80歳目前に任された“JAL再建”…熱意のなかった社員を変えた「フィロソフィ」
2012年10月22日 公開 2022年12月28日 更新
幹部とリーダーの眼の色が変わった
しかし、私は航空運輸事業に関する経験や知識をまったく持ち合わせていない。私がJAL再建のために携えていったものは、自分でつくり上げた京セラの「原点」とも言うべき経営哲学「フィロソフィ」と、経営管理システム「アメーバ経営」だけだった。
そして、まずは「フィロソフィ」をJALの幹部や社員に説き、その意識改革を図るべく取り組んだ。なぜなら、品川にあるJAL本社で仕事をするようになってから、驚くような事態に何度も遭遇したからだ。
たとえば、「現在の経営実績はどうなっているのか」と幹部に尋ねても、なかなか数字が上がってこない。やっと出てきたかと思うと、数カ月前のデータで、しかも、極めてマクロなものばかり。さらに、誰がどの収益に責任を持っているのか、責任体制も明確ではない。
本社と現場、企画部門と現業部門、経営幹部と一般社員、JAL本体と子会社がバラバラで一体感がなく、各々が勝手に判断し、経営トップは責任を回避しているようにさえ見えた。再建に向けて、一致団結して死に物狂いで頑張ろうという熱気も感じられなかった。
そこで私は、幹部の意識改革を図るため、「JALが倒産したという事実を、素直に受け入れなければならない」と説くことから始めた。
会社更生法を申請した後も、JALは通常通りの運航を続けていたため、幹部には、倒産したという実感さえ湧かなかったようだ。
そこで私は、「倒産した事実を認め、なぜ倒産したのか、これまで何が問題だったのかを真摯に反省し、勇気を持って改革に取り組んでほしい」と、繰り返し説いたのである。さらに、そのような趣旨をしたためた手紙を、JALグループの幹部社員全員に送りもした。
さらに、2010年6月より、経営幹部約50名を集め、1ヵ月間にわたり、徹底的にリーダー教育を行なった。リーダーとしてのあり方、経営をするために必要な考え方を、理解してもらいたかったからだ。
具体的には、「売上最大、経費最小」が経営の要諦であることや、リーダーは部下から尊敬されるような素晴らしい人間性を持つと同時に、立てた目標はどのような環境変化があっても達成しようとする、強い意志を持っていなければならない、ということなどを伝えた。
それは、かねてから京セラやKDDIで私がことあることに説いてきた「フィロソフィ」、つまり経営の原理原則であった。
そのような「フィロソフィ」を学ぶリーダー教育を集中的に行ない、できる限り私自身も出席し、直接講義もした。さらには、講義終了後、彼らと一緒に酒を酌み交わし、議論を重ねた。
すると、当初、私の経営哲学である「フィロソフィ」に違和感を覚え、あまり乗り気でなかった幹部の眼の色が変わり、「フィロソフィ」への理解を深めるようになった。リーダーとしての意識もかなり高まってきた。
同じ教育を受けた仲間として、幹部同士に強い一体感も生まれてきたようだ。また、多くの幹部が、「この素晴らしい教えを、自分のものにするだけでなく、部下にも伝えていきたい」と考えるようにもなった。
その結果、幹部たちの感想を伝え聞いた各職場のリーダーから、「同様の研修を受けたい」という要望が上がってきた。それに応えるため、幹部研修を収録したビデオを用いたリーダー向け研修も実施し、延べ約 3000人が受講した。
幹部やリーダーに対する教育が終了した7月からは、研修で学んだことを実際の経営に活かしてもらうために、「業績報告会」という月例会議を始めた。
各部門のリーダー100名近くが集まり、3日間にわたり担当ごとに経営実績を発表してもらうようにした。具体的には、損益計算書の科目ごとに、計画と実績を発表し、差異がある場合はその理由を説明してもらい、必要に応じ、私から指導をするようにしている。
このようにして、JALの幹部やリーダー層へ「フィロソフィ」が浸透していったのだが、2010年の7月からは、さらにその裾野を広げようと、一般社員への教育も始めた。