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仕事

漫画『宇宙兄弟』から読み解く、優秀なチームを育むための秘訣

長尾彰(組織開発ファシリテーター)

2025年10月03日 公開

「よいチームがよい仕事を生むのではなく、よい仕事(の仕組み)が、よいチームを育てる」。組織開発ファシリテーターの長尾彰さんは、現場でこう伝えています。

チームビルディングを目的化させないために必要なのが、「仕事を通じてチームを育む条件」です。これは抽象的な考え方ではなく、具体的に16の項目に整理されています。

すべてを満たさなければならないわけではありませんが、当てはまる項目が多いほど、よいチームをつくりやすい環境が整います。

16の条件は「協働」「状況設定」「目標/ゴール」「フロー」という4つの視点に分類されます。本稿では、「協働」「状況設定」の2つの視点から、8つの条件を解説します。

※本稿は、長尾彰著『宇宙兄弟 「制約主導」のチームワークで、仕事が面白くなる! チームの話(Gakken)を一部抜粋・編集したものです。

 

協働の視点

条件1 ひとりでは達成できない
条件2 全員で協力せざるを得ない
条件3 メンバー同士が仕事を通じて何を共有したか、明確になっている
条件4 対話を通じてお互いの意見を共創できる

【条件1、2】は、言葉どおりになってしまいますが、ひとりでは達成できない、お互いの力を貸し借りしないと、目的が達成できないという状況です。

ISSや月面でのミッションは、宇宙飛行士たちの協働が必要不可欠なので、まさに当てはまるといえるでしょう。ひとりきりの作業では完結しないという仕事の仕組みそのものが、チーム化しやすい環境になっています。

逆に、ひとりの職人が鍛錬した技術によって黙々と作品や製品を生み出すような環境では、自然とチームが生まれることは難しいと思います。これはあくまで「チームづくり」という視点での話です。是非は関係ありません。

このふたつの条件に関してはイメージしやすいので、あまり詳しい説明はいらないと思いますが、現実的には少し曖昧な部分があります。たとえば、伝票処理などの事務は、ひとりで達成してしまえると思いがち。

「自分の仕事はひとりでできることだから、チーム化とは無縁だな」
そう感じるかもしれません。でも実際は、伝票処理をするためには営業が売り上げを立てる必要があります。さらにはその営業活動をバックアップする人たちもいるでしょう。

「ひとりで達成できている」「自分の力だけでやれている」という考え方は、個人プレイなら仕事の習熟度が上がり自信にもつながることかもしれませんが、「わざわざ他人と協力しなくても、そんな仕事(作業)はできるだろう」という考え方はチーム化を阻害します。

【条件3】の「メンバー同士が仕事を通じて何を共有したか、明確になっている」は、目標を達成したときだけでなく、その過程で何が起きてその結果どうなったかを、メンバー全員が理解し、チームとして何を得ることができたかを確認できる機会を指しています。

イメージしやすいよう会話でたとえるならば、クライアントに納品したあと、
「いやあ、今回は大変だったね。すごく疲れたけど、私たちがしたことは結果的に〇〇の役に立っているよね」
「今回のやり方だと、こういう結果が出るって、やってみてはじめてわかりました」
「そういえば〇〇については、今後はもっと改善すべきだと感じたよ」
「それは私も感じた!」
といった会話が持てるか、
「やっと終わった。じゃあ、お疲れさまでした」
で、終わりにしてしまうかの違いともいえます。

【条件4】の「対話を通じてお互いの意見を共創できる」というコミュニケーションスタイルは、チームづくりにおいてとても大切だと感じています。

「会話」「議論」「討論」も大事なのですが「お互いを理解する」という深いレベルでの関係を築くには、「対話」が必要です。
ちなみに「会話」とは、たとえば「おはよう」と言われたら「おはよう」と返す、関係性をつくるためのやりとりです。「議論」とは、複数人であらかじめ議題にあげられたA案かB案のどちらかを決めること。「討論」は、A案とB案のどちらが優れているかを、発話の当事者ではなく聴衆が決めること。

