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真面目に生きてきた人ほど悩む「老後のイライラ」 心穏やかに過ごす秘訣

保坂隆(精神科医)

2025年07月09日 公開

年を重ねても、イライラや嫉妬心、競争心にとらわれて悩んでいる人は多いものです。これまで真面目に生きてきた人ほど、制約に縛られてストレスを抱え込んでしまうこともあります。どうしたら心穏やかに老後を過ごすことができるのでしょうか。書籍『精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」』より、精神科医・保坂隆さんの言葉を紹介します。

※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 心が軽くなる「老後の整理術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

自分に厳しい人ほど、老後はさらにイライラやストレスが増える

「上司として、部下の模範となる実績や態度を示さないといけない」
「教師である以上、人に後ろ指を指されるような生き方はできない」
「○○家の嫁なら、品位のある行動をしなければ周りに恥ずかしい」

など、さまざまな事情と制約の中で暮らしている私たちですが、一生そのまま肩書きや立場に縛られていたのでは、息が詰まりそうですね。

確かに「昇進するまでは必死で頑張ろう」「独立するには精一杯努力しなければならない」などと一定の期間、目標に向かって全力で努力することは大事ですが、老後を迎えたら、そろそろ「自分の人生はこうあるべき」といった枠を取り払っても良いでしょう。

いつまでも、「~であるべき」という考えに囚われていると、せっかく目の前にある老後の楽しみを逃すようになってしまいます。

現役を退いたのに、上から目線で周囲に「分からないことがあれば私に聞きなさい」と言う人や「まだまだ体力も頭脳も若い者に負けない」と、ことさらに若さをアピールする人は、実は「若々しく頼りになる先輩」をいつまでも演じようと必死なのかもしれません。

もともと真面目で模範的な生き方をしてきた人ほど、シニアになっても厳しく自分を律する傾向があるようです。

しかし老後の域に差しかかったら、こうした制約から解き放たれて、解放感のある人生も楽しまなければ、もったいないのではないでしょうか。定年をひとつの区切りとして、もう少し「肩の力を抜いた人生」を再スタートさせるのも良いものです。

そのためには、今まで「~してはいけない」と思ってきたものを、あえて「~しても良い」と考え直してみるのはどうでしょうか。

たとえば、「夜は早めに寝て早起きしなければいけない」というのを「たまには夜更かしして朝は9時に起きても良いだろう」にします。

「いつもきれいに家を掃除しなければ」を「ホコリでは死なないのだから、2~3日なら掃除をさぼっても良い」にします。

「一日三食きちんと食べる」を「お腹が空かなければ無理に食べず、好きな時間に食事をすれば良い」に変えるだけで、とても自由な気持ちになれるはずです。

現役の頃に比べて体力も気力も衰えてくる分、昔と変わらず自分を縛りつけるルールが多いと、次第にそれが達成できなくなり、イライラやストレスが増えるものです。

もし「こうありたい」という目標の人物像があるなら、老後はそれに「細かいことにはこだわらず、自由な発想で楽しく生きている人」というイメージを重ねてみてはいかがでしょうか?

参考になる人は、別に歴史上の偉人でなくても、先輩後輩、友人知人、兄弟姉妹、親戚のいとこ、近所の人など、今まであなたが出会ってきた中でそう感じる人が必ずいたはずです。きっと、自分の中で凝り固まった枠が吹き飛ばされて、心がフッと軽くなると思います。

 

何歳になっても他人と比べる「競争心」「嫉妬」は枯れませんか?

全力で勉強や仕事に打ち込んでいた若い頃は、他人への競争心やライバル心がやる気の原動力になっていたものです。

「あの人にだけは負けたくない」とか「必ずあいつには勝つんだ!」という思いでライバルと競り合うことは、自分自身の能力を高めると同時に、厳しい競争社会で生き抜くのに欠かせない要素であったはずです。

こうして切磋琢磨しながら出世街道を歩んできた人にとって、ライバルは、戦友のような存在です。「俺とこいつは同期の競争相手で、ずっと抜きつ抜かれつのデッドヒートの闘いをしてきたものさ」などと、人生の節目になる懐かしい思い出もたくさんあるでしょう。

このように自らのモチベーションを上げるためにも必要だった競争心ですが、定年を迎えて職場を去る頃には、かつてのライバルも良き同僚となって、競い合う対象ではなくなっていくのが普通です。

しかし定年を境に、取締役として企業に残る人と一般社員として社を去る人に立場が分かれた場合などは、その「ステイタス」に大きな差がつきます。

そうなると、会社を離れる立場の人の心中はにわかに穏やかではなくなり、「なぜ自分が選ばれなかったのに、あいつは役員になれたんだ」とか「実力では負けなかったが、しょせん世渡りが上手い奴にはかなわないな」などという不満が頭をもたげて、強いストレスを感じてしまいます。

これは一見、競争に負けたことへの敗北感のようですが、実は嫉妬の感情に他なりません。性別や年齢に関係なく、自分よりも人生を有利に展開する人に対し嫉妬を覚えるのは当然のことで、一時的にイライラした気持ちはピークに達するでしょう。

嫉妬の中でも「出世」「地位」といった権力的にも、名誉的にも、経済的にも明確な差がつく部分では激しい感情を持ちやすいので、気持ちの整理をつけるまでは少し時間がかかるかもしれません。

また、年齢を重ねれば「感情の起伏」も小さくなると思われがちですが、それにも個人差があります。一概に年を取れば、誰しも落ち着きが出て温厚になるという単純なものではありません。ですから、常日頃から自分自身の「心を制御する方法」を身につけることが大切です。

特に、高齢になってからパワーバランスを逆転するのは難しいため、他人との比較で自尊心をわざわざ傷つけるような「嫉妬する癖」は、できるだけ避けたいものです。

老後を迎えたらよほどの必要がない限り、現役時代の話についてあまり深入りしないスタンスを保つほうが得策です。

少し努力が必要になるかもしれませんが、「人は人、自分は自分。他人のことには関心を持たない。関心を持ったところで、何がどうなるものでもない――」と割り切ってしまうのが一番良いでしょう。

そうして自分と他者との関係を整理したら、余計な関心も嫉妬も捨ててマイペースで我が道を行けば良いのです。

もちろん「隣の芝生は青い」で、何となく他の人が羨ましく見える時があるかもしれません。しかし実際には誰の境遇も一長一短で、人生で何かに恵まれていれば他で苦労しているなど、トータルすればそれほど大差はないものです。

それを承知して、あとは今の自分の境遇を肯定して満足することができれば、イライラとは無縁でいられるのではないでしょうか?

「上を見ても、下を見てもキリがない」と納得すれば、他人との比較がいかに意味のない、ただ「自分の心を不安定にさせる」だけのことなのか、合点がいくはずです。

 

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