Netflixは自由に経費が使える? チームに革新性を生む「引き算経営」とは
2025年09月09日 公開
Netflixでは、休暇や経費に細かい規定がなく、個人の裁量で取得できるそうです。この自由さが、Netflixにスピード感とイノベーションをもたらしていると、コーチング.com株式会社代表取締役の垂水隆幸氏は言います。Netflixのような無制限自由とはいかなくとも、形骸化したルールを削減することによってチームに余裕を持たせ、結果的にイノベーションを生むことは期待できます。垂水氏が上梓した『Calling』より、上手なルールの引き算方法と、そのメリットについて解説します。
※本稿は『Calling』(かんき出版)より一部を抜粋編集したものです。
Netflixが実践する「無期限休暇」「自由経費」
Netflixは「自由と責任」を掲げ、社員に最大限の裁量を与える代わりに成果へ責任を持つ風土を育んできました。創業者のリード・ヘイスティングスは、「革新的な事業には厳格すぎるルールは不都合が多い。秩序を保ちつつも自由な発想を促すには、管理より信頼を優先することが不可欠だ」と強調しています。
実際にNetflixでは、休暇ポリシーや経費精算の規定など、企業で一般的に細かく定められがちな部分を大幅に簡素化し、社員一人ひとりの自律に委ねています。
たとえばNetflixでは、社員が自由に休暇を取得できる「無制限休暇」を導入しています。これは「勤務時間を細かく管理しないなら、休暇日数を一律に制限する必要もない」という発想に基づいており、実際に上司の事前承認や規定日数の制約はほとんどありません。経営陣も積極的に長期休暇を取得して手本を示し、社員が遠慮なくリフレッシュできるよう配慮しています。
制度開始当初は「社員が自由に休みすぎるのでは」という懸念もあったものの、実際には仕事の質や成果に悪影響は見られず、むしろ主体的な働き方を後押しする結果となりました。
経費規定についても、Netflixでは「Netflixの最大の利益になるよう行動する(Act in Netflix’s Best Interest)」というシンプルな一文を軸に据えています。出張費や接待費などの細かい基準は設けず、社員が自ら「これは会社にとって有益か」を判断し、必要であれば自由に経費を使う仕組みです。
もちろん不正には厳しく対処しますが、煩雑な承認フローを排除することでスピード感のある意思決定と自主性を育てています。
“引き算経営”は「革新性」「競争力」が生まれやすくなる
Netflixがこうした“ルールの引き算”を徹底した背景には、社員を「大人として扱う」ことで生まれる以下のようなメリットが大きく寄与しています。
ルール削減のメリットとしてまず挙げられるのは、社員の創造性とオーナーシップの向上です。細かな規制に縛られず、自分の判断で行動できるため、自然と「自分の仕事は自分が責任を持つ」という当事者意識が高まります。こうした風土では、新しい企画やアイデアを自主的に生み出しやすくなり、サービス改善やコンテンツ制作においても革新的な取り組みが生まれやすくなるのです。
次に、承認フローの削減や自主判断の促進は、組織全体の意思決定を迅速化し、機動力を大幅に高める効果をもたらします。休暇取得や経費使用などの局面で承認を仰ぐ手間が省かれるため、業務上の判断や行動に迷いが生じにくくなります。
特に、競争が激化するストリーミング市場では、早さが勝敗を分ける局面が多々ありますが、Netflixでは“少数精鋭で素早く動ける”体制を整えることで、市場機会を逃さずに対応していると言えるでしょう。
また、細かいルールや申請書類を取り払うことは、管理業務そのものを削減し、生産性を高めることにもつながります。経費精算や勤怠管理に要する時間と手間が大幅に減ることで、管理部門だけでなく現場のチームも本来の業務に専念できるようになりました。
全社員が余計なプロセスから解放される分だけ、より創造的なタスクにリソースを回せるようになるのです。
さらに、自由と責任を重視する文化は、優秀な人材にとって魅力的な就業環境でもあります。実力と裁量が発揮しやすい組織として評価されることで採用力が高まり、入社後は細部まで管理されるのではなく成果への責任を負う風土が浸透するため、メンバー同士が刺激し合いながら競争力のあるチームを形成しやすくなります。こうして生まれるポジティブな循環が、企業文化を一層強固なものへと育んでいるのです。
「プラス」でなく「マイナス」を検討する
多くの企業では、イノベーションや自主性を促すために、新たなフレームワークや制度を“足し算”的に導入しようとします。しかし「導入はしてみたものの、結局形骸化してしまった」という声を耳にする例も少なくありません。
なぜ形骸化が起こるのかを突き詰めると、実は既存の“道具的理性を助長する仕組み”がそのまま残っていることが多いのです。たとえば過剰な承認フロー、古いままの評価指数、提出することだけが目的になっているレポート類……こうした手続きの名残が組織のあちこちに温存されていると、どんなに新制度を導入しても、結局は「数値目標さえクリアすればいい」「とにかく上の承認をもらっておかないといけない」という従来の空気が抜けません。
すると、メンバーはまだ試してもいないアイデアを「どうせ認められないだろう」と諦め、主体的な行為(Action)が封じ込められてしまうのです。だからこそ、まずは新たな制度やツールを“足す”のではなく、「どれだけ"引き算"ができるか」を検討する必要があります。
上手にルールを“引き算”していくポイント
いざ不要な仕組みや作業を取り除くとなると、思わぬところで混乱を招いたり、本当は必要な要素まで削ってしまったりする恐れがあります。以下のポイントを念頭に置けば、むやみに定型業務を廃止することでトラブルを起こすリスクを下げつつ、効果的に行為(Action)の領域を広げる道が拓けてくるはずです。
1.対象となる業務が行為(Action)の領域を抑圧しているかの検証
報告作業や定例会議など、そこに時間とエネルギーを取られることで「新しいことを考える余裕がない」と思わせていないでしょうか。もしそうなら、削除や簡素化を検討する余地があります。
2.対象となる業務が継続している経緯を十分把握しているか
その仕組みがいつ、どんな目的で始まり、なぜいままで続いてきたのかをきちんと調べる必要があります。かつては重要な役割を果たしていたものでも、現在の状況では不要になっている可能性もあります。背景を理解したうえでないと、むやみに廃止して思わぬ混乱を招く恐れがありますので、慎重に見極めたいところです。
3.労働や仕事として有益性を持っているかどうか
不要に見える業務が、実は安全確保や品質維持などで重要な役割を果たしているかも知れません。形だけの作業だと断定する前に、「本当に無駄なのか」「気づきにくい効果を持っていないか」を問い直してみてください。それによって、残すべき最低限の手続きを正確に把握できます。
4.重要性や付加価値が低く、代替手段が存在するか
週に一度の報告書が形式化しているなら、もっと簡単なオンラインツールやミーティング方法で代替できないかを検討してみてください。読まれていない書類をずっと作成し続けるより、代わりの手段を用いるほうが負担軽減につながり、そこから生まれた余裕を行為(Action)に振り向けられるようになります。
"報告書の廃止"といった小さな削減策であっても、メンバーの心理的負担が軽くなり、その分だけ「新しいことを試してみよう」と思う時間やエネルギーが生まれます。組織全体で見れば、大きな投資も特別な制度変更もしていないのに、意外なほど空気が変わり始めるケースは少なくありません。