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部下からの信頼を失う上司のNGな「聞き方」

黒川公晴(Learner's Learner代表)

2025年02月25日 公開

リーダーに求められるコミュニケーションスキルは「話す力」だけではありません。部下の話を丁寧に「聴く」ことで、信頼関係を深め、チームを成功に導くことができます。部下から自然と信頼される話の聞き方、信頼を失う話の聞き方を比べることで、「傾聴力」を高めるポイントを紹介します。

※本稿は『ミネルバ式 最先端リーダーシップ 不確実な時代に成果を出し続けるリーダーの18の思考習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を一部抜粋・編集したものです。

 

「受け取る」コミュニケーション

リーダーにとってコミュニケーションとは、プレゼンや討論を通じて相手の心を動かしたり説得したりするばかりではありません。最終的なコミュニケーションの目標を達成するために、相手のメッセージを「受け取る」という所作も意図して行う必要があります。

「1分で話せ」、「話し方がすべて」、「ロジカルに話せ」等、私たちは社会人になると話し方について非常に多くの訓練を受けます。一方で、「聞き方」について明示的なトレーニングを積むことはほとんどありません。

コミュニケーションとは双方向であり、「話す」と「聞く」の両方がうまく機能して互いの目標が達成されていくものだとすれば、この聞き方にもできるだけ意図を込めて行うべきだということは、当然のこととして理解できます。

まずは私たちが無意識に陥りやすい聞き方の例について考えていきましょう。

 

・流し聞き

作業をしながら聞く、PCの画面を眺めながら聞く、テレビを見ながら空返事するといった聞き方は、相手にとって「聞いてもらっている」感覚をほとんど生みません。また、聞いている側の脳内でも、いわゆるワーキングメモリの大部分が作業に費やされてしまっているため、話し手のメッセージに対する処理能力は下がったままです。結果、誤解が生じたり相手との信頼関係が損なわれたりする可能性があります。

 

・乗っ取り

乗っ取りは、相手の話を途中で奪って自分の話を始める聞き方です。「わかる、わかる。自分も昔同じことがあってね......」といつの間にか自分の話にすり替えてしまう人は周りにいないでしょうか。

タチが悪いのは、乗っ取りをしてしまうとき、本人にはまったく悪気がないことが多く、むしろ善意で相手の話に同調を示そうとしていることが多いということです。しかし、最初に話を始めている相手にとって、「自分の話が中断された」という体験が残ることを忘れてはいけません。

 

・情報収集

情報収集は、自分の関心を満たすため、あるいは、評価判断を行うために必要な情報を得ようとする聞き方です。このとき、関心のベクトルは相手ではなく自分に向いています。そのこと自体に良い悪いはもちろんありません。しかし、人間のセンサーはとても鋭く、話し手は、「今この人は私の話を聞いてくれているのか、あるいは自分(聞き手)のために聞いているのか」を感覚で察知しています。

 

・評価と否定

どこか相手の話に穴を探そうとし、自分の考え方に沿うか否かをフィルターしながら聞く癖がある場合、それは「評価と否定」の聞き方をしているかもしれません。この聞き方をしていると、話し手側に2つの現象が起こります。それは、聞き手の評価軸に合わせて、「相手が聞きたいであろう」ことだけを話すようになる。あるいは、そもそも対話を避けるようになることです。

 

・茶化す

悩む相手が必要以上に不安を感じなくてもいいように、または単に感傷に浸ることが苦手であるために、真剣な話や感情的な話になると、つい冗談めかして笑いに変えようとしてしまう人もいます。これがうまく場の空気を和ませ、相手の気持ちを和らげることもありますが、「真剣に受け止めてくれていない」と話し手が感じてしまう可能性もあります。

こうした聞き方はいずれも無意識のうちに行う癖のようなものです。自分が行いがちな聞き方を特定したら、できるだけ意識し、今の自分の聞き方が、会話の内容や文脈に適しているのかを確かめながらコミュニケーションに臨むといいでしょう。

 

