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職場の「子持ち様」論争は、なぜ起きるのか? 解決するための1つの方法

佐藤恵美(メンタルサポート&コンサル沖縄代表)

2024年08月07日 公開

SNSで炎上した「子持ち様」論争。子育て中の同僚のフォローに振り回され、モヤモヤを抱えている...そこには、「不公平感」と「怒り」の負のスパイラルが潜んでいます。どんどん余裕がなくなっていく職場でしんどさを軽くするヒントとは? 労働者メンタルヘルスの専門家である佐藤恵美さんによる書籍『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』から紹介します。(イラスト:坂本伊久子)

※本稿は、佐藤恵美著『職場の同僚のフォローに疲れたら読む本』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

 

一方通行なのに「おたがいさま」?

最近、SNS上で「子持ち様」論争が話題となりました。次のような状況です。

【例】
「子どもが熱を出した」と同僚がまた急に休んだ。次の出社は、いつになるのかわからないとのこと。当然そのあいだの増員はなし。「困ったときはおたがいさま」とは思いつつも「休むのは権利」みたいな態度をされると腹が立つ。

実は、こうした論議は、最近にわかに注目されていることではなく、昔からずっとあるものです。フォローする立場からすると、急に休んだ同僚の仕事の穴埋めをするために終業後の予定を変更したり、残業したりといったことが起こるので、モヤモヤしてしまうのは仕方のないことです。

そこに、子育て中の当の本人から「休むのは権利」と言わんばかりの態度をされると、モヤモヤ以上の「怒り」の感情が生まれます。「子持ち様」という言葉は、「子育て中の人は、なんでも子どもを理由にできる」という特権があると思っている人を揶揄して命名したのでしょう。

 

いつも全方位に申し訳なさを感じている子育て世代

一方で、子育て中の人が、本当にそんな特権意識を持って振る舞っているかというと、そういう人はかなり少ないと思います。どんなに社会的に子育て支援の意識が高まったとしても、急に仕事を休んだり、早退したりしなければならないバツの悪さは、かなりのストレスです。

子どもをとれば職場に罪悪感、仕事をとれば子どもや家庭に罪悪感があり、祖父母などに面倒を見てもらうときも気を使い(そうしたサポートがあるともかぎりませんが)、いつも全方位に申し訳なさを感じながら仕事と子育てを続ける時期のつらさは、相当なものです。

「休むのは権利」といったドライな態度になるのも、毎日申し訳なさを感じているからこそ、開きなおって同僚に心の壁をつくるしかないのかもしれません。

 

「いつか」から「今」のおたがいさまへ

結局、休む側もフォローする側も、どちらもしんどい思いをしています。こうした論議が堂々めぐりになってしまうのは、いつまでも埋まらない不公平感があるからです。

今、子育てをしていない人にとっては、「この先、子どもを持ったり、家族に介護が必要になったりするかもしれない」という不確定な「いつか」を前提にしたおたがいさまといえます。

しかし、「自分も、いつか子育てや介護で職場に迷惑をかけるかもしれない」といった、「いつか」のおたがいさまでは解決しないのです。 

不公平感を解消する方法は、ただ1つ。

「いつか」ではなく「今」おたがいさまと思える制度設計や業務配分を実現するしかありません。子育てをしている人もしていない人も、だれもが自分の事情に合わせて働きやすさを「今」感じられているかが重要なのです。

ですので、子育て中の同僚のフォローがしんどいと感じている人は、そもそも今の職場に、ほかの要素でも働きにくさがある可能性があります。

相手に怒りを向けてしまうのは仕方がないとしても、「そもそも自分の業務量はどうか」「体調はどうか」「休みはとれているか」「自分も上司に相談したり、サポートを受けたりしているか」など、今の自分の状況を振り返ってみてください。

 

職場の疲弊するフォロー、やりがいのあるフォロー

「子持ち様」論争のように、職場には「もう勘弁してほしい」と言いたくなるような疲弊するフォローもあれば、それほど負担に感じないフォローもあります。その違いは、どこにあるのでしょうか。

「自分のやったことに『報われ感』という報酬があるかどうか」です。

報酬には、もちろん金銭的なものもありますが、それだけではなく「自分のやったことには価値や効果がある。役に立っている」と感じられる心理的な報酬もあります。

たとえば、次のようなことです。

・自分がやったことに対して同僚から感謝の言葉があってうれしい
・Aさんへの指導は、今後の自分の成長にとっていい経験になったと思える
・後輩が自分のやり方を受けついで成長してくれてうれしい
・自分が提案したことが職場全体に広がっていって満足
・自分がいることで職場をうまくまわせている感覚がある

こうした心理的な報酬があれば、自分のフォローは無駄ではなくなります。人をフォローすることにエネルギーは使いますが、その見返りとしてのエネルギーがチャージされるので、ただ疲弊して嫌になってしまうことは避けられるわけです。

 

最も自分を消耗させる感情「怒り」

一方で、エネルギーを急激に奪う要素もあります。

「怒り」の感情です。

怒りは、最も自分を消耗させる感情です。しかも、やっかいなことに私たちは自分が怒っていることを自覚しにくいという特徴があります。

なぜなら、怒りは七変化するからです。たとえば、「イライラ」も怒りの1つですし、ほかに「理不尽」「嫌悪」「失望」「後悔」「悲しみ」「攻撃」「落ちこみ」といったものも怒りの親戚の感情です。

こうした感情が自分の心を占めていると、「なんで、あの人はこんなことを私にやらせるの」「私がこんなに犠牲になってやっているのに、よく平気な顔をしていられるよな」といったネガティブな考えが、「怒り」の感情というエネルギーを使いながら無意識にぐるぐると頭をまわりつづけて、脳が疲れはてます。

①「報酬」というエネルギーチャージがない
②「怒り」の感情で消耗している

この2つが合わさると、とたんに自分のなかのエネルギーが底をつき、つらいと感じたり、心身に不調が出たりします。これが「もう勘弁してほしい!」と言いたくなるような疲弊するフォローに直面している人の内面で起こっていることです。

 

著者紹介

佐藤恵美(さとう・えみ)

メンタルサポート&コンサル沖縄代表

精神保健福祉士、公認心理師、キャリアコンサルタント、臨床発達心理士。20年間で1 万人以上の相談実績がある、労働者メンタルヘルスの専門家。北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学修了。医科学修士。日本産業精神保健学会理事。埼玉県内の精神科単科病院医療相談室、東京都内の医療法人社団弘冨会神田東クリニック副院長、同法人MPS センター副センター長を経て、2020年に「メンタルサポート&コンサル沖縄」を設立。現在、沖縄在住。県内外の企業や官公庁に対して、さまざまなメンタルヘルスサービスを提供し、年間500人以上にカウンセリングを行なっている。

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