1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3.  『バリバラ』を通して伝えたかったこと、今後さらにやっていきたいこと

生き方

 『バリバラ』を通して伝えたかったこと、今後さらにやっていきたいこと

望月大作

2025年06月29日 公開

世の中にはたくさんの名言や迷言、奇跡のような出来事が存在します。でもそれだけではありません。誰かの何かのきっかけになる言葉や行動は十人十色存在していて、それは飾らない何気ない言葉や行動だったりもします。誰がどんな言葉や出来事できっかけをもらったのか、些細なことから大きな出来事までさまざまな分野で活躍されている皆さんに伺いたいと考え、実際に伺ってきました。

第6回としてお話を伺ったのは、NHK大阪放送局で番組プロデューサーを務める空門勇魚さんです。難病で電動車いすを利用しています。大学やサークルの後輩でもある彼に、彼が長年携わった番組の最終回の話を中心に伺ってきました。

 

15年続いた意欲的な番組『バリバラ』が終わった

2025年3月に惜しまれながらも、NHK Eテレでひとつの番組が幕を閉じました。その番組は『バリバラ』。『バリバラ』は<生きづらさを抱えるすべてのマイノリティーにとっての"バリア"をなくすみんなのためのバリアフリー・バラエティー>で、2010年に空門さんたちがパイロット版を作ったところから始まり、約15年間続きました。途中空門さんは別の番組に携わる時期があったものの、2020年から再び『バリバラ』に携わり、最終回はプロデューサーという立場で見届けました。

『バリバラ』の最終回は前後編に分けて放送されました。この収録は、過去に『バリバラ』に出演した障害のある人たちや、制作に関わったスタッフなど約100人が国内外から大阪のスタジオに集まり行われました。

スタジオの雰囲気について、空門さんはこれまで携わったどの収録よりも"異質な雰囲気"だったそうです。「最終回を盛り上げようという熱量だけでなく、番組が終わってほしくない!という想いが交錯し、言葉で形容しがたいエネルギーが渦巻いていた」と言います。

 

『バリバラ』という番組と熱量の正体

最終回の中で番組のご意見番・玉木幸則さんは、「『バリバラ』は、役に立つとか役に立たないではなくて、あなたはあなたで生きとったらええんやっていう至ってシンプルなことを15年間通してずっと言い続けてきたんだ」と言いました。

そんなメッセージをさまざまなマイノリティー性のある方たちが、時に体を張って、時にずっと胸の内に秘めてきた本音をカメラの前で初めて打ち明けてきたことが、番組が続いた原動力だったと空門さんは言います。

「『バリバラ』は作り手側の意図や思い、熱意だけでは絶対に成立しない、むしろ逆で、番組に出演してくれる人たちの「こんなことを発信したい」という発意と覚悟をもって成り立っていたと思います。」

出演者の多くは、一般の方たち。障害やセクシュアリティー、人種やルーツなどが、いわゆる"日本社会におけるマジョリティー"でないがゆえ生じる、理不尽や不利益、差別や偏見を少しでも解消したいという思いを番組で発信します。一方、番組で自分の置かれている現状や、それについてどう思っているかを語るのはリスクを伴います。放送後、SNSなどでのバッシングやヘイトスピーチといった心ない言葉を浴びせられる可能性はゼロではありません。

「そうしたリスクも背負い"一世一代の大勝負"と覚悟を決め、一緒に番組を作ってくれた人たちが積み上げてきたものが、番組の最大の財産であったし、功績だと思います。出演された皆さんが、この番組を自分ごととして捉え、愛してくださっていたからこそ、最終回の収録現場には"盛り上げたい"という思いと、"終わって欲しくない"という思いが交錯し、独特の熱が生まれたように感じました」と空門さんは語ってくれました。

 

最後に『バリバラ』の最終回に登場した空門さんはある疑問を投げかけました。

「近年、障害のある人たちが活躍する場が増えているが、制作サイドでは重度の障害がある人がまったく現れない。」以前空門さんに話を伺った際も、福祉番組を放送しているNHKでさえ、なかなか自分以降、番組制作に取り組む重度の障害があるディレクターやプロデューサーがいないと語っていたことを思い出しました。

最終回の中ではロールモデルがいないから、そのロールモデルを空門さん自身がもっと目指すべきじゃないかという趣旨のアドバイスもありました。一方で『バリバラ』の企画がきっかけで、ファッションやドラマなどの世界で活躍する障害のある人たちも紹介していたことは非常に印象的な対比になっていました。

空門さんは言います。「少し前から"多様性を認め合う社会を実現しよう"とさまざまな場面で言われるようになりました。(バリバラが始まった)15年前は"重度の障害がある制作者"という立場が珍しいことは自分のメリットだと考えていたが、キャリアを重ねるにつれ、逆に自分以外に同じ立場の人間がいない状態が続く状況は不健全なんじゃないかと。テレビ局などメディアで働くことが選択肢の一つとして当たり前になって欲しいし、"いわゆる健康な人"と同じ働き方をしようと無理して働くといったことがないよう、職場環境や制度を整備していくなどまだまだやることがたくさんあると課題を口にしてくれました。

「みんなのためのバリアフリー・バラエティー」を作ってきた男は、制作現場もアップデートしたいと動き始めています。

著者紹介

望月大作(もちづきだいさく)

Webマガジン「まえとあと」編集人

1982年生まれ、京都府出身。同志社大学大学院修了後、複数の企業勤務を経てフリーランスに。編集・執筆・企画などを手掛けている。ほかにレグザ「みるコレ編集部」編集長も務める。

関連記事