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社会復帰したいけど...「多忙な専業主婦」を生み出す日本社会の課題

PHP新書編集部

2023年09月27日 公開 2024年12月16日 更新

現代の日本の家庭では、ひと昔前と打って変わり共働きが主流となった。そんな中で専業主婦をしているというと、「さぞかし余裕のある、優雅な生活を送っているのでは?」と考える人は少なくないだろう。

しかし実際の専業主婦世帯の生活をのぞいてみると、優雅とはかけ離れているケースは意外にも多い。日本の専業主婦はなぜ忙しない毎日を過ごし、再就職にも踏み出せずにいるのか。ジャーナリストの中野円佳氏が解説する。

※本稿は、中野円佳著『なぜ共働きも専業もしんどいのか-主婦がいないと回らない構造』(PHP新書)の内容を、一部抜粋・編集したものです。

※本稿の内容は、書籍発刊時(2019年)のデータに基づいています。

 

多忙な専業主婦の一日

いまや専業主婦世帯は600万世帯となり、パートタイムも含む共働き家庭は1200万世帯。全体の6〜7割を専業主婦家庭が占めた1980年頃とその割合を逆転させている(図4)。もはや贅沢な立場にも思える専業主婦だが、実際の生活はどのようなものだろうか。

多くの共働き家庭が保育園に0〜1歳から子どもを預け始めるのに対し、専業主婦たちが幼稚園に子どもを預けるのは3歳。いったいそれまでの2〜3年間、どう子どもと過ごしているのか。

女性自身や子どもの性格などにもよると思うが、乳幼児や幼稚園児の子どもを持つ専業主婦たちの平均的な一日は、ものすごく多忙だ。

家族よりも早く起きて身支度などをし、朝からお弁当・朝ご飯などを作り、子どもを起こし、ぐずるのをなだめつつ、着替え・食事・身支度をさせ、9時前に幼稚園に子を送る。幼稚園送りの後、スーパーやパン屋に夕食や翌日の朝食の買い物に行く。

子どもが複数で、まだ幼稚園に入らない年齢の弟・妹がいる場合は、特に忙しい。0〜2歳の子は、うまく昼寝ができないとぐずって収拾がつかなくなる。そうなる前に午前中に体力を使ってもらい、昼寝をすんなりしてもらおうと、午前中は全力で一緒に遊んだり、ベビーカーでぐるぐる歩き回ったりする。

それから下の子にお昼を食べさせ、ようやく下の子が昼寝をすると、朝の片付け、掃除などが待っている。そうこうしているうちに、あっという間に上の子の幼稚園のお迎えの時間。帰ってきたらもう大騒ぎだ。

子どもに年の近いきょうだいがいると一緒に遊んでくれる面もあるものの、喧嘩をさばき、ママの取り合いに対応する労力も増える。夏休みなどの長期休暇はこれが一日中、続くことになる。

そもそも、家事・育児とは結構複雑な業務だ。平山亮氏は著書『介護する息子たち』などで、イギリスの社会学者ジェニファー・メイソンが90年代の半ばに提案した概念「sentient activity」を紹介している。

sentient activityとは、平山氏の整理によればケアが成り立つために必要な「感知すること」「思考すること」といった営為のこと。ケアする相手の状態・状況を注視し、何が必要かを見定めること、その前提としてそもそもどのような人物で何を好み、何を好まないかを理解すること、社会関係について思慮することなどが含まれるという。

日常的に家事・育児をしている主婦は、献立を考える、冷蔵庫の中身を把握しておくといった家事の前提となるような「名もなき家事」に加え、たとえば子どもの食事を用意するときに子どもの状況や好み、次の日以降いつ買い物に行けるかといった感覚的なマネジメントもしているというわけだ。

平山氏は、作業としての子どもや高齢者の世話に従事する男性(夫など)が増えたとしても、こうしたsentient activityを通じたマネジメントを女性ばかりが担っていること、その状態から夫など誰かに作業を委ねようとするとかえって言語化する手間が生じてしまうこと、マネジメントが目に見えない活動ゆえにその困難を男性に理解させることが難しいことなどを指摘している。

平山氏はこの概念を使い息子による介護を分析しているが、子育て中の女性が負担を感じている理由や忙しく感じてしまう理由についても、同様のことが言えるだろう。

 

主婦業が忙しいから働けない

岩田正美・大沢真知子編著『なぜ女性は仕事を辞めるのか』によれば、25〜44歳の育児をしている無業女性のうち、6割が就業を希望しており、特に末子が小学生になると本格的に再就職を考え始める。

彼女たちが再就職を希望する理由としては「教育費や老後の資金など、将来に備えて貯金をしたいから」が7割超、次いで「自分で自由に使えるお金がほしいから」が5割超で、経済的理由が中心。それに次いで「仕事を通した社会との関わりがほしいから」も4割程度。

しかし、一方で再就職に不安を覚える女性は多く、その理由は「育児や介護、家庭と両立できるか」が6割近くで最も多く、次いで「自分に働くための知識や技術があるか」「就職・再就職活動がうまくいくかどうか」「社会復帰への漠然とした不安」などが続く。

共働きは大変だ。といって、専業主婦はどうかというと、乳幼児を抱えている場合はやはり忙しい。幼稚園の行事のための手作り準備など突然降りかかる作業もばかにならない。手作りにこだわった料理、子どもの教育などに力を入れようとすれば、自分の時間はほとんどない。

もちろん好きずきや、向き不向き、子どもの人数や性格などにもよるから、楽しくやっている人もいるだろう。うまく手を抜ける人もいるだろう。でも、専業主婦が「結構忙しい」ことには変わりはない。

この忙しさが前提になってしまうと、「本当は働いたほうがいいと思っている」場合ですら、なかなかもう一度働きはじめる踏ん切りがつかない。実際の声を拾ってみよう。

・3歳未満の子は基本的に(必死で保活をしないと)預ける場所がない

・3歳以上になってからは(預かり保育などを探さない限り)幼稚園のお迎えに間に合う時間の仕事しかできない。そういう仕事を見つけるのが大変だし、大した金額にならない

・3年以上も仕事を離れているブランクがあったら社会人として不安

・二人目三人目の出産、そして夫の転勤があればまた働けなくなってしまう。小学校に入ってからも宿題などを見ないといけない

・夫には「働いてもいいけど、家のことがおろそかになるのはやめてね」と言われる

一部思い込みもあるし、夫が変わらなければならない側面もあるとは思うが、彼女たちからは「働き始められない」理由が、いくらでも出てくる。

今の「専業主婦前提社会」では主婦業が忙しいからなかなか働き始められない、働けないから専業主婦前提社会が維持され、主婦業だけで忙しくなる。このループで女性は働くタイミングを逃し、それがブランクとなり再就職への不安を煽り、専業主婦前提社会を強固なものにしている。

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「女の敵は女」の対立軸が消えるとき

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