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有望な経営者が、社員に疎まれ「孤独な人」になっていくのは何故なのか?

大賀康史(フライヤーCEO)

2024年04月08日 公開 2024年04月25日 更新

ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。

今回、紹介するのは『経営中毒 社長はつらい、だから楽しい』(徳谷智史、PHP研究所)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。

 

社長の孤独の本当の意味

経営者に対して皆さんはどんなイメージを持っているでしょうか。メディアで謝罪会見を行う様子や、新製品を発表する姿をイメージする方もいるでしょうし、スタートアップのピッチコンテストでプレゼンテーションをしている様子が浮かぶ人もいるでしょう。

実際には自社の社長に対して、いいイメージを持たれている人の方が少ないように思います。直接社長に接している人であれば、無理難題を突き付けてくる人、とにかく機嫌の悪い人、会議で威張っている人、というところでしょうか。あるいは、遠くにいてあまり自分の仕事とは関係がない人なのかもしれません。

本書を読めばそんなイメージは変わるでしょう。経営者は、実は日々誰にも相談できないことを悩み、一つ一つの意思決定の重さに恐れを感じ、社員とその家族への責任を背負い苦しんでいる、ということに気づきます。もし読者が経営者なら、よくわかるとうなずきたくなるシーンが多く描かれているでしょう。

本書『経営中毒 社長はつらい、だから楽しい』は、著者による人気のポッドキャスト番組「経営中毒 ~だれにも言えない社長の孤独~」の内容をもとに、書籍用に体系的にまとめられたものです。

経営者であればよくある経営課題の対策事例集として、社員の人であれば経営者の仕事をよりクリアに想像できて少し社長に優しくなれる、そんな珍しい本だと言えます。

 

会社崩壊の最大の理由は人の問題

ほとんどの経営課題は資金、人・組織、事業の悩みに集約されます。その中でも最も悩むことが多いのが人の問題でしょう。本書の第2章には人に関わる社長の悩みとその対策が多く記載されています。

社長は自身と同じ強さのコミットメントを人に求める傾向があるといいます。社長の多くは銀行や投資家からお金を投じてもらう際やオフィスを借りる際には貸主から連帯保証に類することを求められることが多く、もし成果が出せなければ社長個人でその資金を返済する義務を負っています。

その義務が課されることは減りつつありますが、過去の契約からまだ多くが残っています。社長は元来コミットメントが強い人が多いのですが、連帯保証の慣習から人よりも強くなる構造もあるのです。そして、同様のコミットメントを周りの人にも潜在的に求め、期待が空回りして人知れず不満を感じるということも起こります。

スタートアップであればストックオプションを付与することで、上場時に大きなリターンを分かち合うこともできます。ただ、それだけで社員が社長と同程度にコミットすることは多くありません。能力があれば社員は極論、いつでも他社に転職することができます。

同じ思いを持てなければ、社員は離反していくことになります。もっと大きな目指すべきミッションをすり合わせ、心の底からの合意が求められるのです。仮に合意していても、離れるときは離れるのですが。

そして、一人の採用の失敗が組織を傾かせてしまうこともあります。一定の規模の会社であれば、すべての採用が成功だったと言い切れる社長はいないでしょう。

本書には、採用の失敗を減らすために、複数の人で選考をすることや、地位を過度に求める人や自分で実務をせずに外注に頼りがちな人を避ける、などの留意点が掲載されています。採用の失敗による損失は大きいので、避けられるコツはあらかじめ知っておきたいところです。

 

誰もが一度は経験する組織崩壊

成功していると言われている企業でも、そのほとんどが一度は組織崩壊を経験しています。社長自身の考え方や価値観に問題がある、人が足りないために採用基準を下げた結果カルチャーが壊れる、などの理由も本書に紹介されています。

その中でも特に留意すべきなのは、「成長しない痛」にみまわれた時です。ベンチャー企業にとって成長が止まることは、株主や銀行からの圧力を強めることにつながります。上昇気流が止まっていることは、外部よりも社長や社員がより強く感じます。

さらには、成長施策失敗の原因をめぐって、社内が分断することも起こります。事業を成長させ続けることは、組織の健全性を保つために何よりも大切なことだとも言えるでしょう。

また、業績目標を特定の個人にゆだねすぎると、部署間の闘争にもつながります。組織のゴールが先にありその目的に個人が集うという理解を浸透させることなど、社員のベクトルを揃えていく努力が求められます。社員の多くが一つの方向に向かう強い組織を築くのは、一朝一夕にできるものではなさそうです。

 

利害関係のはざまでなされる決定

事業部門の閉鎖のように、たくさんの人の想いがのったものを廃止せざるをえないこともあります。そこで働く人たちの雇用を維持できない場合には社長にかかる心理的な負担はより増えることでしょう。

本書によれば、会社の経営が傾く原因の中で多くを占めるのが「撤退の遅れ」だと言われています。その事業を維持発展させることは社内の努力だけではどうにもならないケースもあるため、適時適切な撤退判断は重要な経営者の仕事です。

社長は目指す思想やビジョンの実現には徹底的にこだわりながらも、そこに向かうアプローチは柔軟に変えるべきだとされています。抽象度の高い大義は堅持しながら、具体的な施策は適宜柔軟に見直すという意識の切り替えが求められます。

特に特定の事業を立ち上げた人に本気の意志がなくなったら、ほぼ間違いなくその事業は失敗するとも記載されています。事業のビジネスモデルや外部環境も大切ではあるものの、最後は人を見ることが必要とも言えるでしょう。

 

社長は人の輪の中で生まれ、孤独な人として育つ

複数人数のチームで起業する場合には、その人たちをまとめられる人が社長になります。その魅力がある社長は、本来的にメンバー間で仲の良い組織を運営したいという意思が働きます。社長は人の輪の中で生まれるのです。

ただ、その先に仲間からの裏切りや、仲間の願いや望みを断ち切らざるをえない厳しい意思決定を繰り返し経験していくうちに、どうやら同じ感覚で働く人はいないのだという認識に至ります。それがあらゆる社長を孤独に追い込む構造とも言えるでしょう。

一方で経営者として努力して成果を出したときには、まさにその立場だからこそ人一倍喜びが大きくなります。それが本書の副題である、「社長はつらい、だから楽しい」の私なりの理解です。

太古の昔から人は本能的に孤独に弱い生き物です。そのため、同じような境遇の経営者仲間や、社長の悩みに寄り添ってくれるこのような本は貴重な存在となります。

本書には、ここで触れた領域についてのより詳しい内容に加えて、資金、事業、出口戦略における悩みなどが描かれていて、どれもよく経営者が直面するものか、いかにも起こりそうなものばかりです。

本書を通読すれば、経営者の悩みをより詳しく理解できます。そして、社長や組織をうまく支えるか、自分自身で起業するか、既に起業していれば会社をより円滑に発展させるか、それぞれの活かし方をぜひ考えてみて下さい。

 

著者紹介

フライヤー(flier)

ビジネス書の新刊や話題のベストセラー、名著の要約を1冊10分で読める形で提供しているサービスです。通勤時や休憩時間といったスキマ時間を有効活用し、効率良くビジネスのヒントやスキル、教養を身につけたいビジネスパーソンに利用されているほか、社員教育の一環として法人契約する企業も増えています。(https://www.flierinc.com/)

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