、「恋愛をしてもいい場所」なのでわかりやすいですね。「自然な出会い」ってどうすればいいのか、山田先生にぜひ教えてほしいです。

【山田】そこが非常に難しいんです。いまはそもそも何が「自然な出会い」なのかが曖昧になっていますから。

また多くの人は「いずれは結婚したい」と考えているけれど、「恋愛と結婚は別」という意識もあるから、恋愛になかなか踏み出せない。リアルな恋愛で苦労するくらいだったら「推し」に夢中になっていたほうが楽だと考える人もいるでしょう。

【佐々木】そういう子は私の周りにも多いです。

【山田】40~50年ほど前の若者は未来に期待がもてたから、恋愛が将来の結婚や安定した生活につながると信じることができました。とくに団塊の世代(1947~49年生まれ)は、一回の恋愛でそのまま結婚するケースも珍しくなかった。つまり、恋愛の延長に結婚があって、両者が直結していたわけです。

でもいまの若い世代では、先ほど申し上げたように、恋愛と結婚を分けて考える人が増えてきた。ある結婚情報サービス業者によると、婚活サービスの利用者がとくに女性で低年齢化していると言います。

【佐々木】わかる気がします。出会いがないからではなく、「将来が不安だから若いうちから早めに婚活サイトに登録しておこう」と合理的な考えに基づいて行動しているのだと思います。

 

真実の愛は見つけるのではなく、育むもの

【山田】婚活サイトより手軽に利用できるマッチングアプリでも、同様の傾向が進んでいるはずです。

【佐々木】だけど、山田先生の論考に書かれていたように、マッチングアプリでは多くの人と出会える半面、互いに「もっといい人がいるかも」と「代替可能性」を意識してしまう。

一方でホストクラブは「お金を払う」という明確な線引きがあるので、むしろ安心するという人もいます。恋愛のきっかけはさまざまですけど、結局は「いかに互いの関係性を積み上げていけるか」が大事なのかもしれません。

【山田】私はカリフォルニア大学バークレー校の研究員だったときに、社会学者のナンシー・チョドロウさんに「恋愛は非合理的なものであり、自己利益をなげうってでも固着するもの」と習いました。

かつての日本では非合理的に進んだ恋愛でも、安定した結婚という合理的なものに回収される安心感があった。しかしいまはそのモデルが揺らぎ、「将来性を諦めて恋愛に固着するか」「将来のために恋愛感情を捨てるか」に二極化しているのではないでしょうか。

【佐々木】たしかに......。私はたとえ付き合えなかったり別れたりしても、あとで思い返して「相手に幸せでいてほしい」と思えていればそれでいいタイプです。

【山田】多くの人は永続する関係を望むのでしょうが、チワワさんは達観していますね(笑)。

【佐々木】恋人や夫婦という明確な関係でなくても、相手への思いは永続するかなと。やっぱり真実の愛は見つけるものではなく、育むものなのだと思います。

 

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