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リーダーシップは持って生まれたもので決まる? 長年の研究で明らかになったこと

一條和生(IMD[スイス、ローザンヌ]教授)、細田高広(TBWA\HAKUHODOチーフ・クリエイティブ・オフィサー)

2025年07月17日 公開

歴史上の偉人、経営者、政治家といった人々は、しばしばカリスマ的なリーダーシップを持っているように見受けられます。先頭に立って人々を導く姿を見ると、「リーダーシップは生まれ持った才能なのだろうか?」という疑問が浮かぶかもしれません。本稿では、長年のリーダーシップにまつわる研究から明らかになった「リーダーに共通する条件」とは? 書籍『16歳からのリーダーシップ』より解説します。

※本稿は、一條和生,細田高広著『16歳からのリーダーシップ』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

何が「リーダーシップ」に重要なのか

経営学という学問の世界では、世界中の研究者たちが何が「リーダーシップ」に重要なのかをずっと研究してきました。

最も古い研究は、リーダーが持って生まれた個人的な特性に注目した研究です。どんな資質や行動特性を持つ個人がリーダーにふさわしいのか? という問いに答えようとしたのです。

その探究の歴史は古く、古代ギリシアの哲学者プラトンは『国家論』で、「英知を持ったリーダーが国を治めるべきである」と述べました。近代では、19世紀のイギリスの歴史家、トマス・カーライルは『英雄崇拝論』の中で「優れた資質を持つ偉人がリーダーになる」というリーダーシップ偉人説を広め、これがリーダーシップの理解を長く決定づけることになりました。

現代になり、リーダーの資質を特定しようとしたのがラルフ・ストックディルという研究者です。ストックディルは20世紀に入ってから行われたさまざまな研究を分析し、『Handbook of Leadership(リーダーシップのハンドブック)』の中で、リーダーに共通する特性として①創造性、②人気、③社交性、④判断力、⑤積極性、⑥優越欲、⑦ユーモア、 ⑧協調性、 ⑨活発性、 ⑩運動能力などを挙げました。

確かに挙げられている項目を見れば、どれもリーダーに欠かせない特性に思えてきます。けれど、これらすべてを持ち合わせる人なんて、滅多にいませんよね。この研究が正しければ、よほどのカリスマでない限りはリーダーには相応しくないことになってしまいます。

実際、資質に注目したこれらの研究は、現在では成功したとは言えません。先に挙げた特性はリーダーではない人や、リーダーとして失敗した人にも十分に当てはまってしまい、リーダーシップにとって本質的に重要とは言えないということが明らかになってきたからです。

 

リーダーに向いていない人はいる?

自分はリーダーには向いていない、と言う人の多くが、「自分にはカリスマ性がないから」と口にします。カリスマとは、人の心を惹きつけるようなとても強い魅力のことや、その魅力を持っている人のことを意味します。しかし、そもそもカリスマ性とは一体なんなのでしょうか。リーダーシップにカリスマ性は不可欠な要素なのでしょうか。それを考える上で、とある人物を紹介させてください。

その少年は父親の事業の失敗により、9歳にして大阪の自転車会社で働き始めました。その5年後、大阪市に鉄道の電気が敷かれます。これを見た少年は「これからは電気の時代がくる」と考えました。そうして15歳で大阪電灯(現在の関西電力)に転職します。最初の仕事は工事に必要な材料を運ぶ仕事でした。

16歳で工事担当者になり、22歳で目標だった「検査員」に昇格します。ところがこの検査員の仕事とは、他の担当者が行った工事を翌日に検査して悪いところがあればやり直しを命じるという単調なもの。何か自分にできる、もっと面白いことはないか。そこで思いついたのが、専門家にしかできなかった電球の取り外しを簡単にする、新しい電球ソケットの開発です。

しかしながら、工夫をこらしてつくった試作品を見せた上司から、「使い物にならない」と一蹴されてしまいます。しかもその頃、結婚したばかりにもかかわらず肺尖カタルという病気に罹り、長くは生きられないと医師に告げられてしまうのです。将来に不安を感じるようになった彼は、生活のためにもなんとか早く一人前に、と独立して会社をつくることになりました。