「傾聴」の3つのポイント

「受け取る」コミュニケーションの最も代表的な構えが「傾聴」です。

私が組織開発やチームビルディングを目的にワークショップをファシリテートする際は、深い対話を促すために、必ずこの傾聴のスタンスを全員で確認するところから始めるようにしています。傾聴のポイントは次のとおりです。

 

①判断を保留する

傾聴において最も重要な点は、心に湧き起こる様々な評価・判断の声を意識的に保留することです。評価・判断とは、話し手のメッセージを聞きながら、同時に「良い・悪い」「正しい・正しくない」「自分と合う・合わない」というようにジャッジしていく行為です。

この評価・判断は、ほぼ自動的に行ってしまうほど私たちはこの聞き方に慣れてしまっています。相手の言葉を反証したり品定めしたりしようとする自分の声に気づいたら、一旦その気持ちを保留して、相手の声にまっすぐ耳を傾けてみましょう。

 

②相手の内面と背景を探究する

判断を保留するために重要なのは、相手の話の内容だけにとらわれないことです。発せられる言葉の奥底に話者のどんな感情や価値観があるのか。目の前にいる相手の内面にも、深く複雑なメカニズムが働いています。相手の発言がどこから来ているのか、思いを馳せてみると、相手の様々な側面に気づくと思います。

また、相手の感情や価値観は、人生の様々な出来事のなかでその人が得てきた体験によって蓄積されてきたものです。今この瞬間現れている相手のメッセージは、どのような原体験によって形作られているのか、率直に尋ねてみることで、相手への理解と共感が深まり、同時に評価・判断の声は静まっていくはずです。

 

③全身で「聴く」

「聞く」は、相手の話す内容を耳と頭で整理し、理解し、判断する聞き方です。

「聴く」は、話しの内容だけにとらわれず、相手の表情や姿勢、放つトーン、雰囲気などを全身で感じながら受け止める聞き方です。話している内容は、とても辛く苦労した話であるにもかかわらず、なんとなく表情やトーンはとても誇らしげに話す人がたまにいます。反対に、誰もが喜び自慢したくなるような話を、淡々とつまらなさそうに話す人もいます。

このとき、「なんでこんなつまらなさそうに話すんだろう」「どんな体験だったんだろう」「それがこの人の価値観にどのように影響しているんだろう」と想いを馳せるには、話のコンテンツだけでなく話者の挙動すべてに意識を向けておく必要があるのです。

 

傾聴だけでは不十分「SAIDの法則」

リーダーの聞き方として「傾聴」だけでは不十分だと、米国のコミュニケーション専門家であるナンシー・デュアルテは言います。デュアルテ氏は、元副大統領アル・ゴアの有名な『不都合な真実』のプレゼン制作も手がけた立役者です。

彼女は、「SAID」モデルを提唱し、職場でリーダーに求められる聞き方はそれぞれの頭文字をとって以下の4種類に分類されると解説します。

Support(支える) :相手の成長や挑戦を積極的に承認・賞賛し、応援する聞き方
Advance(進める) :最終的に物事を判断し、意思決定を促す聞き方
Immerse(浸る) :相手のことを評価・判断せずありのまま受け取る聞き方
Discern(分ける) :状況を整理し、一緒に選択肢を模索する聞き方

先ほど説明した傾聴は、このモデルでいうと「Immerse(浸る)」に近いかもしれません。

デュアルテは、リーダーにとって重要な役割は相手が今どの聞き方を求めているのかを瞬時に判断し、意図的にその聞き方で相手と向き合うことだとしています。

私自身も過去を振り返ると、相手が「Discern(分ける)」を求めているにもかかわらず、「そうか、そうだよね」と「Immerse(浸る)」一辺倒で関わり合ってしまったために、相手の大きな不満を買ってしまった苦い記憶があります。当時は「傾聴」こそリーダーシップに求められる聞き方であると思い込んでいたのでしょう。

無意識によくやってしまっている聞き方はどれか? それによって相手の心証にどのような影響を与えている可能性があるか? 相手が自分に求めているスタンスを深く理解しようとするそのスタンスこそ、共感の重要なエッセンスなのかもしれません。

 

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