睡眠は心身の健康維持に不可欠なものです。医師の長尾和宏さんは「良質な睡眠は、認知症のリスク低減にも効果がある」と語ります。本稿では、睡眠の質を高めるために重要な「日中の歩行の効果」について書籍『歩く人はボケない 町医者30年の結論』より解説します。
※本稿は長尾和宏著『歩く人はボケない 町医者30年の結論』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
自然な眠りのために、歩行が重要
睡眠には周期があり、レム睡眠とノンレム睡眠の2種類が繰り返されています。
レム睡眠は、目を閉じていても眼球が素早く動いている状態です。体は休息していますが、脳は活発に活動しています。夢を見るのはレム睡眠のときです。一般的に、レム睡眠は「浅い眠り」と言われています。
一方、ノンレム睡眠時には脳の活動も低下しています。ノンレム睡眠は「深い眠り」であり、成長ホルモンが分泌されていると考えられています。
レム睡眠とノンレム睡眠がワンセットで、若い人は計90分くらいと言われています。この90分くらいの周期が一晩に数回、繰り返されます。入眠するとまずノンレム睡眠に入ります。最初に訪れるノンレム睡眠のときが一番深い眠りに達します。
数十分後には眠りが浅くなり、短いレム睡眠に移行します。このワンサイクルが約90分と言われています。この周期を一晩に数回繰り返すそうですが、2回目、3回目の周期ではノンレム睡眠は1回目のノンレム睡眠より浅くなってきます。
1回目が一番深い眠りにまで行き、2回目は1回目ほど深い眠りまで行かず、3回目は2回目ほど深い眠りにはならず、明け方になってくると、浅い眠りのレム睡眠の時間が長くなってきて、ほどなく目が覚めます。
このように一定の睡眠リズムを保った睡眠が「良質な睡眠」と言われています。睡眠時間の長短がよく議論されますが、あくまで量より質です。睡眠時間はかなり個人差があります。しかし6時間以下や10時間以上など極端な睡眠時間はよくない、と言われています。
ところが、睡眠薬を飲んだ場合は、良好な睡眠リズムが得られません。つまり自然な眠りとはかなり異なっているということです。
睡眠薬を常用している人は、認知症発症リスクが高くなる可能性が示唆されています。認知症のリスクを下げるためには、睡眠薬を使わない自然な眠りが大切です。すでに長く服用されている方は減薬や断薬を考えたほうがいいと思います。
自然な入眠には、心地よい疲労が必要です。昼間に適度に歩くことで心地よく疲労し、睡眠の質が改善され、認知症リスクが減ります。
太陽の光を浴びて、体内時計を整える
脳には松果体という部位があります。大きさはグリーンピースくらいの小さな臓器で睡眠に関連しています。松果体は、メラトニンという睡眠ホルモンを作る部位です。認知症といえば海馬ばかりが注目されがちですが、認知症は睡眠障害であるという視点からみれば、松果体の働きもとても重要です。
一日のリズムとして、活動時間帯の昼間には眠くならずに、夜に眠くなるために、睡眠ホルモンのメラトニンは主に夜に分泌されます。そのためには太陽の光が重要です。
人間の体内時計は約25時間周期とされ、自然界の24時間周期とは1時間ズレています。毎日、1時間ずつ時差が生じています。それをリセットするのが、朝一番の太陽光です。ですから、まったく光が入らない独房に閉じ込められると、毎日1時間ずつズレていき、2週間後には昼夜が逆転してしまいます。
ですから、朝起きたらカーテンを開けて太陽の光を浴びることが重要です。こうした体内リズムは時間医学という分野で研究が進んでいます。
太陽光を浴びると脳内でセロトニンという神経伝達物質が分泌されます。セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれているものです。
わかりやすく言えば、太陽の光を浴びると、それだけで幸せな気分になるということです。私は、太陽の光をたくさん浴びて幸せそうな顔貌を「セロトニン顔」と呼んでいます。
セロトニンは、睡眠ホルモンであるメラトニンの材料になります。朝から日中にかけて脳内にセロトニンがたくさん分泌されると、夜にメラトニンが分泌されやすくなります。朝7時に太陽の光を浴びれば、その15時間後の夜10時くらいには、睡眠ホルモンが出てきて、自然に眠たくなります。
朝、太陽の光を浴びながらの散歩は気持ちがいいものです。その結果、睡眠の質が高まり、認知症のリスクは減少します。