そして「対話」は、「私も正しく、あなたも正しい」という前提に立って、相手の話を聞くことを通じて自分の考えの変化を受け入れること。
対話をするためには、物事を短絡的に判断するのではなく熟慮しながら「保留」にすることも必要です。たとえば、後輩から相談された事案に対して、起きていることの確認や原因の所在を熟慮せずにすぐ解決策を教えるのは、対話とは言えません。

「何があったの?」「どう思っているの?」「あなた自身はどうしたいの?」「私に何ができるかな(何をしてほしい)?」ここで必要なのは、あなたの正解や正論ではなく、相手の考えを理解しようとする姿勢です。


NASA を去り、ロシアで宇宙飛行士としての再起を図る日々人。マクシムは当初、日々人の存在を拒絶していましたが、日々人がパニック障害を打ち明けたことをきっかけに、信頼関係を築いていきました。サバイバル訓練中、「NASA をどう思ってんだ? そう簡単に許せるもんじゃないだろ」というマクシムの言葉に、静かに思いを語る日々人。「対話」の機会をつくることで相互理解が深まり、チームが育まれていきます。(宇宙兄弟ⓒ小山宙哉/講談社31巻#287)

 

状況設定の視点

条件5 制限(お金・時間・道具・人材)が明確になっている
条件6 「テーマ」を体感・実感できる
条件7 チームの「WHY(なぜやるのか)」が明確になっている
条件8 自分の考えを整理するための「省察(振り返り)」と「観察」の機会が、十分にある

次に、状況設定の視点について説明します。【条件5】では予算や設備、納期といった制限が明確になることで、「限られた条件でどう目標を達成するか」という思考がメンバー内に生まれます。

倉庫がひとつしかなければ、どうやってロスを減らし、在庫管理するかを考えるようになりますが、予算の制限が一切なく自由に倉庫を拡張してもよいとなれば、「在庫管理をしよう」とすら思わなくなりますよね。

サッカーは、「手を使ってはいけない」「11人でプレイする」「時間は90分」といったシンプルな制約があるから、多くの人を夢中にさせます。しかも、ひとりではゲーム(達成)はできません。制約があるからこそ、「ではどうしよう」という工夫や他者との協働が生まれます。

【条件6】の「テーマ」とは、その人が仕事を通じて伝えたいことや意味です。
本人が考え決めることができればベターですが、チームのリーダーやメンバーがその仕事(作業)の意味を伝えてあげるだけでも主体性を促すことができます。

「あなたが在庫を管理してくれると、現場は安心してものづくりに集中することができます。だからあなたの仕事のテーマは、過不足なく在庫の数を一定にすることだけではなく、現場が安心して生産できる環境を整えることなのです」
「ただ形式に従った書類を作成しているだけと思うかもしれないけれど、あなたの仕事には、その書類を見れば誰もがその作業が実行できるという、大事な役割があるんだよ」

このように「今やっている仕事には、テーマ(意味)がある」ということを伝えることも体感・実感につながります。

また、メンバーそれぞれの仕事にテーマがあるように、【条件7】のチームにとっての「WHY(なぜやるのか)」をメンバー全員が理解・共有することも大切です。

【条件8】の「省察」とは、起きた出来事をじっくりと振り返ること。「観察」は、何が起きているのか対象や周囲をじっくり観ることです。

自分の仕事を振り返る時間や環境があり、それと同時に周囲のメンバーに対しても関心を向けることができると、チームのなかで次のような会話が生まれてきます。

「どう? 〇〇はうまくいってる? なんか大変そうだね」
「じつは、ちょっとトラブルがあって悩んでいます」
「そうなんだ、どうしてそうなったの?」
......と会話は続き、「どうしたらいいと思う?」「こうしてみたら?」「ちょっとやってみます」といった対話の機会を持つことができますよね。

「できなくて困っています」と言える環境や関係性は、チームに心理的安全性をもたらします。

協働の視点と状況設定の視点がそろうと、チームは自然と主体性と安心感を持ち、強い成果を生み出していきます。

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