ようやく見つけた自分の「強み」が活かせないなら、目的に合わせて「強み」を変容させてしまえばいい。「使える特徴すべて」を「強み」に変換しながら、無謀な目標を達成させた土谷愛さんの書籍『適職はどこにある?』より、これまでの「自分の見え方」がちょっぴり変わる仕事術を紹介します。
※本稿は、土谷愛著『適職はどこにある?』(大和出版)を一部抜粋・編集したものです。
無謀な目標への挑戦
わたしの強みである"聞く営業″スタイルで、どうにか人並みに売れるようになってきたころのこと。ある大きな目標が浮かび上がりました。
「一度でいいから営業でMVPを獲ってみたい!」
当時勤めていた会社は、社内表彰が盛んな文化。3カ月ごとの営業成績でMVPが決まり、表彰されている先輩たちを見るたびに、「いつか自分もあの舞台に立てたら、すごく自信がつくだろうな」と憧れていました。
とはいえ、わたしの売上ペースはMVP争いに食い込めないレベル。過去データ的には、普段の1.5〜2倍ほどの営業成績を叩き出さなくてはなりません。
「聞く力」を活かしてお悩みを引き出し、自社サービスを使った解決策を提案するわたしの営業スタイルで、MVPを狙うには大きな欠点がありました。それは、成約までの時間がかかること。
とにかく一人ひとりに時間を割き、じっくり深く話を聞くことで信頼を獲得していたので、短期戦には向かないのです。まして3カ月で売上を2倍にするなど、無謀にもほどがあります。
どうしたものかと考えていたとき、ふと、机の上の手帳が目に留まりました。
目的に合わせて「強み」も柔軟に変化させる
今までに臨んだ商談のメモがぎっしり記録された、「聞く力」特訓手帳です。
じっくり話せたからこそ、自分を深く信頼してくれたお客様たちとの記録をパラパラと眺めていると、感慨深い思いになりました。でも、成約済みのお客様にはもう営業できないし……。
ん? 待てよ?
ここで妙案を思いつきました。これまでのお客様から、新たなお客様を紹介していただくのはどうだろう。
ありがたいことに、深い信頼関係を築けたお客様の多かったことが、わたしの唯一の誇りでもありました。この「紹介いただける関係性」が1つの武器になるかもしれない、と思ったのです。
素性の知れない営業マンとして出会うより、「自分が信頼している人から紹介された営業マン」として出会えたら、よりスムーズに信頼関係が作れるはず。
その出会いが「時間がかからない成約」につながれば、きっとMVPに近づけると考えたわたしは、さっそくこれまでのお客様一人ひとりに連絡しました。
「いいサービスだから」「信頼できる営業さんだよ」とお墨付きをいただきながら、たくさんのお客様が快く紹介してくれました。5分と話していないのに、「契約する準備はできているので、さっそく御社のサービスについて聞かせてください」と言われたときには、さすがに驚きました。
「紹介の威力って、ものすごいんだな……」
そう体感するとともに、大切な人を紹介してくださったこれまでのお客様に対して、あらためて感謝の思いがあふれてきました。
MVP達成に目的が変わったことによって、わたしの「強み」は、「聞く力」から「紹介をくださる人脈」へと変化したのです。
いつもの2倍近くの売上を叩き出し、念願のMVP獲得
紹介経由の商談をこなしながら、わたしは「社内」への営業にも力を入れました。
というのも、成約すればするほど、契約書や広告出稿まわりの事務作業が膨大に増えることになります。
仮にいつもの2倍の売上を作れたとすれば、さすがにわたし一人の力では業務がさばけず、お客様に迷惑をかけてしまうかも……と危機感が募ったのです。
そこで、社内のメンバーにできるだけ気持ち良く仕事を引き受けてもらうために、自分にできることをやることにしました。その1つが、日々たくさんの感謝を伝えること。
「〇〇さんが作ってくださった広告、クライアントがすごく喜んでました!」
「〇〇さんが書類処理を手伝ってくださったおかげで、いつもより1件多く訪問する時間ができて、会社の売上につながりました!」
感謝の言葉とともに、そんなフィードバックも添えて、社内中のスタッフに毎日声をかけてまわりました。
とくに営業部以外は普段「顧客の声」を聞くことが少ないので、「少しでもモチベーションになってくれたら」という気持ちを込めて声をかけました。
これまでのお客様にも、社内のみなさんにも、本当にたくさん助けられました。
こうしてガムシャラに走った結果、横ばいだったわたしの営業成績は順調に伸びていきました。
そして3カ月後、わたしはめでたく普段の2倍近くの売上を叩き出し、念願だったMVPを獲得したのです。
「もうこの会社で頑張るしかない」と覚悟を決め、もがき続けて約2年。初めて表彰台に登ったのです。
目の前には、就活で100社に落ちて絶望していたころにも、営業成績ビリになって怒鳴られていたころにも、まったく想像していなかった景色が広がっていました。
ようやくつかんだ「強み」の正体
ここにきて、ようやくわたしは、「強み」の正体について結論を出しました。
「強み」とは「自分の目的のために使えるすべての特徴」のことなんだ、と。
以前は、持って生まれた才能・他人より優れているスキル・人から認められる大きな実績を「強み」と捉えていましたが、これはすごくもったいない捉え方でした。
確かに、才能・秀でたスキル・実績などがあれば、役に立つ場面はあります。
でも、そういうものだけを「これが自分の最強の武器!」と思い込んでしまうのは意外と危険です。「なにが強みになるか」は、状況によって変わりうるからです。
わたしの場合、目的が「初めての成約」や「売上目標の達成」だったときは、「話を聞く力」という特徴が確かに強みとして活きていました。
けれど、目的が「MVPを獲る」に変わった瞬間、「営業に時間がかかる」という弱みになってしまいました。
つまり、「目的」が変われば、活きる「特徴」も変わるということなのです。
さらに、わたしの持つ「スキル」「人脈」「アイテム」「体力」「時間」「お金」というあらゆる特徴を総動員したからこそ、「MVPを獲る」という目的が叶いました。
このように、「目的のために使える特徴すべて」が強みとなって、わたしの背中を目的地まで強力に押してくれたのです。
「目的(理想の未来)」を設定し、それに向かうのに使える「特徴」を探すことが、正しい「強み」の見つけ方なのだと身をもって確信しました。
そして、「たった1つの強み」ではなく、「たくさんの強み」を使うと、目的地により早くたどり着けることもわかりました。
でも、考えるべくは「自分にあるもの」をどう集中的に使うか、これだけです。
今ある自分の特徴を、理想の未来のためにどう使うか――せひ、考えてみてください。