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ハラスメントが起きやすい職場の特徴は? 深刻な「腹をわって話せない」環境

村井真子(社会保険労務士)

2025年09月24日 公開

セクハラ、パワハラ、マタハラ......多様な"ハラスメント"が問題視される現代。けれど、その根本には必ず人間関係があり、誰もが「加害者にも被害者にもなり得る」と社会保険労務士の村井真子さんは指摘します。
本稿では、先行研究や相談現場の知見を踏まえ、ハラスメントが生じやすい職場に共通する特徴を書籍『職場問題ハラスメントのトリセツ』より解説します。

※本稿は、村井真子著『職場問題ハラスメントのトリセツ ~窮地の前に自分を守る、取るべきアクションと相談のポイント』(アルク)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

ハラスメントが起きやすい職場

さまざまな企業でハラスメントに関する相談を受けるうち、ハラスメントが起きやすい職場には一定の特徴があると感じます。ハラスメントが起きやすい職場環境についての先行研究(注1)や調査(注2)の結果を参照しながら、私が相談を受けてきた職場の共通項を紹介します。

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1. 不公平な職場
2. プライベートを犠牲にさせる職場
3. きつい職場
4. バランスの悪い職場
5. 腹を割って話せない職場
6. ハラスメント教育がされていない職場
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では、一つずつ見ていきましょう。

 

1. 不公平な職場

合理性のない人事異動や転勤、配置転換が頻繁に行われたり、上司や経営者の裁量で一方的に人事に関する処遇が行われていると労働者が感じている職場では、ハラスメントが発生しやすい傾向があります。こうした職場では、企業の人事権が人質のように作用してしまうためです。

また、不透明な評価基準によって昇給・昇格、降給・降格が行われている場合、労働者が企業に対し不信感を覚え、その不信感をハラスメントとして別な労働者にぶつけてしまうというケースもあります。

 

2. プライベートを犠牲にさせる職場

親睦目的の社内行事や飲み会は自由参加であるはずですが、事実上の強制参加になると、ハラスメントが発生しやすい傾向にあります。リクルートワークス研究所の調査(注1)では、「業務外の職場でのイベント参加(飲み会など)を断りにくい雰囲気がある」職場が、すべての項目の中で、ハラスメントを見聞きした確率のトップになりました。

こうした職場では、参加することが当然とされ、参加しないことによって不当に低い評価を受けることがあります。それが周囲にも受け入れられてしまうので、職場ぐるみのいじめにつながりかねません。暗黙のうちに肯定してしまう社風はハラスメントの温床になります。

 

3. きつい職場

KPI(重要業績評価指標)として定量的なノルマを課している、人命に影響する、多人数の利害関係者の調整が必要であるなど、一人一人の行動に対するプレッシャーが強くかかる環境は、ハラスメントが発生しやすいことがわかっています。

また、そうした職場は属人的な業務が多くなりがちで、残業時間が増える傾向があります。事実、労働者がハラスメントを見聞きしている業種としては医療・福祉業、公務がそれぞれ26%を超えており、次いで金融・保険業、製造業の23%と続きます(注2)。

これらの職場では責任が重かったり、成績を競うことを社員同士で求められたり、部署のKPI達成を連帯責任によって達成することが要求されます。プレイヤーとして結果を出すことが強く求められ、労働者を精神的に追い詰めます。

 

4. バランスの悪い職場

男性ばかりで女性が少ない、育児や介護をしている社員が少ない、中途入社が少ない、社員の年齢層が一定の世代に偏っているなど、社員の属性のバランスが悪い職場ではハラスメントが生じやすくなります。

こうした職場ではマネジメントコストが低下して企業側としては管理しやすいのですが、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)も強化されやすい環境でもあります。また、同調圧力も働きやすく、社内における「べき論」に疑問を持ちにくくなります。無理になじもうとすることで、前述2や3の職場になることもあり、その軋轢がハラスメントとして現れてきます。

 

5. 腹を割って話せない職場

上司や同僚に本音を話せない、上司と部下のコミュニケーションが少ない職場では、ハラスメントが生じやすくなります。これは単純な会話量の問題ではなく、コミュニケーションの質や信頼関係の構築に深く関わっています。互いの考えや気持ちを共有できない環境が続くと、相手の意図や状況を誤解したり、不満や不安が蓄積したりしやすくなります。

その結果、いざトラブルが起きたときに話し合いや協力がスムーズに進まず、感情的な対立が起きるリスクが高まるのです。また、ハラスメントが生じたときに上司や同僚に相談されないことによって事態の把握が遅れ、状況が悪化してしまうこともあります。

 

6. ハラスメント教育がされていない職場

パワハラ防止法の改正によって、現在、すべての職場でハラスメント対策は事業主の義務になりました。対策には事業主がハラスメントを許さないことを方針として明示するほか、ハラスメントの発生の原因や背景について周知・啓発することが含まれます。

しかし、この義務規定には罰則がないこともあり、実際には十分なハラスメント教育が行われていない企業も存在します。対策をしている企業でも一度研修をしただけ、パンフレットを配っただけという場合は、ハラスメントについて知識を労働者に適切に提供しているとは言い難い状況です。

ハラスメント教育がまったくなされていない企業は「そもそも何がハラスメントなのか」「どういうことが該当するのか」といった目線が企業内でバラバラになり、ハラスメントが横行する事態が生じます。さらに、こうした基本的な法令に対応することができていない企業では、コンプライアンス遵守がなおざりになりやすく、ハラスメントだけではなく労働基準法(労基法)などの基本的なルールも守られていない傾向にあります。

 

特に深刻なのは「5. 腹を割って話せない職場」です。ハラスメントに発展しかねないトラブルがあったとしても、当事者間の対話で解決することは多々あります。しかし、対話に持っていくことも不可能なほど関係性に断絶があると、訴訟も含め、深刻な事態になることもあります。これは、職場内に信頼関係がないことが原因です。

ハラスメントに悩んでいる経営者や人事担当者、管理職のみなさんにはぜひこの職場の要件に自分の職場が該当していないかを確認し、改善に向けて取り組んでほしいと思います。

 

注1:「職場のハラスメントを解析する(JPSED分析報告書2020)」リクルートワークス研究所
https://www.works-i.com/surveys/item/harassment_2020.pdf

注2:「令和二年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書」東京海上日動リスクコンサルティング株式会社
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000775817.pdf

 

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