1. PHPオンライン
  2. くらし
  3. 中国で抜群の集客力を誇る「サイゼリヤ」 成功の影にあった、二流の立地での出店戦略

くらし

中国で抜群の集客力を誇る「サイゼリヤ」 成功の影にあった、二流の立地での出店戦略

堀埜一成(サイゼリヤ元社長)

2024年07月04日 公開


※写真はイメージです

個人消費低迷、原価高騰、人手不足など苦境の外食業界において、安さとおいしさで人気を集めているのが、イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」です。サイゼリヤは1500以上の店舗のうち、約3分の1を海外店舗が占めているなど、アジアを中心に、海外進出に成功していることでも知られています。

中国での店舗拡大を実現した出店戦略とはどのようなものだったのでしょうか。2009年から2022年までサイゼリヤの社長を務めた堀埜一成さんの視点で解説します。

※本稿は『サイゼリヤ元社長が教える 年間客数2億人の経営術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。

 

二流の立地で安く始める

客商売では立地が大事とよく言われますが、上海に進出したばかりの頃は、とにかくひどい立地ばかりでした。賃料の問題もあって一・五流、場合によっては二流の土地に出店せざるを得なかったというのが実情ですが、結果的に中国では、この出店戦略が大当たりします。

最初は大型の路面店が中心で、客席が200席を超える店もありました。それもあって、なかなか埋まらなかったのですが、値下げによって爆発的にヒットしたおかげで、順調に店舗数も増えていきます。100店を超えたあたりからは、中国トップのショッピングセンターからも声がかかり、とてもいいスペースをもらえるようになりました。

好調さを継続していくと、さらによい立地を提案されるようになりました。ただし、それには次のような条件をのむ必要がありました。

「1階に入りたかったら、ほかの土地にあるショッピングセンターにも全部出店してほしい」

「それだけは受けるな」と私は言っていました。なぜなら、広大な中国全土に散らばる店を運営できるだけのキャパシティがまだなかったからです。それに全部ついていけるのはマクドナルドくらいで、だからマクドナルドは、どのショッピングセンターでもいちばん目立つ場所に出店しているのです。サイゼリヤは、その次あたりにいいスペースをもらえています。集客力があるからです。日本でいえば、スターバックスのような扱いです。

ショッピングセンターに出店できるようになると、今度は、最初の大型店を潰して、その周辺のショッピングセンターに少し小型の店舗を2店、3店と入れていく。

そうやって店舗数を増やしていきました。わずか数年で店舗を潰して大丈夫? という声が聞こえてきそうですが、中国の店舗は老朽化が激しいのです。安い木材を使っているからです。1号店なんて、たった2年でボロボロになりました。だから、最初に出した店を潰して、よりよい立地のショッピングセンターに移っていくにはちょうどいいタイミングだったのです。

 

「潰して移転」を高速回転させるのが中国流

日本の感覚だと、一度店を建てると30年くらいもちます。ところが中国では数年でダメになってしまうので、どんどん新しいところに移っていくほうが合理的です。一・五流、二流の立地から始めたことが、結果的に成功につながったわけです。

これがもし最初から一流の立地に出店していたとすると、数年でボロくなってきたら、改装するしかないわけです。3カ月くらいは休業です。そうすると、従業員はいなくなる。新装開店するときは、またゼロから人を集めなければいけないので、教育のやり直しが必要です。だから、前の店舗を潰して、すぐに近くのショッピングセンターに移転するのが好都合なのです。休業期間もなく、従業員もそのままスライドできて、ムダがないからです。

最初は二流でもいいから、安い場所に出店し、知名度が上がってから、どんどんいい場所へ移転していく。この方法は、日本でも同様な考えでおこなっていますが、速度感はまったく違います。

日本は15〜20年で移転しますが、中国の場合数年で移転します。そのほうが、古いものがどんどん壊され新しいものが次々と生まれる中国経済のスピード感にうまくマッチしていたようです。

なにしろ、ショッピングセンター自体、続々と新しいものが誕生して、すぐにさびれてしまう世界です。すごいスピードで劣化していくショッピングセンターに取り残されることも当然発生します。

しかし、ショッピングセンター自体の客足が減ってもサイゼリヤの集客力は変わらないため、取り残されても生き残ることができるのです。ほとんどの店が撤退し、真っ暗になったフロアの中で、1店だけ煌々と明かりを灯して営業しているにもかかわらず、客席はちゃんと埋まっている。そういう店が実際にありました。サイゼリヤは中国でそれだけ受け入れられているということです。

 

著者紹介

堀埜一成(ほりの・いっせい)

サイゼリヤ元社長

1957年富山県生まれ。京都大学農学部、京都大学大学院農学研究科修了。81年味の素に入社。87年ブラジル工場へ出向。98年同社発酵技術研究所研究室長。2000年サイゼリヤ創業者・正垣泰彦に口説かれサイゼリヤ入社。同年、取締役就任。2009年代表取締役社長に就任。2022年退任。食堂業と農業の産業化をミッションとし、 13年の在任期間でサイゼリヤ急速成長の基盤づくりを行うと共に、店舗省エネ、作業環境の改善、工場品質の安定化、食材加工技術の基礎研究、脳波による嗜好研究など、独自の感性で会社の進化を牽引した。

関連記事

アクセスランキングRanking