
メンタルヘルス・コンサルタントの船見敏子さんは、かつて雑誌記者として1000名超の著名人のインタビューをしてきたご経験から「成功している人って、案外、いいかげん」だと気づいたといいます。
謙虚が美徳とされる中で、図々しさやズルさも持ち合わせている人の方が、周りに好かれる傾向があるのだそう。船見さんのご著書『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』では、そんな「いいかげんな人」の事例が紹介されています。同書から、いいかげんな人の"人づきあい"にまつわるお話をお届けします。
※本稿は、船見敏子著『結局、いいかげんな人ほどうまくいく』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです
相手によって自分を変える
どんな人にも同じ態度を取ることが正しい。相手によって態度を変えるなんてズルい。そんなふうに思ったことはありますか?
でも、すべての人に同じ自分でいることは「戦略」としてはたして有効なのでしょうか。
ある大企業の社長のインタビューをしたときのこと。回転チェアに座った社長は、椅子を左へ右へとくるくる回転させ続けていました。まるで、初めて回転チェアに座った子どもが、物珍しそうにくるくるするがごとく。
誰もが知っている会社の社長です。私は緊張していましたが、くるくる回る社長を見て、思わず吹き出してしまいました。話し方もとても柔らかく、親戚のお茶目な叔父さんと話しているかのような感覚に陥りました。
社長は、相手によってあえて接し方を変えると話してくれました。その人が父親ぐらいの年齢なら子どものように接する。祖父のような人なら、自分は孫になる。そうすると、とてもかわいがってもらえたのだと言います。若いころは特に、この技を使ったとのこと。
上司を前にしたときと、親友と一緒にいるときでは、あなたのふるまい方は違うはずです。誰かと交流するときのふるまいを「ペルソナ」と言います。これはいわば、仮面。私たちは無意識に、そのときどきで仮面をつけかえているのです。
社長は私に「親戚の叔父さん」というペルソナを見せていたのでしょう。相手によって意図的に態度を変えているわけですから、周囲からしたら、ズルい人なのかもしれません。でも同時に、そうしてペルソナを戦略的に使い分けていたからこそ、社長になれたのかもしれないとも感じました。
「これは自分だけに見せてくれる顔だ」と感じたら、心を揺さぶられ、その相手に好感を抱いてしまうのが人間ですから。
【いいかげんのすすめ】
いろんな顔を持っていると、人づきあいは思いのまま
自虐で油断させる
自分の出身地を自虐的な歌にして一世風靡した芸人がいます。田舎っぷりをけちょんけちょんにけなした卑屈感たっぷりの歌詞でしたから、地元の人たちはさぞかし怒っているのでは?と思いました。
しかし、その歌をいちばん支持して笑っていたのは、ほかでもない地元の人たちだったのです。インタビューのときも、その芸人は自虐ジョークをところどころで繰り出し、思い切り笑わせてくれました。
一般的に自虐は、自分をいじめる行為。私も研修やセミナーでは、「自分を傷つける言葉を使うのは控えましょう」と伝えています。しかし、オーストラリアの研究機関によると、「自虐的なジョークを言うことは、親しみやすさを築くのに有効」だとのこと。
確かに、この芸人は、とても親しみやすいキャラクターとして認識されています。彼が自虐ジョークを口にするたびに、私は思わず油断し、心を開いていたのです。そしていつの間にか、ファンになっていました。
自虐ジョークは、いわば「逆マウンティング」。ビジネスパーソンでも「私がいるので暖房いらずですね」などと、自分の体形を自虐ジョークにして笑いを取る人がいます。また、頭のいい人や地位の高い人が失敗話を放ってくれると、なんだかホッとします。
マウンティングは嫌われますが、ちょっとした失敗談や苦手なことなどの自虐ジョークを会話に盛り込むことで、好感度は上がります。
人間関係の潤滑油として自虐ジョークをうまく使えるといいですね。ただし、とても高度なワザなので、よく練ってから使うことをおすすめします。
私も、自虐ジョークが下手な自分を自虐するジョークを作れないか、模索中です。
【いいかげんのすすめ】
相手を持ち上げるより、自分が一段下がるほうが簡単
あえて図々しく振る舞う
謙虚が美徳とされる日本では、図々しい人は嫌われがちです。電車で空いた席に我先に座る人。旅行帰りの人が会社に持ってきてくれたお土産をガバッと取っていく人。そんな人を見ると、「ちょっとは遠慮すればいいのに。ああはなりたくない」と思ってしまいますね。
私も図々しさを嫌っていましたが、あるバンドとの出会いで、考えが覆りました。
とても好感度が高く、多くの人に愛されているそのバンドに、「人と仲良くなる秘訣」を聞いたときのことです。 きっとうまい会話の仕方を教えてくれるのだろうなと予想していたのですが、返ってきた答えは意外なものでした。
「食べ物を出されたらおかわりするんですよ」
誰かが料理を振る舞ってくれたら、ごちそうしてくれたら、おいしそうに食べる。全部食べつくす。さらに、おかわりする。それが秘訣だというのです。
人に何かをしてあげると、その相手に好意を持つという不思議な現象があります。これを、「フランクリン効果」と言います。
私たちは、人に何かをしてあげると、「自分はこの人のことが好きだからやってあげたんだ」とまったく無意識に錯覚します。そして、実際に相手に好感を持つのです。
つまり、相手に好きになってほしいなら、どんどんお願いやおねだりをしてしまうといいのです。
人から愛されたいなら、遠慮も謙虚さも無用。図々しいくらいに相手に踏み込むと、嬉しい結果が待っているかもしれません。
【いいかげんのすすめ】
人の好意を受け取るだけで、もっと好いてもらえる