この物語の主人公は、のちに日本を代表する大企業になったパナソニック(旧社名は松下電器産業)の創業者、松下幸之助です。彼は町工場としてスタートした会社を世界的な大企業に成長させたことで、「経営の神様」とも呼ばれるようになリました。1989年に亡くなりましたが、今でもその名声は語り継がれています。

 

カリスマなんて結果論

松下幸之助は日本のビジネスリーダーの中でも突出した人物で、世界中のビジネスリーダーや経営者に思想でも実務でも影響を与えました。従業員の福利厚生や社会貢献活動にも力を入れたほか、企業の社会的な責任を重要視する先駆者でもあります。今なお、松下幸之助をカリスマ的な経営者と呼ぶ人は多くいます。

しかし、会社でやりたいことが叶わず、病弱で将来に不安を抱えていた青年のイメージからは、カリスマ的経営者を想像するのは難しいでしょう。ストックディルの挙げた10の項目をすべて満たしていたようには思えませんね。

成功した人物を見る時、私たちは結果から類推して「この人にはカリスマ性がある」と勘違いしてしまう傾向があります。つまり成し遂げた成功に引っ張られ、人格部分を過大評価してしまうというわけです。研究者は「カリスマ性」とは、あくまで結果論に過ぎないと判断しています。

 

リーダーシップは行動で説明できる?

いずれにしても、リーダーシップの発揮と、持って生まれた資質との間に絶対的な相関関係がないのであれば、自分はカリスマではないと考えている人(そしてそのような人が、社会ではむしろ多数派だと思います)には朗報です。

では、何がリーダーシップの発揮に必要なのでしょうか? 次に研究者が注目したのは「行動」でした。優れたリーダーシップを発揮した人とそうでない人の間で、どのような行動の違いがあったのかを調べようとしたのです。

例えばアメリカのミシガン大学の研究者は、仕事そのものに注目する「生産重視」と、働く人間の関係性に注目した「従業員重視」の2つにリーダーの行動を分類し、後者を重視する方が業績は上がる、と主張しました。

オハイオ州立大学の研究者は、仕事のやり方を工夫する「構造づくり」と、メンバー間の信頼関係を高める「配慮」の2つをリーダーの行動とし、結果を生み出すためにはどちらも必要だと考えました。

ところが、こうした研究も、最終的にはすべてを説明することができなかったのです。ある条件では当てはまるが、条件を変えると同じ結果が得られない。つまりリーダーシップの発揮は「時と場合による」という結果だったのです。この後に、置かれた条件によって必要なリーダーシップが変わるとする「状況適応理論」なども提示されましたが、決定的な答えは出ていません。

 

自分らしいリーダーシップへ

こうしてリーダーシップの研究者たちは半世紀以上にわたって、一流のリーダーに共通しているスタイルや特性や性格、つまりリーダーへの「向き、不向き」を明らかにしようとしてきました。けれど、結論から言えば、リーダーに共通する条件と呼べるものは、ひとつもなかったのです。

研究者は優れたリーダーシップには型があるのだ、という考え方自体が間違えていたと考えざるを得なくなります。そう、リーダーに向いている人なんていないのです。逆説的ですが、それはリーダーシップ研究の最大の発見と言っても良いでしょう。

現在では、誰かの真似をするのではなく、ありのままの自分を表現できている人こそが、人に信頼され、信じられ、影響力を手にしていることが分かってきました。リーダーらしさより重要なのは、自分らしさである。この考え方から2000年代に入って提唱されだしたリーダーのあり方を「オーセンティック・リーダーシップ」と呼びます。

その初期の代表的な提唱者はビル・ジョージです。オーセンティックとは「本物の」「正真正銘の」を意味する言葉。つまりオーセンティック・リーダーシップとは、誰かの複製やものまねではない、自分の考えや価値観を大切にする自分らしいリーダーシップのことなのです。

この考え方の面白いところは、人生の中で培われた価値観こそリーダーにとってかけがえのない資産であり、生き方とリーダーシップスタイルは切り離せないという点を明確にしたことでしょう。組織やチームの内部の問題を超えて、人生という視点からリーダーシップを考える時代になったのです。そうなってくると、大人になってからのリーダー研修だけでは不十分だということも分かってくるのではないでしょうか。

 

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